何度目の勘違い
別室に移動した私は王太子殿下とリアン様と向かい合うように座った。時間を貸してほしいとは何をするのだろう。
「今日の場にはいなかったが今回の騒動の加担者であるドロシー嬢は今日を以て退学処分となった」
「そう、ですか」
逆恨みで人1人の命を奪おうとした。運が悪ければ巻き込まれて被害者が増えていた場合もある。ドロシー様の実家は王太子殿下や学園側からの報せもあって、事態を重く見退学処分を受け入れた、修道院送りを決めたのだとか。
修道院……『予知夢』の世界では、私は最も重い北の修道院へ送られた。精神力を大幅に削るとは言え、もう1度視よう。どうしても、自分が最後どうなったかを知りたい。
「今は未だリグレットが王宮にいても、娘に甘い父上が情を出すか分からない。本当はリグレットが大人しくなるまでと思っていたんだが……」
「殿下?」
「おれ、というか王太子として言おう。リアン、フィオーレ嬢の側にいてやってくれ」
「殿下!?」
突然何を……。唖然として殿下を見れば、眉尻を下げられ困ったように笑われた。
「君が心配なんだ。こうも巻き込まれては、また何時何が起こるか」
「わ、私よりもエルミナが……」
「エルミナ嬢よりも君だフィオーレ嬢」
私がリアン様といたら、エルミナが可哀想だ……どうしよう。リアン様を不意に見てしまった。何を考えているか全く読めない青水晶の瞳には、薄っすらと翳りがあって。気まずくて逸らしてしまう。
さっきのキスを思い出して全然見れない……。
嫌な気持ちはなかった。心のどこかで永遠に続けばいいとさえ抱いた。
王太子殿下は心配が消えない限りはリアン様に私の側にいるよう告げ、呼びに来た神官様に連れて行かれた。
残ったのは私とリアン様。気まずくて何を話そう。
するとリアン様が先に話を切り出した。
「……1つ、聞いてもいいか」
「はい……」
「……どうしてそうエルミナ嬢を持ち出すんだ。自分よりもエルミナ嬢を過剰に贔屓する君の意図はなんだ」
「贔屓なんて」
「してるよ。無意識なら、それはそれで問題だが」
言われて心当たりがないと言ったら嘘だ……私よりも、エルミナがリアン様と結ばれるべきなんだ。
『予知夢』がそうなのだから……。
私は心の中で言ったつもりの三文字。呆然とするリアン様の声を聞き、自分が声に出してしまっていたと気付いた。
「君は……『予知夢』が視れるのか……?」
しまったと焦った時はもう遅かった。
『予知夢』はエーデルシュタイン家のみに現れる貴重な能力。私が『予知夢』の持ち主だとエーデルシュタイン家の関係者で知るのはお祖母様だけ。王家に申告もしてないから王家も知らない。口に出してしまった言葉は戻せない。
怖いけどリアン様を見ないと……と顔をゆっくり上げれば、声色と同じで呆然とした面持ちのリアン様がいて。
私と目が合うともう1度問われ、こくりと頷いた。
「エーデルシュタイン家に『予知夢』を視れる者がいるとムルも知らない筈だよ」
「……私がお祖母様に頼んで隠してもらっているんです」
国に関わる重大な予知を視るのが常なのに、私の場合は身近な人の不幸を主に視る。本来の『予知夢』とはどこか違うから、隠されている。私自身も公にしたくない。
ただ、リアン様にはある程度は話しておこう。
2つの理由を話すと今回の件に触れられた。
「ひょっとして、何か視たんじゃ」
「窓から落とされた植木鉢がエルミナに当たって大怪我を負う光景を視ました。万が一起きてしまっても防げるように、エルミナには建物側を歩かないでとお願いしてました」
幸運なことにエルミナの同級生の機転でエルミナは大怪我を負わずに済んだ。心の底から良かったと思える。
「……君は……フィオーレ嬢が『予知夢』を視れるのは分かった」
「リアン様、あの、私が『予知夢』を視れるのは内緒にしてほしいのです」
「分かってる。君にも事情があるんだ。みだりに話したりしない」
「ありがとうございます」
ホッとして胸をなでおろした。口が軽い方じゃないのは分かってるから、然程不安はない。そこから会話が途切れてしまった。
何を話したらいいの? 婚約の話、かな……。
……。
時間だけが無駄に過ぎていく。何か、何か話題を、と思った直後リアン様からカンデラリア公爵家で開かれる親族会の話をされた。
親族会……そういえば、今年は同伴者を1人連れて来て良いとのだった。アクアリーナ様に何故か同伴者を誰にするか問われ、アウテリート様の名前を出した。まだ確認はしてないので参加してくれるかは不明だ。
「カンデラリア公爵家には、他にも君を快く思わない人はいるんじゃないのか」
「どう、なのでしょう。トロントおじ様と義祖母様にしか今まで言われてこなかったので……」
堂々と罵って来たのは上の2人だけだが、陰で言われているのならまだ聞いていない。親族会で私が嫌な目に遭わないか心配されている。
「参加しない考えはないのか?」
「お父様達に心配を掛けたくないのです。お義母様は無理に参加しなくてもいいと言いますが……顔だけ見せて帰るという手もありますし」
「……フィオーレ嬢」
心配しないで下さいと発する前にリアン様に呼ばれた。
「その親族会……俺が君の同伴者になっても?」
「え」
「君が心配だ。どうもフィオーレ嬢は自分自身の評価が低い。何をされても伯爵夫妻にも周囲にも言わないのは、却って心配を掛けるだけだ」
「あ、あの、でも、本当に……」
大丈夫と言い掛けて俯いた。リアン様の綺麗な青水晶の瞳にまた翳りが浮かんだ。折角の好意を何も言わずに受け取れってことなのかな?
……あ。
「……良いのですか? リアン様に来て頂いて」
「俺から行きたいと言ったんだ。文句なんてないよ」
私の馬鹿……これで何度目だろう。
リアン様は私の心配を表向きとして、……エルミナと会いたいからだ。社交界デビューは来月王城で開催されるパーティー。でも、親族会なら着飾ったエルミナを真っ先に見れる貴重な場。
あんなキスをされて、心配をされて、心の何処かで浮かれてしまっていた。
リアン様にお礼を述べて、そこで神官様がリアン様を呼びに来た。どうやら、王太子殿下が来てほしいとのこと。私は伯爵家の馬車で両親を待っていることにした。2人もまだ終わっていないとか。
神官様に連れられるリアン様を見つめ――隣にエルミナがいる光景が見えた。
とてもお似合いの男女……私じゃ、とても敵わない。
「……リアン様……」
貴方が好きです……。
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