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誰のこと?

 


「ん……」

 保健室でリアン様に抱き締められたまま、どうやら寝てしまったらしい。目を覚ますと空が少し朱色に染まっていた。瞼を上げた先に広がった光景に眠気は吹き飛んだ。学院の保健室、ではなく、どう見てもエーデルシュタイン家の自分の部屋。慌てて上体を起こすと「起きた? フィオーレ」お義母様の声が隣からした。



「お義母様……?」

「事情はリアン様から聞いた。あの王女……! いくら王女だからって愛人の娘、っていう自分の立場を理解していないのね」

「お義母様、どうして私」



 あの後、私はリアン様に抱き締められたまま眠ってしまい、起こすのが忍びないからとリアン様が馬車の手配をしてエーデルシュタイン家まで送ってくれた。私が学院で騒ぎに巻き込まれたと報せを受けたお父様とお義母様が屋敷から飛び出てリアン様が事情を説明し、私を渡すと学院に戻ったと話された。



「今、旦那様が陛下に謁見を求めて登城しているわ。謹慎中の王女が学院で騒ぎを起こした挙句、フィオーレが被害に遭ったもの」

「陛下に会えますでしょうか」

「どうかしら。リアン様曰く、王太子殿下が腹を括ったと仰っていたから、何かしらは起きるでしょうね」



 リグレット殿下は今後どうなるのか、私を襲おうとした令息達の処罰は当然重いものにすると意気込むお義母様に訊ねてみると今は休みなさいと頭を撫でられる。私自身が距離を作ってしまっても、お義母様に頭を撫でられるのは今でも嫌いじゃない。目を瞑って受け入れるとそっとベッドに寝かされた。



「何か軽い物でも作ってもらいましょう。出来上がるまで横になっていなさい」

「もう眠くはないですよ」

「それでも、よ。王女の件が片付くまでフィオーレには休学してもらうつもりよ。学院にいる王女派の貴族が貴女に危害を加えないとは言い切れない」

「……分かりました」



 お義母様が部屋を出て行くと一人になった私はデューベイを頭の天辺まで引っ張った。まだ微かにリアン様に抱き締められていた感覚が残っていて自分で自分の体を抱き締めた。



「リアン様……」



 貴方が好きです……。

 今更リアン様に好きだなんて言えない。好きな人がいると嘘を吐いてリアン様を拒絶した私に、そんな言葉を出す資格はない。

 好きな人……誰か適当な人、は駄目。いもしない架空の相手を作るしかない。どんな人にしたらいいの。リアン様だと思って話せばいいの?


 ……出来ないよ、絶対。


 お義母様が来るまで少しだけ眠ることにした。


 ――体を揺らされ、意識が浮上し瞼を開けるとお義母様が顔を覗いていて。軽食が出来たと起こされ、美味しそうな香りが嗅覚を刺激した。



「食べれる?」

「はい。頂きます」



 具がたっぷりと入れられたミルクスープ。私の好きなコーンが入っていて、スプーンでコーンを掬い口に入れた。甘くシャキシャキとしたコーンを味わいながら、エルミナには今回の件も黙っていてほしいとお義母様に頼んだ。エルミナに心配をさせたくない。



「知らない方が心配を掛けてしまうけど……うーん……」

「お願いします。エルミナには平和に学生生活を送ってほしいんです」

「フィオーレにも平和に送ってほしいのだけどね」



 苦笑しながらも了承してもらえた。私はいつの間にかミルクスープを完食してしまったみたいで、見兼ねたお義母様が使用人を呼んで新しいミルクスープを運ばせた。



「お父様はまだ王城に?」

「ええ。まだ戻っていないわ。全く……先王陛下が生きていて下されば、あの王女や愛人が好き勝手することは出来なかったのに」

「リグレット殿下は陛下に愛されていらっしゃいますから、重い罰にはならない……ですよね」

「どうかしらね。隣国の怖い人がこの国にいるから、ただでは済まないでしょうね」

「怖い人?」



 一体、誰のことなんだろう。



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