嫁でも家族でもないから! 3
スキルと魔法が混ざっていたので修正しました。
今回、違いの説明があります。
魔力吸収が神獣の巫子のスキルで、バフとデバフが無属性魔法になります。
「クレイグ、なんの話だ」
やばい。すっかり興味を持たれてしまっている。
「おそらくレティシアは身体強化の魔法を持っているんです。それに敵の動きを封じる魔法もあるみたいなんですよ」
「なに!?」
「まあ!」
もっと考えてから話そうよ、自分。
でも生まれて初めて結婚話なんてされたから、動揺しちゃったんだよ。
スキルを持っている人はこの世界にはけっこういるらしいんだけど、それは長年同じ仕事をしたり訓練をしたりして得るものなんだって。
だから騎士や兵士が防御スキルや攻撃スキル、身体強化のスキルを持っているのはよくあることなのよ。
で、魔法のほうは、魔力の使い方を修行して呪文を覚えれば、自分の属性の魔法であれば誰でも使えるようになるらしい。
ただ魔力ランクが高くないと強い魔法は使えないし、魔力量が少なくてはすぐに魔力切れを起こしてしまって役に立たない。
だから魔道士になれる人は限られてくる。
「無属性魔法は身体強化なのか。それと敵の弱体化?」
「そうなんですが、レティシアはそれが騎士団の役に立つと考えているんです。つまり……」
「つまり?」
「自分にだけではなく他人にもかけられるのではないでしょうか」
「まあ!!」
クレイグの言葉への反応の大きさにびっくりよ。
デリラは両手で隠した口を大きく開けたまま固まっている。
ラングリッジ公爵は眉間に皺を寄せてきつい目つきになり、身を乗り出して声を潜めた。
「知っている人間はどれくらいいるんだ?」
「自分への身体強化や、敵の動きを封じる魔法をかけるのは多くの人が見ています。しかし、他人に身体強化を使えることを知っている人間はまだいません。ただピアーズは俺と同じ情報を得ていますから、少し考えれば気付くでしょう」
「あの男は平気だろう」
そんな秘密にしないといけないような魔法なの?
急に声を潜めて話すようなこと?
「あの侍女は今、知ってしまいましたね」
全員の視線がヘザーに向けられた。
なんなの、この人たち。
「私の侍女に対する態度には気を付けていただきたいです」
公爵一家に睨まれるなんて、ヘザーにとっては恐怖体験でしかない。
急いで彼女を庇える位置に立ち、両手を水平に広げた。
「申し訳ない。巫子が信用している者ならばよいのだ。だがこれは重要な問題だ。多くの者に身体強化の魔法をかけられるならば、軍隊の戦力が急激に跳ね上がることになる。国の勢力図がひっくり返る危険のある魔法だぞ」
「いやいや、待ってください。ラングリッジ公爵、ちょっと落ち着いて」
「ましてきみは、相手の動きを遅くも出来るだろう」
「クレイグ、警護をさらに強化するべきだ。他国がさらいに来てもおかしくない」
「少しは私の話を聞いて!」
ラングリッジ公爵とクレイグの間に割り込んで叫んだ。
「私の魔法は戦争には活用できません。なぜなら効果時間が二十分しかないからです」
「……なんと」
「二十分……」
二十分って決して短い時間ではないよね。
でも私に魔法をかけてもらって最前線まで行って戦って、魔法が切れるまでに戻ってくると考えると、戦闘できる時間はかなり限られてくる。
「それに乱戦には向きません。範囲で魔法をかけたら敵にも強化魔法がかかってしまいます」
ゲームだったら味方だけクリックすれば魔法をかけられるけど、現実にはそんなに便利な機能はない。
魔法をかけるほうもかけられるほうも、どういう使い方をするのが適しているのか、これから確かめなくちゃ駄目なのよ。
「戦闘中に効果が消えた時に慌てないようにしないといけませんし、防御力が高まっている時の戦い方にばかり慣れては危険です。この魔法の運用は難しいと思いますよ」
「それは訓練次第だ」
クレイグとラングリッジ公爵は真顔で頷き合っている。
敵の防御力や攻撃力をさげられる魔法もあるって話したら、大喜びされるんだろうな。
いずれはわかることなんだけど、彼らがあまりに真剣だから話すのをためらってしまう。
「ともかく、この魔法は結界を強化するためだけにしか使いません。それが終わったら封印しますので、私を嫁にしても意味がありませんから。じゃあ私は忙しいので。ヘザー行くわよ」
「はい」
部屋を出て、ヘザーと一緒に安堵のため息をついてしまった。
魔法の話が出るまでは冗談で済ませられると思っていたけど、ラングリッジ公爵もクレイグも目がマジなんだもん。
貴族の結婚は政略結婚がほとんどだってくらいは私だって知ってるし、公爵家に正式に申し込まれたらカルヴィンは断れる立場じゃないのもわかっている。
でもこれに関してだけは、神獣の巫子の権限を最大限に活用させてもらうわよ。
私は結婚なんてまだまだ考えられないの。
「カルヴィン様に相談されたほうがよろしいのでは?」
ヘザーに言われて曖昧に頷いた。
彼にこれ以上の心配事は増やしたくはないんだけど、黙っているのもまずいよなあ。
ラングリッジ公爵から聞いて初めて知ったなんてことになったら最悪だから、やっぱり私から話しておこう。
この世界に移動した時に、最後に女神に無属性の魔法は何がいいか聞かれたのよ。
でも急にそんなことを聞かれたってさ、この世界のことをわかっていないから答えようがないでしょう。
私にわかっているのは結界を強化しないといけないことだけだった。
聖女が結界を強化しに行くのなら、護衛がつくでしょう?
