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聖女の説得

「ぬう。頭が痛いのじゃあ……」

「お水です。どうぞ」

「ありがとうなのじゃ」


 話は少し遡り、ここは幻花森林の比較的安全な場所。周囲は結晶化した草木で生い茂っていて、魔従もいない。ここにいるのは、ミアをここまで連れて来たルニィとクリマーテとニリンとマレーリアと、この場に駆けつけたサンビタリアとブラキとメリコとプラネスだけ。ミアは目覚めたばかりで、ブラキが水を渡した所だ。

 因みに水は水筒を持って来て渡しただけで、魔法とかでは無い。おかげでミアは水を補給する事が出来たわけだけど、目覚めが悪く頭痛が酷いようだった。


「貴女が寝ている間に事情は聞いたわ。危うく封印される所だったみたいね」

「うむ。めちゃんこ危なかったのじゃ。と言うか、今はどう言う状況……って、そうじゃ! こんな所で頭痛に悩まされておる場合では無いのじゃ!」


 サンビタリアが話しかけるとミアはそれに答え乍らハッとして、慌てた様子で立ち上がろうとして、足が動かないので立ち上がれない。おかげでちょっと恥ずかしい気持ちになり、恥ずかしがっている場合では無いと直ぐに声を上げる。


「ラーンと記憶を共有したおかげで色々分かったのじゃ! 未曾有の異変を止められるかもしれぬ!」

「え!? それは本当なの!?」


 ミアの言葉に驚いたのはサンビタリアだけでは無い。この場にいた全員が驚き、目を大きく見開いた。


「説明は後じゃ! とにかく早くラーンの許へ向かうのじゃ! 未曾有の異変の前にやらねばならぬ事があるのじゃ!」


 やらなければならない事。ミアのその言葉の真意は不明だ。でも、ミアが言うのであれば、きっとそれは何よりも優先しなければならない事なのだろう。と、全員が頷き、女神の水浴び場へと向かった。




◇◇◇




「貴女に何が分かるのよ!」


 そう怒鳴ったラーンの顔は、今まで見せた事の無い怒りに満ちたものだった。そこにはいつも演技染みた笑みの面影は全く無く、余裕も無い嘘偽りの無い表情だ。その顔は彼女の護衛をしていたジャッカも見た事の無い顔で、彼は思わず息を呑みこむ。

 しかし、ミアは怯まずに真剣な面持ちを崩さない。ジッと目を合わせ、口を開く。


「お主はとても優しい子じゃ。どれだけ母に過去の事を教えられても、それでもお主は自分の記憶の中にある“パパ”との思い出を今でも忘れてはおらぬ」

「違う! その男は! その男はお母さんを追い詰めて殺したのよ! 憎むべき敵よ! こんな男! 私の“パパ”じゃない!」


 この男と言って指をさし、倒れているケレムを睨んだ。

 ケレムはミアに頭をハリセンで叩かれて倒れたけれど、気を失ったわけでは無い。ただミアに背中に座られていて動けないだけだ。だから、ラーンと目が合ったけれど、睨み返さずに視線を逸らした。

 その目の動きにラーンは更に怒気を孕み、歯を食いしばる。でも、ミアはそんなラーンに向かって言葉を続ける。


「それなら何故直ぐに復讐をしなかったのじゃ? この男の家に戻って来てから、機会は幾らでもあったじゃろう?」

「そんなのこいつを利用する為に決まっているじゃない!」

「違うのう。お主と記憶を共有したからこそ分かる。お主は子供の頃の記憶にある優しい父親……“パパ”を忘れておらぬからじゃ。だから、お主は優しい“パパ”が忘れられず、神王を“パパ”と呼んで慕っておったのじゃ」

「違う違う違う! 私の“パパ”は一人だけ! 神王様だけが私を理解してくれる“パパ”なのよ!」


 ラーンは悲痛混じりな声を上げた。そして、それは傍から見ればミアの言葉が正しいと言っているように見えるものだった。


「私は! 私はこの男に全部全部奪われたの! この男に思い出も! お母さんも! 全部!」

「お嬢……」

「のう? ラーン。お主がこの男を許せぬ気持ちも本当だと言う事はワシにも分かる。しかし、それでもお主の思い出の中にいるこの男が優しい“パパ”だったのも事実じゃ。それを忘れたくて、お主は母親の事を“ママ”では無く“お母さん”と呼ぶようになったのじゃろう? “ママ”と呼べば呼ぶほど、その隣に立っておった“パパ”の笑顔を思い出すからじゃ」

「違う!」

「心の優しいお主に、親殺しは向かぬのじゃ」

「違うって言っているじゃない!」


 ラーンは怒り、右手に魔力を溜めてミアに放つ。ミアはそれを椅子代わりにしていたケレムの頭を掴んで避け、ラーンから少しだけ離れた。

 すると、ケレムがチャンスと思い、この場から逃げようとする。しかし、そんな都合よくいくわけも無い。一本の矢が飛んできて彼の目の前の地面に刺さり、更には囲むようにルーサとハッカとベギュアとクッキーが立ったので、その場から一歩も動けなくなる。

 そして、そうしている間にもミアとラーンは向かい合う。


「そんな奴は親ではないわ! ミア。貴女と話をするのはストレスが溜まって本当に面倒ね。だから、今度こそ殺してあげる!」

「むう……」

(未曾有の異変を解決する方法が結構大変そうじゃし、本当は未曾有の異変をどうにかする前にラーンを説得したかったのじゃが……。説得に失敗した以上は戦うのも止む無しじゃのう)


 記憶の共有をした事で分かってはいたけれど、ラーンの意思は固く、説得出来そうもない。だから、ミアは仕方が無いとして、ミミミピストルを構えた。

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― 新着の感想 ―
最終章の大詰めに入ってきてる… 続きが気になるから更新が楽しみと思う気持ちと、終わってしまうの寂しい気持ちとで…
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