表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/48

父と母ーアウムル視点ー

 


 頭が痛い案件とはこの事か。

 学院の昼に騒動を受けこれ以上リグレットを甘く見ていては後々かなりの面倒事を引き起こすと危惧し、隣国の公爵令嬢であるアウテリート嬢に見下されたと騒ぐので、父上に判断してもらおうと敢えてリグレットの思惑に乗ることにした。父上に訴えれば、どこの国の貴族の娘も罰せられると本気で信じている。自国の貴族でさえ、そうはいかない家もあるというのに。


 早急に城に戻り、父上への謁見を求めるが先に戻っていたリグレットが話を通していたらしく、直ちに謁見の間に来るよう騎士に告げられた。

 謁見の間に着くと玉座に腰掛ける父上に泣き付くリグレットがいて、隣の王妃の席には母上がいて。リグレットの母親である男爵令嬢は父上の顔に胸を押し付けて抱き付いていた。王族と宰相しかいなくて良かった。


 大方、母上や宰相が人払いをしたんだろう。



「来たか、アウムル」



 同じ青の瞳と金色の髪。顔立ちは母上に似ていると言えど、髪や瞳の色を見ると目の前の男とは血が繋がっているのだと突き付けられる。



「リグレットから聞いたぞ。他国の令嬢如きにリグレットが傷付けられたそうじゃないか。お前は何故リグレットを守らない。たった1人の妹だろう」

「ええ。母親の違う妹です」

「酷いわアウムル様! 腹違いだろうと父親は同じではありませんか!」



 悲劇のヒロインぶって声を高くして叫ぶ愛人の言葉を無視し、王妃の座に座る母上から静かな声が。



「アウムル。そこの娘を虐げたというご令嬢は何処の方かしら」

「虐げてはいません。そもそも悪いのはリグレットです。王女の権力を振り翳して生徒達に迷惑を掛けているのですよ」

「まあ……彼女が陛下に話していた事とかなり内容が違うわね」



 口では驚いている風を装いながら、長い睫毛に覆われた瞳は冷え切っていた。

 信じてはいないが敢えておれの口から言わせる事でリグレットの嘘を暴く算段だろう。



「わ、わたくしは何も悪くないわっ、言う事を聞かない学院の生徒達が悪いのよ!」

「そうよ、リグレットは王女なのよ? 上の立場の者に従って当然だわ」

「なら、王太子であるおれの言う事を聞かないリグレットはどうなのです?」

「え?」



 国王と王妃から生まれたのなら正統な血筋だと主張されるが、たかが男爵令嬢如き――本人もパッとした才能があるでもない普通の娘――が産んだ娘に王女という肩書きが与えられているのは、父親がこの国の国王からなだけ。



「そうね。立場で言うとアウムルは王太子、次期国王。リグレット、貴女より上の立場にいる人よ。貴女の言い分だとアウムルの言う事には従わないといけないわね」



 息子のおれには父上を語る時以外は決して聞かせない、心底どうでもいい他者の時しか出さない冷酷な声色で母上に問われたリグレットの顔は真っ青だ。母親と揃って父上に助けを求めるよう抱き付いていた。


「セラフィーナ」鋭い声で母上を呼ぶ父上だが。



「名前を呼ばないで頂けます? 汚らわしい」

「っ!!」



 心の底から軽蔑した母上の瞳が父上を射抜く。


 母上と父上の婚約は幼少の頃決定された。先王陛下と先王妃殿下の間には父上しか生まれず、側妃を娶るという選択もあったがお祖父様が断固として拒否の姿勢を貫いた。たった1人の王子、という事があり、周囲に大層大切に育てられた父上はまあ……あまり言いたくないがリグレット程ではないにしろ中々の我が儘王子だったと聞く。更に異性に好かれやすい容姿もあって、女性達には絶大な人気を誇った。

 王子としての公務もしっかりと熟し、能力的にも次期国王に申し分なかった。性格さえ良ければ完璧だったろう。


 王を支えよと教育された母上は出会った頃から嫌われていたと苦笑を交えながら話してくれた事がある。曰く、冷たく澄ました顔が気に食わないと。侯爵家の娘として生まれた矜持と第1王子に会う緊張からそうなっただけなのに、初対面から好意とは逆の感情を剥き出しにされれば、未来の伴侶としか思わない相手に無理に好意を抱く必要も無くなった。


 婚約者として、次期王妃として、父上とは必要最低限にしか関わってこなかった母上でも在学中に恋人を作り、剰え卒業時に婚約破棄騒動を起こした父上にはその時から愛想を尽かした。今尚夫婦としてあるのはお祖父様やお祖母様の頼みあってこそ。

 父上からは冷遇されても娘となる母上に2人はかなり良くしてくれたと。ひょっとすると父上からの冷遇を見かねての態度だとしても、である。


 最近抱くようになった気持ちとしては。父上は、母上が思う以上に面倒臭い人間なのかもしれない。公式の場ではお互い名前で呼び合い、仲睦まじく振る舞う。

 必要がない時はお互い顔を合わせようとしない。

 名前すら呼ばれたくないとはっきりと言葉にした母上を、驚きの眼で見やりながらも瞬時に悔しげに、うっすらと憎しみの籠った瞳で睨む。が、母上はないものと扱い王妃の席から立った。

