お誘い①
また『予知夢』を視ていると気付けたのは、以前に1度似た光景を見ていたからだ。ベッドの上で丸くなる私の首や手首、足首に嵌められた枷を外したリアン様は私を抱き起こすと仰向けに倒れた。私を乗せて重い筈なのに、リアン様は蕩けてしまいそうな甘い笑みで私を見つめていた。
「フィオーレ。逃げるなら今だぞ」
「……」
『予知夢』の世界の私は何も言わない。俯いて黙ったまま。
「何度も此処から逃げ出そうとしていたじゃないか。今フィオーレが逃げるなら俺は捕まえない。どうする」
以前に視た時、リアン様に怯えていた私はいなくなっていて、今目の前にいる私は俯いたままかと思えば徐に顔を上げた。
「酷い……酷い人……、私を逃がさないと言って何度も抱いたのに……今になって……そんなこと……」
顔を上げた私の瞳から幾つもの雫が流れ落ち、下にいるリアン様の頬に落ちていく。
「側に……いたい。リアン様の側にいさせて……」
「フィオーレ」
「リアン様が……私をリアン様から逃げられなくしたのに、リアン様の側を離れるなんて今更出来ない……」
「……じゃあ、ずっとこのままでいいんだな?」
問われ、受け入れた私を見上げるリアン様から微かにあった不安の色は消えた。上体を起こし、私を押し倒したリアン様の背に回された腕は今の私より白く細い。私を呼ぶリアン様の声、リアン様を呼ぶ私の声はどちらも相手を求め恋焦がれていた……。
「ん……」
リアン様に気持ちを伝えて、王女殿下が現れた昨日。王太子殿下が王女殿下を連れて去った後、私はリアン様の付き添いで家に帰った。別れる間際、後日ロードクロサイト公爵と共に来ると言われて。
屋敷に入ると私を心配して戻るのを待っていたお義母様が迎えてくれた。何もなかったかと聞かれ、黙ったままではより心配を掛けてしまうと痛感している私は隠さず起きた出来事を話した。お義母様は頭を抱えていたものの、2度と王女殿下が姿を現すことはもうないと発した。
それとリアン様との婚約について切り出した。
『お義母様……私……リアン様と婚約したいです。リアン様のことがずっと好きでした』
後日ロードクロサイト様とエーデルシュタイン家を訪ねる旨も伝えると。
『なら、詳しい話はその時に聞きましょう。私は反対しない。フィオーレがリアン様を好きなのは解っていたから』
『え』
『貴女気付いているか分からないけれど、子供の時からリアン様と同じ場所にいたらずっとリアン様を見ていたもの。気付かない訳ないじゃない』
自覚はある。同じ場所にいる間だけでもっていつもリアン様を見ていた。リアン様の側には王太子殿下がいる方が多かったことも知っている。誰かに指摘されると途端に恥ずかしさが生まれ、顔を真っ赤にした私を見つめるお義母様の目が優しくて温かい。
『恥ずかしがらなくて良いの。王女の件で婚約を渋っていた旦那様もきっと了解してくれる。さあ、部屋に戻って休みなさい』
「リアン様……」
昨日会ったばかりなのにもう会いたくなっている。
『予知夢』に出て来る私はリアン様を拒絶していたのに、好きという感情に嘘はつけられなくてリアン様を求めた。『予知夢』のリアン様は現実のリアン様と同じで全然違う。詳しく視ようとすればする程、能力を使う代償で疲労が大きくなる。
「現実に、ならないようにしなきゃ」
体を起こし、ベッドから降りた私は窓に近付きカーテンを開けた。眩しい陽光に目を細め、朝食を食べたら大教会に行くことをお父様達に伝えるつもりでいる。昨日の王女のその後は、登校を再開次第リアン様に聞いてみることにする。
「オーリー様に……謝らないと……」
隣国へ行きたいと相談した私に教会の神官として働く道を提示してくれたのに、行かないことになってしまう。自分の口からちゃんとお話をして断らないといけない。
——朝食を食べ終え、1人馬車に乗り込み学院へ行ったエルミナを見送ると急いで自分の部屋に戻り、大教会に行く旨をお義母様に話した。以前隣国の教会へ行きたい話をお父様には話せていない。話したら泣いて止めに入るから止めなさいとお義母様には釘を刺されている。
馬車で街に向かい、1人で大教会を訪れた私は変わらない人の多さでも花壇で水やりをしている男性を見つけられて安心した。
「オーリー様」
近付いて声を掛けると如雨露を持ったままオーリー様が顔を上げた。
「やあ、フィオーレちゃん。学院の方はどうしたの」
「お義母様から暫く休学するようにと言われて。今日はオーリー様にお話があって来ました」
「僕も丁度君に話したいことがあったんだ。教会の食堂でお茶を飲みながら話そう」
私に話したいこと?
一体何だろうと内心首を傾げれば顔に出ていたのか「そう焦らないで。怖い話でも悪い話でもないから」と微笑まれ、歩き出したオーリー様の後を追った。
食堂には何名かの神官様達が思い思いに過ごされていて、窓際の日当たりの好い席で待っていてとオーリー様に言われてその席へ座った。近くに頬杖をついてウトウトと首を上下に振る男性がいた。神官服を着ていないが纏う雰囲気で高貴な方だと見抜けた。平民によくある茶髪なのだが眉の色が異なる。陶器のように白く美しい肌、年齢は私より3つくらい上かな……。不思議な人だなと眺めていると「フィオーレちゃん、ココアで良かった?」とオーリー様が湯気が立つマグカップを2つ手に持ってやって来た。
「はい。大好きです」
「良かった。……あ」
オーリー様の瑠璃色の瞳が先客に向く。
「お知り合いですか?」
「ま、まあね。僕の手伝いをしてほしくて隣国から来てもらったんだ」
「そうだったのですか」
「フィオーレちゃん、その人は気にせず話をしようか」
私の向かいに座ったオーリー様に言われるも、眠り掛けている人の側で話していいのかと悩んでいると「いいのいいの。多少うるさいところでも熟睡しちゃう人だから」と説明され、それなら安心だと改めて意識をオーリー様に集中した。
「フィオーレちゃん。単刀直入に言おう。近い内、僕と隣国へ行って女神の祝福を受けてみないかい?」
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