私には過ぎたもの
リアン様が私に婚約の打診を……。
『予知夢』の世界で伯爵家を追放された私は、あの後どうなったのかどうしても知りたくて精神を大幅に削る行為だと自覚しながらも先を視ようと力を使った。
結果は夕食間近まで眠ってしまったことだけ。
夕食を告げに来た侍女は、私が疲れているから眠っているから起こすのは駄目とお義母様に言われたとか。様子を見に部屋に来ると私が起きていたから安堵された。
「疲れは取れましたか?」
「ええ。大分。エルミナは?」
「ご友人の家で夕食をご馳走になると。夜には戻られるそうです」
「そう」
学院生活にきちんと馴染めているようで安心すると共に、今回の騒動について食事の席でエルミナを除いた3人で話そうと決めた。私のせいでエルミナが危険な目に遭ったのだ。今日ばかりはお父様やお義母様の邪魔をしてしまうという罪悪感を隅に押し込めねば。
侍女に着替えを手伝ってもらいながら、追放後の世界を少しだけ視れたのを思い出していた。護送車の中に自ら乗り込んだ私は護衛の騎士に囲まれ、北の鉱山送りを静かに待っていた。
騎士の1人が私を酷く罵倒するがもう1人の騎士が注意をした。黙って聞いているだけの私を訝しんだそのもう1人の騎士に問われた。
『話に聞いていた苛烈な姿からは遠く離れて見える。何故、そうも落ち着いているのだ?』
『やっとあの家から解放されたの。たとえ結末が地獄行きだとしても、自由になったことには変わりないですから』
『何故……? エーデルシュタイン伯爵夫妻はとても家族思いの優しい方だと……』
『……私の思い込みだと思ってくれて構いません。あの2人が真に愛していたのは、エルミナだけです。伯爵家の前妻の娘だった私はとても疎まれていました。表に出さなくてもあの2人が私を愛していないのは気付いていました』
『……』
『死んでもいいからあの家から消えたかった。死ねば全部終わるでしょう?』
生への未練がまるでない私を罵倒してきた騎士でさえ、唖然とした面持ちをしていた。
……『予知夢』の世界でも、現実でも、お父様やお義母様が心底大事にしているのはエルミナなのは変わらない。表向きは私のことも想ってくれているが、本心では………
止めようと思考を振り払い、着替え終わると食堂に向かった。席には既にお父様やお義母様が座って待っていた。
私が席に着くと食事を始めた。
白魚のソテーにフォークを入れる前に私は2人を呼んだ。
「話し合いの日時は決まりましたか?」
「ああ」とお父様は頷かれた。
「明日の昼前になった」
「それは、かなり急ですね。もう少し時間がかかるものかと」
「事が事だからね。イースター伯爵夫人から、少し前に速達が届いたよ。謝罪とフィオーレを気遣う物だった。明日夫人もいらっしゃるから、会うといい」
「トロントおじ様も?」
「あの馬鹿は来ないわ」と言ったのはお義母様。
「今回の事はお兄様やお父様にも既に報告済みよ。今頃、カンデラリア公爵家の者がトロントを強制送還している頃だわ」
「公爵家にですか?」
「ええ。それとガルロもね。元はと言えば、お母様やトロントがガルロを甘やかしたのが原因。伯爵家は2人の横暴に逆らえなかっただけ。カンデラリア公爵家が責任を取るからと、馬鹿2人の身柄を引き取らせてもらったの」
更に話し合いの場は大教会で行われるらしい。貴族のどの派閥にも属しておらず、尚且つ、広い場所があり口の固い者が多い大教会なら安全だと。後オーリー様も証言してくださる。隣国の隠居貴族であるオーリー様に迷惑を掛けてしまって申し訳ない。
明日、大教会に会ったらお礼と謝罪をしないと。……そう思ったら、私の心を読んだかのようなタイミングでお父様が首を振った。
「フィオーレ。いらない気遣いだ。言うのならお礼だけにしなさい」
「ですが」
「いいんだ。
……それにしても、フィオーレと同じ歳で人生が終わると思うと……同情は出来ないが憐れには思う」
心底憐れみを抱いていると顔に書いているお父様。確かに彼等は許されないことをしたが、人生が終わるとは?
「大教会に行けば分かるよ」
話はそこで終わった。
食事を終え、部屋に戻った私は何をする気にもなれなくて、ソファーに座って天井を見上げた。ずっと見続けている模様は『予知夢』の世界と何ら変わらない。
……もしかすると、今の世界が『予知夢』の世界で、『予知夢』だと思い込んでいる世界が今の世界、なんてと考えてしまう。
「……」
エルミナもそろそろ戻ってくる。王太子殿下やリアン様は大した怪我は負ってないと言ってくれたが心配はなくならない。眠る前に一目エルミナを見たい。
ちゃんと無事で、いつもみたいに笑って「お姉様」って呼んでくれる姿を見たい。
「リアン様のこと……聞いてみようかな……」
エルミナがリアン様をどう思っているか……。『予知夢』と現実の乖離が激しい今、エルミナからも聞きたい。
私は部屋を出てエルミナの部屋へと足を向けた。多分、まだ戻ってない。扉を叩こうと手を上げかけた時、丁度エルミナの侍女が通りかかった。
「あ、フィオーレお嬢様。エルミナお嬢様はまだお戻りになられておりません」
「エルミナが戻ったら、私の部屋に来てくれるよう伝えて」
「畏まりました」
これでよし。
エルミナが戻るのを待とう。
すぐに部屋に戻った。やることがなくても何かをしてないと時間の流れがとても遅く感じられるから、何時隣国へ行く話をするかのタイミングを考える事にした。
まだ正式な話じゃないから、オーリー様に確認してからになる。
リアン様との婚約の話は……私から断ろう。お父様はリグレット王女殿下の存在を不安要素にしてずっと保留にしていたようだけれど、何時までも待ってもらっていてはリアン様の次の婚約者候補が見つからない。
「リアン様……」
『予知夢』が間違いだとしても、有り得た未来だ。何も知らなければ立場も考えずリアン様に好意を振り撒いて迷惑をかけ、勘違いの嫉妬からエルミナに何をしたか……。
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