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そのキスに意味はある?

 


 どうしよう……。

 予鈴が鳴らないかと待っていれば、見知らぬ男子生徒に今すぐリグレット王女殿下の元へ来いと言われた。言う事に従わないとエルミナに何をするかと分からないと。王太子殿下にあそこまで脅されても懲りない王女殿下に呆れながらも、私に対する憎しみがどんどん増幅している事実に戦慄する。

 幸いにもリアン様が助け舟を出して下さったので事なきを得たが今度は違う意味で困ってしまった。

 教室に連れ出されたのは良いけれど、もう戻っても良い筈。なのにリアン様は私の腕を離してくれない。


 今私達がいるのは、この間昼食を摂った休憩室。沈黙に包まれ若干息苦しさを覚える。お礼は言った。教室に戻りましょうとも言った。他には何を言うべき?



「フィオーレ嬢」



 悶々と考えれていると漸くリアン様が喋ってくれた。



「またリグレットの名前を出されて君1人だったらどう対処する気だ?」

「それは……」



 私に向けられる青い瞳に宿る疑問と微かな怒り。どうして……? あなたを怒らせる真似はしていない……。



「リグレットは話が通じる相手じゃないのはもう君も分かっただろう」

「はい……」

「それで……どうするんだ」



 王太子殿下がリアン様に私の側にいろと言ったのは王女殿下から守る為。分かってる、2人が親切から助けてくれようとしているのが。

 私がリアン様といる事でエルミナが勘違いしたら? リアン様も折角エルミナが生徒会に加入して接する機会を得たのに、私という存在のせいで近付けなかったら?

 どちらにしろ私が邪魔な存在になるのは明白。『予知夢』を視て絶対に邪魔をしないと決めた。2人の仲を応援するって決めたんだ。仮令、私の恋心を捨てる結果になっても……。好きな人が幸せになってくれるなら。



「私は……やっぱり……リアン様に迷惑は掛けられません……。私よりも接点の多いエルミナが心配です」

「……」

「これからは気を付けます。ですから、エルミナを見てあげてはくれませんか?」



 意を決して頼んだが……リアン様の青い瞳が益々翳りが出来ていく。黒の混ざった濃い青色に見下ろされ、口内が乾いてく。初めて怖いと抱いた。私はどこかで言葉の選択を間違えた? でも何処? あまりにもエルミナを頼み過ぎて逆に怪しまれた? 幾ら考えても答えが見つからない。



「……にも……そんなにも……」

「え……リアンさ……」



 声が小さくてリアン様が何を言ったか拾えなかった。もう1度聞こうとしたら、彼の綺麗な手が伸ばされた。私の青銀の髪を一房掬うと口元へ運びそして――口付けた。

 一気に顔を赤く染め上げる私を冷ややかな青が見下ろす。



「フィオーレ嬢」

「は、い……」

「もう少し警戒心を持つべきだ」

「はい……」



 これからはちゃんと気を付けなきゃ。



「それから」

「はい……。――え」



 次は何を言われるだろうと身構えば、唐突に左手首を掴まれた。リアン様の意外な動きに目が見張り、私の手首を口元で持っていくと。



「リ、リアン様……?」

「……」



 遠慮なしに手首に口付けられた。何がどうなればこういった行為をされるのか理解が追い付かない。私の顔は急激に赤く染まっていく。離してもらおうにも強い力で掴まれ振り払えない。何度も口付けられリアン様の唇が当たるそこだけ異様に熱い。リアン様の青い瞳が此方に向けられた。



「リグレットは手段を選ばない。君1人じゃどうにも出来ない。君に何かあれば、妹君だって傷付くだろう」

「……」



 エルミナの名前を出され体温が集まり熱くなった顔も急激に冷めていく。ああやっぱり……私の心配を建前にエルミナを傷付けたくなかっただけだった。……私の馬鹿、これで何度目だろう。リアン様とエルミナが両想いなのは『予知夢』を視て分かりきっていたのに。リアン様の不明な行動の意図を置いても彼が親切にしてくれるのは他ならない――エルミナの為。私が平和に過ごすだけでエルミナは余計な心配を心に負わない。

 私が……しっかりしていないと……。



「……リアン様が……そこまで言うなら……」



 リアン様の顔が見れなくて俯いてしまった。この時リアン様がどの様な面持ちをしていたか知らない。了承することでやっと手首を離してもらえた。

 話もこれで終わりなら、もう教室に戻っていいよ……ね?

