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親族会2

 


 今日は早くに登校したから教室にいる生徒の数はまばらだ。

 昨日は夕食の時にエルミナと会った。例の騒動の顛末をお父様から聞いたエルミナは多少の納得はしていなかったが、ガルロ殿とトロントおじ様、義祖母様がカンデラリア家の所有する隅の領地へ送られた事実には安堵を見せていた。

 私が原因でいつも心配を掛けていたから、エルミナの負担がなくなったのなら私としても嬉しい。


 教室に鞄を置き、席に座って待つよりも食堂に行って飲み物を買いたくなった。朝食を食べ損ねた生徒が朝の食堂を利用するのも多い為、朝から開いている。教室を出てすぐにある階段を下りて、1階に着き食堂へ足を向ける。


 近付くと教室よりも多く生徒がいる。並んでいると言っても2人か3人程度。最後尾に並ぼうとしたところを「フィオーレ嬢?」と声を掛けられた。昨日の今日だから心臓が高鳴った。

 あんなキスをされて、意識するな、の方が無理……。



「リアン様……」

「君も朝食を食べて来なかったのか?」

「いえ……。今日は早く着いてしまったので、食堂で何か飲もうと」

「そうか。……だったら、俺とおいで」

「え」



 頷く前にリアン様に手を取られ一緒に食堂へ。私よりも大きな背に声を投げてもリアン様は振り向かない、足も止めない。

 握られている手から緊張が伝わらないといいけど……。

 ……リアン様の手大きいなあ……。



「リアン、様は……朝早くに来たのはどうしてですか」

「……特別な理由はないよ。気分の問題かな」

「そう、ですか」

「フィオーレ嬢は」

「私は偶々と言いますか……。いつもはエルミナと来るんですが先に出て来たんです」



 もしかして、私がいるからエルミナももう登校してると思ったのかな……。そうだとしたら、申し訳ない気持ちが湧き上がる。


 列の最後尾にリアン様と並び「何を飲むんだ?」と聞かれ「あ……ココアです」と返した。順番が来るとリアン様は自分の分と一緒に私の分も頼んでしまった。私が払おうとしても譲らず。

 リアン様にココアを奢られた。


 周囲の視線が痛い……。食堂には女子生徒もいる。高位貴族で次期公爵であるリアン様の婚約者になりたい令嬢は数多くいる。


 マグカップを持ったまま後ろを歩いた。


 なるべく視線を合わせないようにと俯いたまま歩いたのがいけなかった。「フィオーレ嬢」と呼ばれるも、顔に衝撃が走った。ちゃんと前を見ていなかったから、リアン様が立ち止まったと気付けなかった。


 慌てるリアン様に私も慌ててしまう。私が悪いのだから。



「すまない、大丈夫か?」

「大丈夫です、すみませんちゃんと前を見てなくて……」

「考え事でも?」

「大した事じゃないんです」


「フィオーレ様」



 私を睨んでいた令嬢の1人がやって来た。今度の親族会で出席するだろう家の令嬢――キサラ様。


 リグレット王女殿下だけがリアン様に片想いしているんじゃない。

 キサラ様も昔からリアン様を想っている。



「王女殿下がいないのを幸いとばかりにロードクロサイト様に近付くなんてっ。伯爵令嬢のくせに!」



 キサラ様は侯爵家の方。爵位も当然向こうが上だ。



「あ……」



 どうしようかと考える前にリアン様がわたしを庇うように背に隠した。



「俺がフィオーレ嬢といて君に問題でも起きるのか?」

「あ……い、いえ……これは……」

「リグレットがいないのを幸いと1番に思っているのは俺やアウムルだろう。君にとって何が問題なのか教えてくれないか」



 リアン様の後姿しか今は見えなくても、普段眠たげな青の瞳がキサラ様に鋭さを帯びた青に変わってるのは雰囲気で察せられる。顔を青褪め、口籠ってしまったキサラ様がこれ以上何かは言うまいと判断したのか、マグカップを持っていない手を握られ早足でテラスに出た。食堂内と違い、テラスの方には殆ど人はいなかった。

 食堂から離れようと遠い席を選んだ。


 お互い向かい合って座るとキサラ様について訊ねられた。



「君は彼女と面識は?」

「親族会で何度かお会いしています」

「ロドニー侯爵夫人とカンデラリア公爵は従兄妹だったな。それでか」

「リアン様、今日の事は目を瞑ってください。キサラ様はその……」



 好きな人に嫌われてしまうのは不憫だ、リグレット王女殿下とまではいかなくてもキサラ様もリアン様に懸想している。知ったのは何時だったか。



「……君に危害が及ばないなら、様子見に留めておく」

「ありがとうございます……」



 ホッと息を吐いて、初めてココアを飲んだ。生クリームを入れてもらえば良かったかな……甘さが足りない。

 リアン様も手軽に食べれるサンドイッチを頼んでいて、旬のフルーツが薄い2枚のパンに挟まれている。

 無言のまま、お互いの食事が進み、会話が再開されたのはリアン様が朝食を完食してからだった。



「アクアリーナから大体の話は聞いているんだが、親族会というのは殆ど夜会と変わらないんだな」

「集まるのが身内同士なだけでしていることは確かに変わりません。身内しかいないので、多少羽目を外しやすいのでは」

「そうか。さっきのロドニー侯爵令嬢も出席するんだな」

「毎年参加されているので今年もきっと」

「……」



 先程の事でリアン様は心配しているんだ。キサラ様とは殆ど接点はなかった。今回の件でそうもいかなくなる。



「そろそろ戻ろう。時間も迫ってきた」



 席から立ち上がったリアン様に釣られて私も立った時。前から手を掴まれリアン様へ引き寄せられた。声を出す間もなく抱き締められ、離れようと後ろに傾こうにも後頭部と腰に回された手が許してくれなかった。



「リ、リアン様」



 恥ずかしさでどうにかなってしまいそう……。

 互いの体が密着してるから、私の心臓の鼓動がリアン様にうるさいくらいに伝わっているんじゃ……。



「……嫌なら、俺を殴ってでも逃げればいい」

「……」



 ……嫌な筈が、ない。



「ん……」



 昨日の強引なキスじゃない、触れるだけの優しいキスを注がれる。リアン様の背に手を回したら、抱き締める腕の力が強くなった。


 ずっと、このまま、リアン様といたい……。



「…………いっそのこと…………」



 キスの合間にリアン様が言葉を紡いでも、夢中になっている私には聞こえなかった。





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