解放された聖女の力
ミミミによって抑えられていたミアの力はリミッターを解除する事によって解き放たれて、同時に記憶が甦り、ミアは失っていた全てを取り戻した。そして、こんな奇跡が起こる事を知っていたのは、本人であるミア以外にはいない。これはミアが特殊であるが故なのだ。
ミアには元々生まれ持っている二つの能力がある。それは【魂引流帰】と【神々の助言】。一つは死亡者の魂を呼び戻す力を持ち、もう一つは光の属性を上位化する性質を持っている。この二つの能力が合わさる事で、命の灯火を燃やす程の魔力を解放した時に、魂に刻まれている失った記憶を呼び戻す事が出来るのだ。
そして、この世界にそれを知る者は誰もいない。ミアだけが記憶を取り戻した時に、ミミミのリミッターを解除した時に記憶が甦ると知っているのである。だからこそ、記憶を取り戻したミアを見て驚かない者は誰もいない。この奇跡を目の前にし、ラーンさえも目を見開いて驚いていた。そして、ラーンの側に立っていたジャッカは、ミアの解放された圧倒的な魔力の大きさに身を震わせ、強く睨みつけた。
「例え聖女が相手だろうとおおっ!!」
まるで吠えるように声を出し、ジャッカがミアに接近して剣を振るう。しかし、今のミアに敵うわけが無い。ミアはミミミピストルの銃口をジャッカの額に向けて照準を合わせて、一瞬で彼を気絶させた。
「ワシは聖女では無いのじゃ」
「ふふ。いつものミアです」
自分が聖女では無いと言い張るミアに、懐かしいものを感じ乍ら笑みを浮かべるネモフィラ。でも、残念乍ら今は談笑をしている状況でも無い。
ミアはラーンでは無く湖の上に視線を向けて、上空にいる大蛇を見て言葉を続ける。そして、直ぐに顔を青ざめさせた。
「あの蛇……何をしてるのじゃ…………?」
「え?」
ミアの質問に首を傾げ、ネモフィラも大蛇を見上げる。すると、ネモフィラも顔を青ざめさせて、ミアと顔を見合わせた。
「ま、不味いのじゃ」
「は、はい」
焦る二人。その二人の様子に、ラーンも漸く冷静になり、既に未曾有の異変の最終段階になっている事を思い出す。そして、空を見上げて笑みを浮かべた。
「ミア。パパの予知は絶対に当たる。例え貴女が聖女だろうと、来たるべき未来は止められないのよ!」
神王モークスが予知した未来は止められない。例えそれが聖女であっても。人類の終焉が既に始まっているのだ。
今、大蛇は上空で閻邪の粒子を吸収している。しかもそれは幻花森林に止まらず、世界中全ての閻邪の粒子を吸い込んでいる。閻邪の粒子には魔力が含まれておらず大蛇が上空にいたからこそ、今の今まで気が付かなかっただけで、実際にはかなり不味い状況になっていたのだ。
このままじゃ不味いと流石にミアも思い、ラーンの聖女発言を無視せざるを得なかった。
「フィーラ。あの蛇を先にどうにかせぬと不味いのじゃ。すまぬが暫らくはワシ抜きで魔法を維持してほしいのじゃ」
「はい。こちらは任せて下さい!」
ミアとネモフィラはお互いに手を離し、ミアが直ぐに白金の光の翼を背中から生やして空に舞う。しかし、ラーンがそれを見逃す筈も無い。彼女も空高く舞い上がり、ミアの前へと現れた。
「私と決着をつけるのではないの?」
「それは後じゃ。先にそこの蛇をどうにかするのじゃ」
「させるわけがないでしょう!」
ラーンの眼光が怪し気に光り、一瞬でミアとの距離を詰める。手に持っていた魔装の杖を禍々しい魔力で包み込み、それを振るってミアを襲った。ミアは咄嗟に白金の光の壁を目の前に出現させて防いだけれど、ラーンは杖に纏ませた魔力を広げて、白金の光の壁を覆い潰す。
「パパと魔従の力を手に入れた私なら例え聖女が相手でも戦えるわ!」
ラーンは叫び、ミアの背後へと回る。そして、ミアの翼へと禍々しい魔力をぶつけて、その翼を消し飛ばした。
「これで本当に最後よ! ミア!」
背後からミアの頭に触れ、魔力の塊を直接流し込む。ミアの頭は弾け飛び、そして、その瞬間に胴体が白金の光の粒子となって四散した。
「え……?」
ラーンは目を見開き、周囲を見回す。ミアの頭が消えた途端に体まで白金の光の粒子に変わった事で、それがミアでは無い事に気がついたのだ。だけど、気付くのが遅かった。既に決着はついていたのだ。
「これで終いじゃ」
「っ!」
焦ったラーンの目の前に現れたのは、額にミミミピストルの銃口を突きつけていたミアだった。何より驚いたのは、銃口を額にピッタリとくっつけられていると言うのに、その感触が全く無かった事。光に触れても感触を感じないように、ミミミピストルに触れている感触も感じていなかったのだ。
そして、ラーンに自分の姿を見せたミアは、驚くラーンへと白金の光の弾丸を放つ。ラーンは抵抗する余裕も考える暇も与えられず、白金の光の弾丸の直撃を受け、その場で白目を剥いて気絶した。




