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それぞれのやるべき事

 ラーンを倒せば終わり。なら良かったけれど、残念乍らそうはいかない。空高くで閻邪えんじゃの粒子を吸収している大蛇がそこにいるのだから。だから、ミアはラーンを倒すと、更に空高くへと飛翔する。そうして大蛇の前までやって来ると、その額へとミミミピストルの銃口を向けた。


「さっさと始末するの――っじゃあ!?」


 その巨体からは想像出来ないスピード。白金の光の弾丸を打とうとした時、大蛇の尾がミアを襲い、危うく地面へと叩き落される所だった。ミアは大蛇の攻撃を寸ででかわして、何とか事無きを得たのである。

 そして、直後に大蛇が甲高い声で咆哮し、同時に大蛇を中心に黒紫の光が世界に放たれた。すると、その瞬間から最悪の事態は訪れる。黒紫の光を浴びた大地は一瞬で枯れ、甦った筈の幻花森林の緑が一瞬で結晶化した。そして、それはここ等一帯の話だけでは無い。

 黒紫の光は世界を覆い、世界中の大地がここと同じ現象を起こしてしまったのだ。


「ほ、本当に急激に異変が始まってしもうたのじゃ……っ!」


 ミアは本気で焦った。将来家に引きこもる為の“引きこもり計画”を考えていたけれど、最早それどころでは無い。と言うか、全てを思い出したミアには分かるのだ。この規模の事態を収拾する為には、自分の命を投げ出す必要があるのだと。


(……今世でものんびりした生活は無理そうじゃのう)


 思い返すと、この世界で生まれてから色々あったけれど、それでも満足出来る生活は出来ていた。新しい大切な家族が出来て、掛け替えの無い友人も出来た。自分を慕ってくれる侍従たちとの生活も楽しかったし、天翼学園で出来たクラスメイトとの仲も良好だった。考え方を変えて、今は前世からの延長で老後の人生なのだと思えば、それはそれで良いのかもしれないと思った。毎日が幸せだったのだ。

 悔やむ事があるとすれば、この世界で出来た家族や友人たちを悲しませてしまう事だとミアは思った。ここ数ヶ月の間に記憶を失っていた自分にとても親切に接してくれたネモフィラたちだからこそ、自分が命を落とせばきっと悲しむだろうと分かるから。

 でも、そんな大切な人達を失う事の方がもっと辛いから、ミアは“覚悟”を決めるのだ。


「ワシはそう言うキャラでは無いのじゃがのう……。ま、それも致し方ないのじゃ」


 呟くと、ミアはミミミを魔法補助モードへと変形させ、大蛇に両手を向けて魔力を集中する。大蛇を一撃で仕留め、直後に聖なる白金の光で世界中を包み込めば、多少なりとも世界を再生させられるだろうと考えたからだ。だから、言葉通りに命を懸けて、全力で魔法を使うのだ。

 しかし、大蛇もただ見ているわけでは無い。ミアに襲いかかり、それを必死でかわし続けた。

 そしてそんな中、命を懸けて戦うミアを助けたと願う者がいる。


「ネモフィラ第三王女殿下! これ以上は危険です!」


 上空で戦うミアを見上げ、ネモフィラは口元を抑える。その手には血がへばり付き、たった今ネモフィラが吐血したのだと語っている。……そう。ミアと一緒に覚悟を決めた時から、ネモフィラも自身の命を削って魔法を使っていたのだ。

 額からは汗が流れ、その小さな体では到底耐える事が出来ない程の苦痛が彼女を襲っている。自然界の魔力を使わない魔法と言うのは、それ程に危険を伴うのだ。とうに限界は超えている。ネモフィラを動かしているのはミアへの強い想いがある故だ。

 ネモフィラを心配するユーリィは、何も出来ない無力な自分を呪い乍らも、少しでも楽になるようにと体を支えていた。


「ミア近衛騎士嬢が本調子に戻ったのです。後はミア近衛騎士嬢に任せましょう!」

「ユーリィ。危険は承知の上なのです。それに、ミアだって本当はとても危険な状態なのですよ」

「え……?」


 例え世界が枯れても、草木が結晶化しようと、ネモフィラは魔法を止めない。少しでも抵抗して、異変を少しでも遅らせようと魔法を使い続けて抵抗する。


「ミアの両足や腕が動いているのは、目が見えているのは、耳が音を聞いているのは、全部、全部聖魔法の力のおかげなのです。ミアは自分自身に聖魔法を使って、その力でそれ等を可能にしているだけです。聖魔法を使えば使う程に命を削っているのに! ミアがそこまでしてわたくし達の為に戦っているのに、その力に頼って何もしないなんて、わたくしには出来ません! 少しでも世界が絶望に呑み込まれないように、わたくしも抗わなければならないのです!」

「…………」


 ユーリィは浅はかな考えを持った自分が恥ずかしくなった。そして、自分にも何か出来ないかと考えて周囲を見て、とある事に気がついた。

 今この場には、サンビタリアがメリコとプラネスを連れて来ていて、世界に映像を送り届けている。そして、今まで気にもとめていなかったけれど、しっかりと実況していた。だからこそ彼女の言葉に耳を傾け、それを聞いて分かったのだ。自分の成すべき事が。

 そして、まるでユーリィを奮い立たせるかのようなタイミングで、メリコが声を上げる。


『さあ! お前等! 急げ急げ急げえええ! 試合は大詰め! 絆を繋げろ(・・・・・)! “宝”こそが勝利の鍵だああああああ!』


「ネモフィラ第三王女殿下! 私! “宝”を見つけて来ます!」

「え?」

「女神の水浴び場の宝は回収されていません! 私がそれを見つけます! 勝ちましょう! 未曾有の異変にも! この決勝戦にも!」


 ユーリィの目は、かつてない程の闘志で燃えていた。

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― 新着の感想 ―
さすがラスボス… ハッピーエンドには簡単にしてくれない 世界が元に戻ってもそこにミアはいないのかも…
決勝戦はどうなるのか。楽しみにしています!
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