話をしよう
屋敷へ帰宅する馬車に揺られながら、午後からの授業を遅れた後を思い出していた。王太子殿下の計らいで私とリアン様は殿下の急用を手伝っていたとしてお咎めなし。出席出来なかった授業は個人で行われると決まった。アウテリート様には心配された。今朝からの様子が可笑しかったから余計。正直に昼休憩終わり間近に起きた事情を話すと額に手を当てられた。彼女も王女殿下の問題行動を何度か耳に入っており、その度に王太子殿下を纏う空気が冷たくなっていったと語った。私に突っかかったのがイースター伯爵令息だと知ると顔色を変えた。
『フィオーレ。ちゃんと伯爵夫人に言いなさいよ? 後から知られたら夫人の心配は更に大きくなるもの』
『はい。でも……普段から、トロントおじ様に頭を悩ませているお義母様の悩みをこれ以上増やすのも』
『何を言ってるの。寧ろ、悩みの種の種が暴走してくれたお陰で強気で出られるじゃない』
アウテリート様、その前には王太子殿下にも言われたがお義母様に相談するのは申し訳ない。私自身で解決可能ならしたい。ただ、後から知って更に心配が大きくなると言われるとこれも困る。報告だけして対処は私がすると言えばいいか。御者が屋敷に到着したと告げた。
邸内に戻るとお義母様が迎えてくれた。
「お帰りなさいフィオーレ」
「ただいま戻りましたお義母様」
「旦那様が書斎で待ってるわ。着替えたら行っておあげなさい」
「はい。……あの、お義母様」
お父様とはエルミナを生徒会へ勧める話をするだけだが、お義母様にもチラリと話しておこう。
「お父様にエルミナを生徒会へ勧める話を出そうと思うのですが、お義母様はエルミナが生徒会に加入することについてはどう思われますか?」
「まあ、そうだったの。そうね、今のエルミナなら反対はしないけれど……でもどうして?」
「王太子殿下が女子生徒で役員になってくれる方を探しているようなので、もし推薦出来る生徒がいれば紹介してほしいと」
「王太子殿下が? そう……1人もいないの?」
「王女殿下がいらっしゃるのですが……除籍されてしまって……」
陛下の寵愛深さを盾に好き放題している王女殿下の評判は良くない。お義母様も知っている。私の台詞で経緯を話さなくても大体の事情を察せられた。
お義母様からの反対は特になし。後はお父様に話し、了解を得られればエルミナに話そう。部屋に向かう間際、違う方向へ歩き出したお義母様にガルロ殿の話を忘れそうになり慌てて呼び止めた。
どうしたの? と首を傾げられ、ガルロ殿の話を出した途端――瞬時に顔付きが変わった。側にいた使用人達の短い悲鳴が聞こえた。
「……ガルロ? ガルロってイースター伯爵家の?」
「は、はい。そのガルロ殿です」
「ガルロがどうしたの? まさか、トロントがまた?」
「いえ。実は……昼休憩が終わる間近にガルロ殿に王女殿下を泣かせたと絡まれまして」
「はあ!?」
使用人達がまた悲鳴を上げた。
私も吃驚して肩が跳ねた。
社交界では貴婦人のお手本と名高いお義母様の声の大きさに。
ハッとなったお義母様は、恥ずかしげに咳払いをした。
「コホン……ごめんなさい。フィオーレ、その話旦那様と詳しく聞かせて頂戴」
「は、はい。あ、王女殿下には何もしていないので安心してください」
「大丈夫よ。その辺は全然心配してないから」
「?」
てっきり、私が王女殿下を泣かせたと信じたから声を上げたのでは無かったのかしら?
私は制服から部屋着に着替えるべく、一旦私室へと戻った。
鞄をベッドに置いて、事前に用意されていた部屋着へと着替え、すぐにお父様の待つ書斎へと向かう。扉の前にはお義母様が待っていてくれた。2人で書斎に入室すると……テーブル一面にスイーツを広げたお父様がきっちりと貴族服を決め、紅茶を飲むポーズをしながら座っていた。
隣にいるお義母様が呆れたような深い溜め息を吐かれるも、肩を押され中へ進んだ。私はお父様と向かい合い、お義母様はお父様の隣に座った。
「お帰りフィオーレ」
「ただいま戻りました。……お父様、このスイーツは」
「久しぶりに甘い物が食べたくなってね。どうせなら、フィオーレと一緒にと」
「そうだったのですね」
お父様はビターなチョコレートを好んでいたと記憶していたけれど私の勘違いだったのかしら?
