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騎士王国名家の最後

「漸く見つけたぞ。ジャッカ=ミークル」

「へえ。よくここが分かったな。ケレム=ナイトスター」


 幻花森林の中心である王木おうぼくから約百メートルと近い位置。そこには小さな洞穴があり、その場所では今、騎士王国スピリットナイトの名家であるナイトスター公爵のケレムと仮面を外したラーンの護衛ジャッカが向かい合っていた。

 しかし、この場にいるのは二人だけでは無い。ケレムの背後には金で雇った傭兵が五人ほど控えていて、二人が会話をするとケレムの前に出て武器を構えた。そして、ジャッカの背後には気を失っているディオールの姿があった。彼女は元煙獄楽園の王女であり、神王モークスの実の娘だ。

 ケレムたちが現れると、ジャッカはディオールの前に立ち、腰にぶら提げていた剣を抜いた。


「やはり煙獄楽園の姫もいるようだな。その姫は良い人質になる。貴様を殺して貰っていくぞ」

「その様子だとお嬢の事を色々と調べたって感じだねえ。娘のプライベートを観賞するなんて、良い趣味とは言えないですぜ。旦那様」

「ふん。たわけた事を。そもそもアレは本当の娘では無い。貴様にもそれは分かっているだろう?」

「ああ。はいはい。そりゃあ事細かに存じておりますとも。だから、こうして罠にハマったアンタと少し会話を楽しんであげてるんでさあ」

「罠……? ――――っ!」


 ケレムが罠と言う言葉に訝しみ、疑問を抱いたその時だ。彼の目の前に出ていた傭兵五人が突然苦しみだして、数秒でその姿を変えて魔従化して一つになる。

 そうして現れた姿は、巨大なワーム。全長十メートルはあるだろう人を簡単に呑み込める大きな口を持った魔従だった。


「な、何が起きたのだ!?」

「ハハハハハッ! 簡単な事でさあ。閻邪の粒子を操作して、アンタの傭兵を俺に従順な魔従に変えただけってね」


 大きく笑みを浮かべて、ジャッカは自身の右腕をケレムに見せる。すると、ジャッカの腕が暴力的に肥大化し、悍ましい悪魔のような右腕に姿を変えた。


「き、貴様は……っまさか!」

「ご名答! 魔従の力を手に入れた俺は、その力を従えさせたのさ! 俺の事はワンランク上の、格上の魔従だと思った方が良いぜ!」

「くそっ」


 ケレムがきびすを返し、一目散に逃げ出した。

 流石に引き際を弁えていると言える行為だけれど、しかし、相手が悪い。ジャッカと言う男は、ただの護衛では無い。彼は元々煙獄楽園の神王の近衛騎士をする程の実力の持ち主で、更に魔従の力を手に入れたのだから。

 ジャッカは逃げ出したケレムを追い、巨大なワームにも彼を追わせた。


「ディオール様を狙ったのが運の尽きだったなあ! ケレム=ナイトスター! アンタの企みなんざ全てお見通しなんだよ! これ以上お嬢に害を及ぼすってんなら、俺がアンタを殺してやるよ!」

「怪物風情が! 俺様は騎士王国スピリットナイトの名家ナイトスター公爵家の当主だぞ! それが何を意味しているのか分かっているのか!?」

「くだらないねえ! そんなもの会場で名乗り出た時に捨ててんだろう!? アンタは滅ぶ世界にその名は必要無いって考えて、承認欲求を満たしたくて名乗り出た! その時にアンタの名は地に落ちてんのさ!」

「戯言を! 俺様を侮辱する事は許さん! 今に見ていろ! この戦いで勝つのは俺様だ! 俺様こそが聖女の力を手に入れ、この世界の救世主となって称えられる存在にな――っかは…………っ」


 それは一瞬の出来事だった。ジャッカがこれ以上の話は無駄だと判断して、ケレムを追う速度を上げたのだ。そして、一瞬でケレムに追いつき、彼の腹を背後から悪魔の右腕で貫いた。

 ケレムは血反吐を吐き出し、自分の腹から伸びるジャッカの右腕を見て、そのまま泡と血を吐き出し乍ら白目を剥いて絶命した。ケレムが死亡するとジャッカは右腕を元に戻し乍ら、彼の背中を蹴り上げて腕を抜く。


「お嬢とお嬢の母親を苦しめた男。漸く、漸く息の根を止められましたよ。お嬢。聖女が魔法を使えない今、これでこの男は甦らない。やっとお嬢の憂いが消えましたよ。後はワームに食わせれば……」


 ジャッカは死亡したケレムが魔従化する前に、巨大なワームに彼を食わせた。ワームは噛み砕く事無く一飲みでケレムを飲み込んだけれど、特に問題は無いだろう。と、ジャッカが洞穴へと戻ろうとしたその時だった。


「おい! 貴様! 今何をした!?」


 不意に聞こえた声に振り向くと、そこに立っていたのは水の国アクアパラダイスの生徒マイルソンと、煙獄楽園の裏切り者フォーレリーナ。そして、彼女の隣にはチェラズスフロウレスの女生徒が四人程いて、魔力が抜けて弱っている精霊のトンペットとラテールとプリュイとラーヴがそれぞれの腕に抱かれていた。


「……はあ。見られちまったか。面倒だなあ。でも、仕方ないか」

「何を言っている! 質問に答えろ! 私には貴様がそこの魔従に命令して、人を食わせたように見えたぞ!」


 マイルソンが声を荒げるととても面倒臭そうにジャッカが彼を睨み、そして、隣に立つフォーレリーナへと視線を向けた。


「久しぶりだな。フォーレリーナ=ルートルート」

「っ! 不味いです! 皆! 逃げて下さい!」

「何を――っ」


 マイルソンがフォーレリーナの言葉に疑問をぶつけようとしたその時、いつの間にか接近していたジャッカがフォーレリーナの腹を殴り、彼女は勢いよく吹っ飛ばされた。


「目撃者は殺すって決めてんだよなあ。すまねえけど全員死んでもらうぜ」

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