魔獣がいるのなら戦闘だってあるでしょう?
傷を癒す魔法は聖女が持っているって言うから、じゃあパーティーに必要なのはバッファーじゃない?
自分にも強化魔法がかけられるならレティシアの体でも戦えるかもしれない。
そう考えたらバッファー一択でしょ。
敵を弱体化させる魔法のほうはおまけみたいなものだ。
オグバーンのせいで普段より強い魔獣が増えているのなら、被害を少なくするためにあったほうがいいと思ってダメもとでたのんでみた。
敵を弱体化させるデバッファーも玄人っぽくて好きだったしね。
それが物議を醸すことになったとしても、魔素病の存在を知った今は、もらっておいてよかったと思っている。
ただでさえ、精神的にもきつい戦いを強いられているんだ。
少しでも傷つく人を少なくしたいじゃない。
その日の作業が終わり屋敷に戻り、夕食中にカルヴィンにラングリッジ公爵から嫁に来いと冗談半分で言われたという話をした。
夕食の席にはフルンとアシュリーもいたので、一度に話が出来るのはありがたい。
「それ、冗談じゃないよ。公爵家の長男の嫁の話題を軽々しく出来るわけないだろう。クレイグがレティシアに近付くのは魔素病の治療のためかと思っていたのに、そんな魔法まで持っていたなんて。公爵家としては、何が何でも手に入れたい人材になってしまったな」
「でも結婚なんてしなくたって、結界強化のために協力するって前から言ってるのに」
「気に入られたんだろう」
いちおう公爵家なんだからさ、もっとちゃんとした御令嬢を選ぼうよ。
クレイグなら選び放題なんじゃないの?
「なにも深刻に考えることはない。いやなら断ればいいし、結婚する気があるならすればいい」
「フルンの言う通りだよ。いやだというのに無理強いしようとするのは眷属を敵に回すことになるって、彼らはわかっているよ」
心強いわ。
まさか結婚問題が浮上してくるとは思っていなかったから、驚きが大きくてきっぱり断れていたかどうかよく覚えていないのよ。
「それにしても危険な魔法だな。敵の攻撃力や防御力を下げられるというのは、まだクレイグは知らないんだな」
たいしたことじゃないという見解の眷属とは違って、カルヴィンのほうは食事の手を止めて考え込んでしまっている。
「移動速度を落とせるのは見ているから、察しているかもしれない」
「妙な噂が流れる前に、詳細をきちんと発表することも考えたほうがいいかもしれない。軍隊で活用できる魔法だと誤解された場合、国際問題になりかねない」
ひええええ。
ほんの思い付きでもらった魔法がそんな大問題になるなんて思っていなかった。
二十分制限をつけると決めてくれた女神に感謝よ。
ゲームでは一回の戦闘終了時か時間でバフが切れるのは当たり前だから、そんなもんだと甘く考えていたわ。
「普通に考えて、ひとりの人間が軍隊全体を強化できる魔法を持っているなんてありえないでしょう」
「神獣の巫子は普通の人間じゃないだろ?」
そうだった。
普通ではなかった。
「じゃあこうしましょう。結界の強化が完了したら、この魔法は使えなくなると説明するの。だからって結界の強化をしないわけにはいかないでしょ?」
「なるほど。それはいいかもしれない」
だけどさ、結界が崩壊して世界に魔獣が溢れかえるかもしれないって時に、戦争のための戦力拡大なんて本当に考える?
そんなやつしかいないのなら、この世界を守ることになんの意味があるんだろう。
女神との約束は守るわよ。
守るけどさ……。
「お食事中に失礼します。副団長が巫子に面会したいそうなんですがよろしいでしょうか」
クレイグが来ていることをアビーが知らせてくれたのは、のんびりと食後のお茶を飲んでいる時だった。
カルヴィンは仕事があるのですでに退席していて、部屋には私とフルンとアシュリーしかいなかった。
「どうぞ」
クレイグが警備のために屋敷にいるのなんて珍しくもないから、特に何も考えないで了承してから昼間の会話を思い出した。
結婚ねえ。
あの家族は一緒にいて気楽だけど、だからってスキルや魔法目当てで口説かれてもなあ。
「……レティシア」
「なに? なんでそこにずっと立っているの?」
まだ制服姿のままのクレイグは、戸口に突っ立ったまま中に入ってこようとしない。
「出来ればふたりだけで話をしたいんだ」
眷属ふたりを前にして、帰ってくれって言っているようなものよね。
それに、ふたりだけって駄目なんだよね。
未婚の貴族の令嬢は男とふたりだけになっちゃいけないんじゃなかった?
「それってどうなの? こんな時間だしまずいんでしょ?」
「リムがいれば平気じゃないか?」
「あれ? フルンいいの?」
フルンが立ち上がったので、アシュリーが意外そうな顔をした。
「その男は下手なことをしたらどうなるか理解している。リム、クレイグがレティに必要以上に近付いたらやっつけてやれ」
「まかせて」
窓際のソファーでお腹を出してくつろいでいたリムは、嬉しそうに飛び起きていつでも飛び掛かれる体勢になった。
「なるほど。それなら安心だね」
え? ふたりとも行っちゃうの?
私は別にふたりがいてもいいんだけど。
「なんの話? 今じゃないといけないの?」
「昼間の詫びと、誤解されているようなので話しておきたいことがある」
うーん。雰囲気的に真面目な話なのかな。
「わかったわ」
ここでためらっては女がすたる。
どんと構えて話を聞いてあげましょう。




