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女神の水浴び場での決戦(2)

「パパ。聖女様の恩恵が原因って本当なの……?」

「ああ。本当だよ。ラーン。その昔、聖女様が聖なる白金はくきんの光で世界を加護し、その恩恵が世界を包み込んで平穏が訪れた。しかし、恩恵は時とともに薄れていった。聖女の恩恵は今や風前の灯火なのだ」

「じゃあ、世界はどうすれば救われるの? 未曾有の異変はどうやって防げるの?」

「再び聖女様の誕生を待つしかない。古の聖女様がそうしたように、自身を犠牲にする程の魔力を世界に解き放って、再びこの世界に加護を与えるしかないのだ」

「自信を犠牲……?」

「世界を救った聖女様は手足が動かなくなるだけではなく、視覚と聴覚と味覚、全ての感覚を失った。聖魔法はそれだけ身を削る程に強大な力なのだ。そして最後には命を落としてしまう」

「もし、もし聖女様が誕生しても、聖女様は私達の為に犠牲になるの……。悲しいよ」

「しかし、私が予知した未来は、世界が未曾有の異変に呑み込まれる。聖女の犠牲は起きないだろう」

「…………」


 これは、ラーンが神王モークスと話した記憶の欠片。ミアがラーンの過去を知った時に見た思い出の一つ。

 古の聖女がもたらした恵みが閻邪えんじゃの粒子を抑え、世界に平和が訪れた。それを知ったラーンは世界の平穏が古の聖女のおかげで、聖女が命を削って犠牲になってくれたからなのだと悲しくなった。そんなラーンにモークスは自身の計画を話し、聖女の力を必要としない世界を目指す事を語った。ラーンはモークスが聖女の代わりに自分が犠牲になろうとしている事を知り、それを阻止したい自分の気持ちを心の奥にしまい込んだ。

 そして今、ラーンの過去を見て全てを知ったミアは、ネモフィラに女神の水浴び場で何が起きるかを告げると、白金の翼を羽ばたかせて空高く飛び上がった。


「まずはここ等一帯の魔従まじゅうをどうにかするのじゃ」


 呟くと、ミミミピストルの銃口を地上に向け、魔力を集中して解き放つ。


「ミア……」


 と、ミアの名を呟いたのはネモフィラだ。ネモフィラは何かを決心したようにその光景を見て、側にいたメイクーを目をかち合わせて頷き合った。

 ネモフィラが見たのは、ミミミピストルの銃口から飛び出した白金の光。白金の光は拡散し、幻花森林にいる全て魔従へと向かって飛翔した。ミアが魔従になった人々に狙い打ちしたのだ。それはまさに奇跡と呼べる光景だった。拡散して分散していった幾つもの光が魔従となった人々を元の姿に戻し、森に静寂が訪れる。聖女の奇跡を目にした者たちは驚きと同時に感動して歓喜した。

 しかし、それだけの事をして、ミアが無事であるわけが無い。奇跡を起こしたミアの消耗は激しく、しかも左腕が動かなくなってしまったようで、だらんと垂れていた。しかし、顔には出さずに地上に降りて、冷静を装っていた。

 そんなミアにネモフィラが駆け寄ったけれど、でも、それはネモフィラだけではなかった。


「馬鹿な子。私を倒す気でいるのなら、力を使い過ぎるべきでは無かったのではなくて?」


 今がチャンスだと言わんばかりに、ラーンがミアへと接近する。ミアはラーンが告げた通りなのか上手く動く事は出来ない。けど、一人じゃない。

 ミアを護ろうとしてメイクーが魔装ウェポンを構えてミアの前に出て、ラーンはそれを見て足を止めた。そして、ネモフィラも魔装ウェポンを纏い、ミアの隣に並ぶ。


「ミア様に手出しはさせない!」

「はい。それにわたくしの春風魔法があれば、ミアを助ける事が出来ます」

「春風魔法……? パパから聞いた事があるわね。その昔聖女の仲間だった春風魔法の使い手がいたって。でも、それが何だと言うのかしら? 同じ属性の魔法が使えたとしても、それは何の役にも立たないわ」

「そんな事はございません。今のわたくしなら分かります。春風魔法は聖女の、ミアの力になる魔法です」


 ラーンの挑発するような質問に答えると、ネモフィラは春風魔法を発動する。すると、ネモフィラを中心に暖かい風に流れて気温が変化し、ここ等一帯が春の温もりに包まれた。

 そして、それがもたらしたのは、ミアを含めた仲間たちの体力の回復。傷を癒す力は無いけれど、この場にいた全員の消耗した体力を回復する事に成功したのだ。おかげでミアも多少は体が楽になり、聖魔法を使った後の反動の疲れを随分と回復する事が出来たようで、少し表情が和らいでいた。

 ネモフィラは今までの努力が報われたと思い喜んだ。しかし……。


「へえ」


 温かな空気に包まれるとラーンは感心したように声を漏らし、その演技染みた笑みは崩さない。それどころか嘲笑うような口調で言葉を続ける。


「閻邪の粒子に魔力を奪われているのに、これだけの規模の魔法を使えるのは素直に驚いたわ。でも、やっぱり駄目ね」

「駄目……?」

「だって、貴女はまだこの魔法を制御出来ていないじゃない」

「っ!」


 制御が出来ていないと言うその言葉は、本当の事だった。確かにミアや他の仲間たちの体力を回復する事が出来たけれど、それはラーンも一緒だったのだ。その結果、体力が回復したラーンがメイクーとの距離を一瞬で詰め、気が付けばメイクーが地面に叩きつけられて倒れていた。


「メイクー!」

「馬鹿なお姫様。自分の力を過信しすぎたわね。それに気付いてる? ミアは目が見えなくなって、耳も聞こえなくなってしまったようよ? それは治してあげられないみたい」

「え……?」


 ネモフィラは驚き、隣のミアを見る。

 メイクーが目の前で倒れていると言うのにミアの視線は何も無い所を見ていて、状況が分からないのか少しだけ焦った顔をしていた。その姿を見て、ラーンの言った言葉が真実であるとネモフィラにも分かってしまった。

 ミアは聖魔法を使ってしまった事で、視界と聴覚を失ってしまっていたのだ。

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ミアは聖魔法を使ってしまった事で、視界と聴覚を失ってしまっていたのだ。 ここからどうなるのか… のじゃロリじじいには元に戻って、のんびりした引きこもりスローライフをネモフィラやルニィ達と過ごすハッピ…
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