リアン様に嫌われたくて2
話が抜けてしまい申し訳ありませんでした。
リアン様が私の腕を後ろの壁に固定するから、なんとか立っていられる。喋りたくても、声を発しようとしたらキスは激しくなって止まらなくなる。早く戻らないといけないのに、抵抗する意思が芽生えない。
リアン様とずっとこうしていたい……こうしていたら、リアン様は今私しか見てない。
「ん……あ……」
自分が大教会に来た理由を忘れてしまいそうになる。
戻りたい自分と戻りたくない自分がいて……大きく傾いているのは、後者の方。
不意に唇に触れていた温かい感触がなくなった。恐る恐る目を開けら同時に腕は解放された。代わりにリアン様に抱き締められた。腕をリアン様の背に回したら、一瞬だけ反応した気がする。
「……フィオーレ嬢……君が何を言おうが俺は君を手放したりしない」
「……」
嫌じゃない……とても嬉しいのに……。
チラつくのは予知夢の世界での出来事。どうして私はあんな風になってしまうのだろう。何れ予知夢が現実になるのか。エルミナの頭上から植木鉢が降ってきた予知夢が当たったように……。
さっきみたいに体を離して、今度こそはお父様達がいる所へ戻らないと……でもやっぱり、リアン様といたい。
リアン様が少しだけ体を離した。上を見たら、吸い込まれそうなくらい昏い色をした青の瞳が私を見下ろしていた。
「君を傷付けた連中を俺は絶対に許さない」
「リアン様……」
「それはムルも同じだよ。アルカンタル伯爵の孫娘に暴力を奮って、もしも伯爵が国を出て行くと宣言すれば、この国の財政に大きな傷を残してしまう。どれもいなくなっても多少は困らない奴等ばかりだ。連中がどうなろうが君が気に病む必要はない」
「はい……。……そろそろ、戻りましょう」
「まだ戻らないよ。多分、ムルが今話をつけてる」
「え」
リアン様によると、今頃アウムル王太子殿下が件の彼等とそれぞれの家の方々に事情説明を行っている最中だと。私も戻りますと言うと首を振られた。
「エーデルシュタイン伯爵夫妻が君を呼びに来ていないだろう? 君はいない方が良いと判断したんだ。終わった後で聞いたらいい」
「ですが、私も」
「……じゃあ、どうなるかだけ言っておこう」
まず、グリシェン伯爵令息とウッドロウ伯爵令息。どちらもお家を勘当となる。王太子殿下とリアン様に睨まれ、挙句カンデラリア公爵の義理の孫に当たる私に暴力を奮ったという事で。どちらもカンデラリア公爵に恩があったと言う。
次に私の髪を引っ張ったガルロ殿とアシル男爵令息。アシル男爵令息は1人息子なのだが、アルカンタル伯爵家から多大な支援を受けていたことから最も早く令息を切る決断をしたと言う。跡取りは男爵の妹の息子を養子にすると決定され、今日の話し合いを終えてから令息は家を追い出されると決まっている。
「更にイースター伯爵令息だが……こっちは伯爵夫妻の離縁にもなる」
「え?」
「カンデラリア先代公爵と現公爵、伯爵夫人が前々から話し合っていたらしいんだ」
トロントおじ様はカンデラリア公爵家出身なのを盾に、イースター伯爵家でもかなり横暴に振る舞い、更に夫人に対しても堂々と浮気を繰り返しても悪びれもせず謝罪の言葉もないとか。夫人が咎めてもおじ様は義祖母様に告げ口をし、2人一緒に夫人を責めるのだとか。
「呆れて何も言えないな」
「余程、夫人との結婚が嫌だったのでしょうか……」
「かもしれない。聞いた話では、君の亡くなった母君にかなりしつこく言い寄っていたみたいだ」
初耳な事実に目が丸くなった。
「多分、エーデルシュタイン伯爵も知らない。ムルが王妃様から聞いたからな」
婿養子を探していたイースター伯爵家に頼み無理矢理してもらった手前、カンデラリア公爵や先代公爵は夫人の相談を受け離縁も致し方なしと判断した。ガルロ殿に矯正の道があれば良かったけれど、今回の件を受けてトロントおじ様、ガルロ殿纏めてイースター伯爵家から追い出す方向に決まった。
追い出されたトロントおじ様とガルロ殿の行き先については、カンデラリア公爵が既に決めていた。
「先代公爵が先代公爵夫人を合わせた3人を、カンデラリア領の隅に放り込む予定となってる」
「義祖母様も……ですか」
「ああ。君を嫌う3人を遠くへやれば、君も安心するだろう。それとさっき言った、君の母君におじが言い寄っていたという話だが。先代公爵夫人の差金だという話だ」
「義祖母様がですか?」
青い血主義の義祖母様にとって伯爵位は取るに足らない下位貴族。王家に嫁げる最低ラインと言えど認識は変わらない。そんな義祖母様が最も可愛がっているおじ様を伯爵令嬢だった母に言い寄らせていた? リアン様は理由も聞いているそうで、訳を聞いてみた。
「何故だったのですか?」
「先代公爵夫人は散財の気があって、あまりに激しいから先代公爵に一定以上の金額の使用を禁じられたんだ。そこで王国一の財力を誇るアルカンタル伯爵家の令嬢である君の母君に目を付けたんだ」
「そうだったのですか……。お父様はこの事は……」
「そこまでは……。ムルが王妃様から聞いたのはここまでだよ」
新しい物好きで自分が1番ではないと気が済まない義祖母様らしい理由だ。
おじ様の好意……と言っていいのか分からないけど、公爵令息を拒絶したお母様の娘の私を2人が嫌うのは何となく分かった。金蔓として言い寄っていたと知るとお義母様やお父様は知らないままが良い。知ったら2人の関係にも影響が及んでしまう。
また、これ以上おじ様や義祖母様絡みで2人を疲れさせたくない。
「……そろそろ戻ろう。頃合いだろう」
「はい……」
私から離れたリアン様が手を握ってきた。不安げに見上げたら、リアン様の青い瞳も私を不安そうに見つめていた。そのまま何も言わず、私達は皆が集まっている部屋に向かった。
扉の前に立つ神官様に挨拶をし、許可を得て室内に入った。
中に広がる光景は、入った途端足を止めさせるのに充分だった。
私とリアン様に振り向いた王太子殿下は軽やかに手を振った。
「2人ともタイミングが良かったな。今終わった」
輝かしく、美しく笑う王太子殿下の周囲は逆。件の令息やその家の人々は項垂れているか、泣いているかのどちらか。特に、令息達が親に泣きすがっている。
「フィオーレ」
お義母様に呼ばれ駆け寄る。お父様と2人して申し訳なさそうに見つめてくる。
「ごめんなさい。当事者の貴女を抜いて終わらせてしまって。フィオーレが気にするといけないと思ったの」
「私は大丈夫です。彼等がどの様な処分を受けても動揺はしません」
これは本当。でも、2人の気遣いは嬉しかった。
「フィオーレはこの後どうする? 話し合いはもう終わったが私達はまだ用があってね」
お父様の言葉に悩む。終わったのなら、私が残る理由はない。
そこに王太子殿下が提案をしてきた。
「なら、フィオーレ嬢。おれとリアンに君の時間を貸してくれないか?」