 リアン様に動く気配がない。私が先に行って良いものか。

 決めあぐねていれば扉を開けられ振り向かれた。



「戻ろう、フィオーレ嬢」

「はい……」



 先に休憩室を出てリアン様を待つ。

 鍵を閉めたリアン様の後に続いて歩き、教室に戻った。

 何もないように席に戻るとアウテリート様が話し掛けてきた。



「どうしたのフィオーレ。リアン様といたの?」



 コクリと頷く。何があったか聞かれ……手首のキスは伏せ簡単に説明をした。



「そう。やれやれねあの王女も。あたしは他国の人間だし、どうせ卒業後は祖国に帰るから首は突っ込まないけど、面倒臭い事この上ないわ」

「振る舞いがどうであれ、王家の血を引いた王女殿下を無碍には出来ませんから」

「いつか痛い目を見るわよあの王女。そうだ、今日のお昼はどうする?」

「エルミナも一緒でいいですか? 今日は友人が休みとのことですし、王女殿下の件があるので」

「構わないわ。ただフィオーレ、リアン様の言う通り王女はエルミナ様よりフィオーレに目を付けている可能性が高い。あたしもだけど気を付けなさいよ」

「はい」



『予知夢』の心配があるから外を歩く際はエルミナを建物側に歩かせないようにしないと。あと、可能な限り上を意識しておかないと。何時上から物を落とされるか。


 あ……


 まただ。またあの視線。一体誰なんだろう。何処を見ても私を見ている人はやっぱりいない。幽霊に見られていて……な訳ないか。

 何故かリアン様に口付けられた手首が熱くなり始めた。どうしてこんな事をしたのか怖くて聞けない。袖を捲って確認したら口付けられた部分だけ赤くなっていた。

 誰かに見られた時はぶつかったとでも言おう。


 昼休憩に入り、1年生の教室へ行こうとアウテリート様と席を立つと「お姉様」とエルミナの声が。終わりの鐘が鳴って間もないのにもうエルミナが来ていて驚いた。エルミナのクラスは鐘が鳴る前に授業が終わったのかしら。1年生と3年生の教室は遠く離れ、階段を使わないとならない。入り口に近付いてエルミナと合流し、早速食堂へと向かった。

 学院内で最も人が多く集まる時間なだけあり、既に生徒や教師で一杯。



「先に席を探しましょうか?」

「そうね。今日は天気も良いし、外で食べるのもありかも」

「あ、わたしが席を取っておきましょうか?」



 エルミナを極力外に出したくない。何時あの『予知夢』のようにエルミナが大怪我を負うか……。



「私が行きますのでアウテリート様とエルミナは先に並んでおいてください」

「なんだったら、フィオーレの分も頼んでおくわよ。コルネットとホットミルク?」

「お願いします」



 こうして二手に分かれ、私は席を先に取る側へと回った。中は多いが外も多い。外に設置された席で空いている場所は……と周囲を見回すと木の下にある席が空いていた。そこにしようと椅子を引いて座る。此処なら食堂内からも遠くないし、陽光も遮られて丁度良い。


 今日何も起きなくてもエルミナが何時不幸に見舞われるか不明だ。暫くはエルミナの側にいてあげないと。出来るならリアン様がいた方が良いのだけれど……。左手首にはリアン様に付けられた跡が濃く残っている。どうしてこんなことをしたんだろう。王女殿下を甘く見ている私への忠告、という意味なら頷ける。リアン様は優しい人……好きな人の姉を心配してくれるのだから。



「フィオーレ。お待たせ」

「お姉様!」



 左手首を眺めていたのをアウテリート様とエルミナへ意識を向け、渡されたトレイを受け取った。焼き立てのコルネット2個とホットミルク。あ、今日のホットミルク上に蜂蜜が掛けられてる。コルネットは2個ともチョコレート。聞くと他の味は完売だとか。元々今日はチョコレートを多く仕入れたせいで数も少なく作ったらしい。

 アウテリート様はクリームパスタとサラダ、エルミナも同じ。



「お姉様コルネットだけではお腹が空きませんか?」

「そんなことないのよ。これでも数は増えた方だし、放課後は教会に行ってオーリー様とお茶やお菓子を食べるからこれで十分なの。エルミナはアウテリート様と同じにしたの」

「クリームパスタかカルボナーラで悩んだのですがクリームソースが美味しそうに見えたのでこれにしました」

「あたしもグラタンにするかパスタにするかで悩んだわ」

「アウテリート様はグラタンが好きですものね」



 昼食は主にグラタンとサラダで済ませることが多いアウテリート様。熱過ぎる料理が好きならしく、熱々なグラタンは特に好きとか。ただその分、屋敷に帰ったら運動をし、夕食は量を減らしているのだとか。



「好きな物をずっと食べ続けるなら、他を抑えないといけないのが辛いわ……」

「飽きませんか?」

「フィオーレに言われたくないわ。フィオーレだってずっとコルネットじゃない」

「私の場合は味が変わるので」

「と言っても、チョコレート・ハチミツ・ジャムの3種類だけじゃない。似たようなものよ」

「3種類で十分ですよ」



 どれも甘くて美味しいので飽きない。

 偶には違うパンも食べたくなるから、明日は違うパンにしようかな。

 エルミナがとても楽しげに笑って私達の会話を聞いているから、話題を振ろう。



「エルミナも――」

「そこ邪魔よ!」



 この声は……。

 声が届いた瞬間うんざりとした表情になったアウテリート様は緩慢な動きで向きを変え、私とエルミナは恐る恐る向いた。

 そこにいたのは案の定――リグレット王女殿下だった。しかも今度は令息の取り巻きを従えて。


 王女殿下は私を見るなり、吊り目気味な目を更に吊り上げた。



「この泥棒猫! わたくしのリアンとまた2人っきりになったと聞いたわ!」



 一体何処から情報が漏れるのか、そもそも監視され……監視?






読んでいただきありがとうございます!



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