お義母様のティーカップとスイーツ皿を頼む最中、早速話をしてほしいと告げられ、まずはエルミナの生徒会推薦の話にした。
「王太子殿下から、アウテリート様と頼まれまして。女子生徒で誰か生徒会に勧められる生徒がいないかと」
「成る程。それでフィオーレはエルミナを?」
「エルミナは成績も優秀ですし、伯爵令嬢としての振る舞いもしっかりと出来ております。私はもう最終学年なので無理ですがエルミナなら、十分生徒会で実力を発揮出来るかと」
「今年はリグレット王女殿下も入学されている。自分以外の女子生徒が入って王女に目を付けられるのが心配だ」
「その点については心配無用かと。王太子殿下が昨日で王女殿下を生徒会から除籍したので」
私もこれには悩んだ。エルミナを推薦し、了承してくれても、自分が1番だと信じる王女殿下が同性の加入を快く思わないのではと。王太子殿下が除籍してくれたと聞き、ちょっとだけ安堵したのは秘密だ。
「ふむ。私からは反対はしないよ。君もそうだね?」とお義母様に意見を求められた。
「ええ。後はエルミナ次第ですわ。あの子が嫌だと言うなら、無理に勧めはしません。フィオーレもそれでいい?」
「勿論です。決めるのはエルミナです」
『予知夢』ではエルミナは生徒会に入る。学年が違うリアン様と問題なく会える唯一の機会を逃せない。2人から受け入れられて安堵した。丁度、お義母様の紅茶が運ばれた。どのスイーツを取ろうか選んでいると「フィオーレ」とお義母様に呼ばれる。
「急かして悪いのだけれど、さっき私に話したあれを旦那様にも話してあげて」
「あれ?」
「ええっと……」
話した瞬間のお義母様の反応が忘れられなくて億劫になるが意を決してお父様に話した。
ガルロ殿に王女殿下を泣かせたと勘違いをされて絡まれたこと、王太子殿下とリアン様に助けられ事なきを得たこと。ガルロ殿の名前を出すとお父様が持っていたティーカップに罅が入ったように見えたが気のせいだろう。リアン様の名前を出した時はロードクロサイト様と呼んだ。昨日まで家名で呼んでいたのに今日になって名前で呼んだら誤解されてしまう。
全て話し終えるとお父様はティーカップをソーサーに置いて深い溜め息を吐かれた。
「はあ。我が家、というよりフィオーレに絡むのが生き甲斐なのかあの連中は」
「連中は、というよりトロントとガルロ、それにお母様ですわ」
「すみません、私が至らないばかりに」
「フィオーレは何も悪くない。私達の力不足のせいだ。トロント殿がフィオーレに絡むのは公爵夫人のせいにしてはしつこい。別の理由があるんじゃ……」
伯爵令嬢の娘である私が気に食わないトロントおじ様とカンデラリア公爵夫人に昔からお父様とお義母様が苦言を呈してくれているのは知っている。生まれは私ではどうしようもない。せめて2人に何も言われないようにと、令嬢としても跡取りとしても努力した。私がどれだけ努力したところであの2人は決して私を認めようとしない。見せ付けるようにエルミナばかりを褒め称える。幸いにも敵は2人だけ、且つ、苦手な人達だから精神的ダメージは受けてない。逆に言えば、私の悪口を吹き込まれ嫌な思いをさせてしまったエルミナに申し訳ない。
お父様が別の理由と呟くがそうは思えない。他の理由があるなら是非知りたい。
「アルカンタル伯爵家に関係はありますか?」と訊ねた。あるとしたらお母様の生家アルカンタル伯爵家しか浮かばない。
「ふむ……イースター家が財政難とは聞かないがな……かと言って、カンデラリア公爵家もないな……」
「ええ。お母様の散財はすごいけれどお父様が厳重に管理していましたし、今は世代交代してお兄様が家を継いでいるから好き勝手お金は使えません。他にあるとすれば、隣国の公爵家との繋がりかしら」
お母様のお祖母様の生家である隣国の公爵家は、現王妃殿下の生家である。仮に隣国の公爵家と繋がって王家と関わりたいのだとしてもかなり遠い親戚に当たる私では道具にすらならない。
これも違うと3人頭を悩ませた。
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