表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
993/999

二人だけの舞踏会

 その昔、閻邪の粒子が世界を覆い尽くしていた頃、英雄と呼ばれた少年は聖女や春風魔法の使い手と共に旅をした。旅をしていく中で少年たちは世界を救い、聖女の加護の力で世界を覆う事で閻邪の粒子を大地の奥底に封印し、世界に平和が訪れた。

 しかし、それには代償があり、聖女の加護も永遠では無かった。聖女は世界を救う為に命を落とし、少年と春風魔法の使い手は女神から予言を授かった。“未曾有の異変”が世界を脅かす時、新たな“聖女”が誕生すると。ただ、何が起こるのかは分からず、それは二人が生きている間にそれは起きなかった。

 二人は悔いを残してこの世を去ったけれど、女神から慈悲を与えられて精霊として生まれ変わった。精霊となった少年は、いずれくる未来の為に“五つの宝”に想いを込めて作り上げ、もう一人の生まれ変わりや協力者達の力を得て天翼会を創設した。

 そして時を経て、その想いが形になろうとしている。


「「聖女様!」」

「「ネモフィラ様!」」


 ここに集まったチェラズスフロウレスの生徒たちが、なけなしの魔力を使って“宝”をミアとネモフィラに向かって放り投げる。“クラウン”と“マント”をミアが受け取り、ネモフィラは“イヤリング”と“ネックレス”と“リング”を受け取った。

 そして、クリマーテがミアをネモフィラの許まで届ける。


「フィーラ。これはどうやって使うものなのじゃ?」

「じ、実はわたくしもよく分かっていないのです」

「そうなのじゃ!?」

「は、はい……」


 ミアとネモフィラが二人で冷や汗を流す。

 この“五つの宝”が切り札なのは分かったけれど、その使い方が二人とも分かっていないのだ。そして、のんびり使い方について話し合っている場合でも無くなってくる。

 一瞬だけ空が紫がかった灰色に染まり、何事かと二人で空を見上げれば、大蛇の口に集まっていた魔力の塊が今まさに放たれようとしていた。


「や、ヤバいのじゃああ!」

「どうしましょうどうしましょう!」


 “宝”を抱きかかえながら慌てふためくミアとネモフィラ。その様子にルニィが苦笑し、とても落ち着いた声で話しかける。


「お二人とも、まずは落ち着いて受け取った“宝”を装着して下さい。そうすれば分かると、シャイン様とアンジュ様が仰っていました」

ければ分かるって、よう分からんが分かったのじゃ!」

「はい! 着けます!」


 二人は慌てて“宝”を身に着けようとする。しかし、その直後だ。

 遂に大蛇が大量の魔力の塊を地上に向かって発射して、それはミアとネモフィラに直撃した。魔力の塊はミアとネモフィラを呑み込むと、黒紫色の煙に似た魔力の塊が大地を這いずり回るように広がっていき、この場にいた者たちも次々と呑み込んでいく。広がっていくその速度はとてつもなく速く、逃げようとしても無駄だ。この場に集まっていた生徒等は煙に呑み込まれてしまった。

 サンビタリアが流していた映像を見た世界中の人々は絶望し、間もなくして煙に呑み込まれていった。世界は禍々しい黒紫色の煙に呑み込まれ、予言通りに“未曾有の異変”で世界が埋め尽くされた。

 しかし、そんな時だった。大蛇の真下、ミアとネモフィラが呑み込まれた場所から白金の光が現れ……いいや。そこだけじゃない。ここ幻花森林だけでなく、世界中の呑み込まれた人々がいた場所の全てから白金の光が現れて、それが魔力の塊を吹き飛ばす。

 そして、“宝”を身に着けたミアとネモフィラが姿を現した。


「あ、危なかったのじゃあ」

「はい。少しドキドキしちゃいました」


 二人は顔を見合わせて頷き合う。そして、ミアから手を繋いで、笑みを零した。


「フィーラ。何だか楽しくなってきたから踊るのじゃ」

「え? 踊るのですか?」

「うむ。閻邪の粒子は楽しい気持ちに弱いからのう。一緒に踊れば楽しさ倍増じゃ」

「ふふふ。分かりました。では踊りましょう」


 こんな時にダンスしてる場合じゃないだろ。って感じの二人だけれど、仕方が無い。今の二人を止められる者なんてこの場にはいないのだから。

 舞い踊り、二人の“楽しい”が高まると白金の光が世界に広がっていき、それを追うように暖かい風が世界を吹き抜けていく。煙が消え、代わりに白金の光が世界を包む。

 それは奇跡と呼ぶに相応しい現象だろう。白金の光が世界中で暴れる魔従まじゅうを全て元の姿に戻していき、後の訪れ吹き抜ける風が大地を癒して生命の芽が顔を出す。枯れ果てた大地は緑で溢れ、結晶化した草木が甦っていく。閻邪の粒子は光の粒子へと姿を変えて、記憶を失っていた者たちは目を覚まし、優し気な温もりに人々の目からは涙が溢れる。誰もが喜びを分かち合い、この奇跡に感謝した。

 ミアとネモフィラの頭上にいた大蛇もその白金の光と暖かな風に包まれ、粒子となって消えていく。そして、大蛇だったウドロークが姿を現し、彼はゆっくりと地上に落ちて優しく受け止められるように地面へと倒れた。


「ねえ。アンジュちゃん。私達の子孫(・・・・・)は凄いね」

「……うん。まあ、私はその前世の記憶が無いけどね」


 楽しそうに踊るミアとネモフィラをクッキーの背中に乗って眺めながら、シャインとアンジュが嬉しそうに笑みを浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
コスプレして踊ったら解決しちゃった笑 膨大な魔力を使ったミアの引きこもり計画はどうなるのか…  乞うご期待しときます
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