お姉様に心配されたくない〜エルミナ視点〜
わたしは昔から、お姉様が輝いて見えた。
お姉様はわたしの方が可愛いと褒めてくれるが、わたしからしたらお姉様の方が何倍も可愛いし、綺麗に見えた。
他に同じ人を見ない青みがかった銀髪は夜空にいくつも浮かぶお星様みたいで、隣国の公爵家と同じと言われる紫紺の瞳も宝石を埋め込んだ煌めきが常にある。
小さい頃はお姉様の持つ物が全部自分のよりも優れて見えた。食べ物だって美味しそうに見えた。
お母様やお父様が間違った教育をしていたら、わたしはきっととんでもない妹になっていただろう。お姉様の物を何でも欲しがった。当然だが、わたし達2人平等に選ばせてくれて、自分で選んだのにお姉様の物を欲しがるわたしに味方するお母様じゃない。お姉様だってそう。優しくてもそういったところはお姉様は線引きをしていた。
今ではお姉様の物を欲しがる真似はしない。
わたし達が異母姉妹だと、本来ならお姉様のデビュタントを迎えて話すつもりだった事実を勝手に暴露したトロント叔父様のせいでわたしがいつものように欲しがったらお姉様は全部渡してきた。
すぐに欲しがる行為を止めた。このまま続ければ、わたし自身がとても嫌な人間になる上にお姉様がどんどん離れていきそうで怖くなった。
勝手に暴露された日から壁が作られた。自分が前妻の子供だと知らされたお姉様はわたしやお母様に遠慮するようになってしまった。今まで出来ていた姉妹らしいこと、母娘らしいことが一切出来なくなってトロント叔父様を恨んだ。叔父様がお母様に似たわたしを可愛がり、両親どちらにも似ていないお姉様に冷たかった理由が漸く分かった。お祖母様も同じだった。両親の目がある内は大人しい振りをして、2人がいないとお姉様に冷たく当たっていたのを後に知った。
わたしは何も知らなかった。
叔父様やお祖母様のお姉様に対する態度、お姉様は嫌な顔1つもせず、いつも笑っていたから……。
そんな時にわたしも跡取りしての教育が始まった。お姉様に何かあった時の為に。よくあることだから驚きはしなかったものの、じっとしているのが苦手で更に勉強も苦手だったわたしは最初何度も逃げ出したくなった。もし、わたしが頑張ってお姉様が昔のように接してくれたら……そう思うようになると頑張らないわけにはいかなかった。
自分で思ってる程、頭は悪くなかったと知れたのは良かった。適度に休憩を入れながらの勉強は、じっとしているのが苦手なわたしでも継続させられた。
「はあ……」
学院にある自分の机に座って溜め息を吐いた。
今日は不運な日だ。
最近お姉様に外を歩く時は、建物側は歩かないでと言われていた。どうしてですか、と訊ねても上手くはぐらかされるだけ。疑問を抱きながらもお姉様が言うのだからと従ってきた。それが幸いにもわたしを助けてくれた。
友人と談笑しながら外を歩いていたら、前の方からわたしを呼ぶ声が。
誰かと判断する前に走ってきた人にわたしは思い切り突き飛ばされてしまった。
何するの!? と憤慨した瞬間、うるさいくらいの音が響いた。何事かと思えば、わたしがついさっきまで立っていた場所に割れた植木鉢が土を散乱させていた。
もしも、あれが直撃していたら……
想像するだけで全身震え、両手で頭を抱えた。
「エルミナ!」
震えて動くなっているとわたしを突き飛ばした人――クラスメイト――が駆け寄って来る。「エルミナ嬢っ」と先に来たのはロードクロサイト様だった。
手を借りて起き上がると何があったかを訊ねられた。状況説明をすると整った相貌が大きく歪んだ。学院の窓際に植木鉢は置かれてない。誰かが意図的に上階から落とした、としか考えられない。王太子殿下も駆け付けられ、ロードクロサイト様が説明をすると周囲に教師を呼んでくるよう指示を飛ばした。
既に犯人は現場から逃げているだろうが、何か証拠になる物はあるかもしれないからと。
「エルミナ嬢、すぐに医務室に行こう。歩けるかい?」
「は、はいっ。大丈夫です」
よく見ると手から血が流れていた。突き飛ばされた際に擦りむいてしまったのだ。わたしを突き飛ばしたクラスメイトが泣きそうな顔で駆け寄るが大丈夫だと首を振った。彼女のお陰で命拾いをしたのだ、擦り傷程度どうってことない。友人とクラスメイト3人で医務室に行き、先生に手当てをしてもらった。
「良かったエルミナ!」
「誰が植木鉢を落としたか見た?」
「ううん。そこまでは。植木鉢が誰かの手に持たれてるのが見えて、エルミナ達が歩いて来たから嫌な予感がして走ったら落とされたの。本当に間に合って良かった」
なら、犯人はやっぱりわたしを狙ったのか。人に恨まれるような事はしてないけど、知らない内に恨まれる可能性はある。
医務室を出るとお姉様の友人グランレオド様が壁に凭れていた。わたし達が頭を下げると「エルミナ様」と声を掛けられた。
「放課後、お時間くださらない?」
「は、はい」
「ありがとう。あなたに大怪我を負わせようとした犯人は、もう捕まったわ」
「え!? だ、誰ですか?」
予想外にも犯人は既に捕まったらしい。
ドロシー様と告げられたがピンとこない。
グランレオド様によると、ドロシー様は新入生歓迎会でお姉様に絡んだノーラント様と一緒にいた方らしい。言われて思い出したわたしは声を上げた。グランレオド様が隣国の公爵家の方だと知らず、ノーラント様が叱責していた方だと。
ノーラント様に切られた恨みでお姉様の妹であるわたしを狙ったと自白したみたいだが逆恨みにも程がある。
「ノーラント様はどうして彼女が犯人だと……?」
「現場付近に彼女がいて、慌てて走って去っていくドロシー嬢を目撃してね。捕まえて問い詰めたら白状したようよ」
兎に角犯人が捕まって良かった。そうだ、このことはお姉様に内緒にして貰わなきゃ。心配性なお姉様にわたしが怪我をしたと知られると教室に突撃されかねない。お姉様に心配事を持ち込みたくなくてグランレオド様にお願いすると困った面をされるも了承してくれた。
良かったねと3人で笑いながらグランレオド様と別れた。
まだ、その場に残ったグランレオド様の呟きは誰にも聞こえなかった。
「……フィオーレもきっと同じ事を言うわね」