 おれの前に来るとふわりと微笑む。



「アウムル。実はお客様がいらしているの。私と参りましょう」

「しかし、まだリグレットの件について終わっておりません」



「ああ――」とついさっきまで話していた件なのに、思い出したと言わんばかりの母上の声におれも肝を抜かれた。



「陛下。いくら寵愛深い娘といえど、やって良い事と悪い事くらい、きちんと教育しておいて下さいな。たとえ愛人の男爵令嬢の娘といえど、貴方の娘はこの国の第1王女。再び学院に通わせるには、相応の振る舞いが出来てからにしてもらいませんと王家の面子に関わります」

「……分かった。リグレット、暫し離宮にて反省をし、其方が王女として相応しくあるならば、学院の登校を認めよう」

「そ、そんなっ、パパ……!」



 先ずは父上への呼び方を変えねばな……。

 苦虫を噛み潰した相貌をする父上を、これまた輝かしい微笑を携える母上。どちらが余裕か一目瞭然。

 愛人が何かを喚いているが父上が黙らせた。元々、この場に於いて彼女に発言権はない。父上が連れて来たと言っても過言じゃない。

 用無しとばかりに振り向いた母上に客人が誰か訊ね、聞かされると父上が声を荒げた。



「待て! どういう事だ! 俺は聞いてないぞ!」

「聞いてないとは? 私、あの方が2年前にいらした時ちゃんと陛下に報告しましたわ。というか、陛下に謁見を求められたのに陛下はそこな愛人との逢瀬に忙しいからと断ったではありませんか」

「な……だ……だが……何故お前が会うのだ。会うなら、国王である俺に……」

「私、先王陛下の計らいであの方や隣国の先王陛下にはお世話になっておりますの。礼儀を通すのは当然ですわ」

「待て……そんな話1度も……」



 顔面蒼白になり、茫然となる父上が縋るように手を伸ばすが母上はおれの背を押した。2人謁見の間を出て、客人の待つサロンへと向かった。


 今頃学院はどうなっているのか。

 リアンが上手くやっている事を願うがフィオーレ嬢の様子からすると一筋縄ではいかないだろう……。

 彼女がリアンはエルミナ嬢を好きだと思い込むのは、きっと理由がある筈だ。フィオーレ嬢しか見ていないリアンが余所見をするとは限らないが……密かに探りを入れてみよう。


 母上に背を押されて謁見の間を退室した。次にやって来たのは他国の来賓をもてなす客室。一級品の調度品や家具が置かれたそこに、紫がかった銀髪の男性がソファーに座ってのんびりと紅茶を嗜んでいた。此方を向いた瑠璃色の瞳は柔らかく温かいが、最奥に閉じ込められた真の感情があっという間に他人を地獄へ突き落とす圧倒的冷酷者だと知るのは母や祖父の教え。



「お久しぶりですわオルトリウス様」

「やあ王妃殿下、王太子殿下。お邪魔しているよ」

「お久しぶりです、オルトリウス様」



 隣国の前王弟オルトリウス=アイ=ガルシア様。現在は隠居貴族と身分を偽って我が国に滞在している理由は2つ。

 1つは先王妃を大伯母に持つアウテリート嬢を気に掛けて。

 もう1つは我が国の先王、つまりおれの祖父の頼みがあって。


 おれと母上でオルトリウス様と向かい合うように座った。



「王太子殿下とは、あまり久しぶりでもないかな。つい最近会ったからね」

「オルトリウス様には相談に乗っていただいて感謝しております。殆どが相談に値しないかもしれませんが」

「いやいや。若者の悩みを聞くのも年寄りの仕事だよ。助言(アドバイス)があれば、してあげられる。リグレット王女殿下も中々の困ったちゃんだね。君や王妃殿下も苦労しているだろう」

「いえ、私は特に。だって、関わりがないので」



 寵愛深い娘の不始末は親が責任を持ってしろ。これが母上の言葉。

 過去にリグレットが何度もやらかしているが母上は何もしない。時に愛人の男爵令嬢に泣きを入れられるが華麗にスルーを決め込み、父上にも同じ。



「はは。君が王妃で良かったと思うよ。時に、今日僕が来たのは理由があってね」



 紅茶を飲み干したティーカップをテーブルに置くと、オルトリウス様は眉尻を下げられた。



「知っての通り、僕はこの国の先王とは旧知の仲だ。今の国王が王太子だった頃から、色々と相談を受けていた」

「存じております」

「彼が国王になっても変わらない場合は、王妃殿下との間に王子、又は王女がいた場合、学院を卒業と同時に彼を退位させるよう頼まれているんだ。

 君に問おう、アウムル王太子殿下。君は父君のような国王にならないと誓えるかい?」

「はい」



 おれは絶対に父上の様にはならない。

 寧ろ、なりたくない。

 未だ愛する女性がいないおれではあるが、生涯を共にすると誓ったのなら、必ず大事にしてみせる。仮に異性としての愛情を抱けなくても、家族としての親愛は抱けるだろう。

 愛する女性を見つけたとしても、必ずしも結ばれるとは限らない。



「そう。良かった」

「今日はその事を確認しに?」

「いや。これはついで。本題に入ろう。これは僕からの相談なんだ」

「まあ、オルトリウス様からの相談なんて珍しいですね」

「まあね。実は――」



 語られた相談内容におれは頭を抱えたくなった。

 リアン……さっさと気持ちを伝えないとフィオーレ嬢がこの国から出て行ってしまうぞ……。








読んでいただきありがとうございます。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