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聖隷達の戦い

『決まったあああ! ポポ選手の渾身の一撃が決まりました! おっと。しかし、ここで気を抜いてはいけません。前方より魔従が近づいております。ここは一旦退くのが得策と言えるでしょう』


 チェラズスフロウレス所属の生徒であるポポの勝利と魔従の位置情報をメリコが実況して伝える。メリコは魔従溢れるこの状況下で実況を開始してから、ずっとこの調子で魔従と戦う生徒たちのサポートに徹していた。おかげで生徒たちも無理をせず戦えていたし、近くにいれば加勢も出来たので、かなり助かっていた。

 それに、勝利したと聞けば自分だって負けていられないと意気込みが増す生徒や、絶望せずに諦めないでいられる者たちだっている。メリコがこの戦場を世界中に届けようと提案した事で、生徒だけでなく多くの人々が助けられていた。

 そして、メリコが実況をしているこの王木では、ミアの侍従であるチコリーとクリアとムルムルが聖隷せいれいの力を使って仲間たちを援護している。のだけど、三人の体力も限界に近づこうとしていた。


「何だか頭がフラフラしてきました……」

「わわ。大丈夫? ムルムル。しっかりして」

「ごめん。休ませてあげたいけど、私だけじゃ限界がある」


 三人の聖隷の力は、チコリーが弓矢の威力を強化する力で、クリアが右目に視力増加を与える力で、ムルムルが自分を含めた三人の聖隷の五感を共有させる力だ。誰か一人の力が欠けても、この強力な援護は成り立たない。聖女であるミアの恩恵を受けた力は、三人が揃っているからこその力なのだから。


「まだまだ大丈夫ですよ。ほらほら。全然いけ――って、あれ? いました! ご主人様です!」

「「っえ!?」」


 ムルムルが少し無理して元気をアピールしようとジャンプし、その時に視界の端に映ったミアを発見する。実はミアはサンビタリアも見失っていて映像に映す事が出来ておらず、三人も居場所が分からなかったのだ。と言っても、それには理由があり、ミアを救出しに行ったルニィの提案で身を潜めていたからだった。

 幻花森林は魔従で溢れかえっていて、あまり目立つ行動は出来ない。ミアは未だに気を失っているから出来るだけ安全な場所でとなり、王木に向かわずに隠れていたのだ。

 クリマーテの魔装ウェポン兎船車ラビットシップは移動手段として便利だけど、戦闘する為の手段が無いし、その癖にとても目立つ。クリマーテ自身も運転に集中する必要があるし、ルニィは非戦闘員で魔従相手に戦えない。ニリンとマレーリアもいるけど、彼女たちは既に疲労が激しくて全力は出せない。だから、下手に動くよりも隠れていた方が良かった。おかげでチコリーとクリアとムルムルまで彼女たちを見失ってしまったわけだけども。


「どうしよう? ミアお嬢様と侍女長を迎えに行った方が良いかな?」

「駄目。クリア。忘れたの? 何かが起きた時は私達がここで援護する。それがミアお嬢様に言われた事。それに侍女長にも自分達の仕事だって言われてる」

「そうだよ~。クリっち。私達には私達にしか出来ない事をしなくちゃですよ」

「……うん」


 チコリーとムルムルに説得されてクリアが頷く。三人はミアからこの場を任されているけれど、こうしている間にも世界はどんどん悪い方へと向かっている。自分達が援護出来る数にだって限りはあるし、その殆どを女神の水浴び場に進むネモフィラたちに向けなければいけない。ここから見える範囲だけでも、今も生徒だけでなく幻花森林に住む住民たちが襲われ、絶望で魔従へと姿を変えていっていると言うのに。まだ幼いクリアには、それを見ているだけしか出来ない事が歯がゆくて仕方が無いのだ。でも、自分が今ここから動いてしまえば、この援護だって出来なくなる。それが分かっているから、二人の言葉に頷くしか出来なかった。

 するとその時、チェリッシュたちが戻って来た。チェリッシュはジャッカとの戦闘の為に、サリーにマイルソンや女性徒四人や精霊たちを任せたけれど、戦闘が直ぐに終わった事で合流出来たらしい。フォーレリーナやグラックやカールと一緒に六人と精霊たちもいて、とんでもなく疲れた様子で現れた。


「お帰り。怪我は無い?」


 彼女たちが戻って来ると、直ぐにジェンティーレが近づき、魔装ウェポン癒しの緑葉(トラッタメント)を出現させる。でも、チェリッシュはそれよりもと、直ぐに先程あった出来事を報告した。


「……参ったね。モニターの様子を見て何となく予想はしていたけど、まさか女神様が目的だったなんて」


 報告が終わるとジェンティーレが眉をひそめ、どうしたものかと考える。自分も含め、今この場から離れられる者は多くない。王木にはチェラズスフロウレスの王族だけでなく、戦う力の残っていない生徒やこの国の住民が数多くいる。今の所はリリィが殆ど一人で守り抜いてくれているけれど、それがいつまで続くかだって分からない。出来るだけ戦力を外に回すわけにはいかなかった。

 しかし、魔従化したケレムの危険性はとても高いと考えられる。一番良いのはミアに連絡を入れる事だけれど、今は連絡が繋がらないし何処にいるかも分からない。これは困ったとジェンティーレが悩んでいると、話を聞いていたクリアが「あの」と声を上げた。


「ミアお嬢様の居場所なら分かります」

「え? 本当?」

「はい。ミアお嬢様は、あちらにいます」


 そう言ってクリアが指をさしたのは、ここから三キロ程離れた場所だった。

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