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侍女長と侍女は発見する

 ネモフィラたちが女神の水浴び場へと向かう頃、ミアの侍従であるルニィとクリマーテの二人は王木おうぼくを離れて幻花森林の中を移動していた。移動手段はクリマーテの魔装ウェポン兎船車ラビットシップ。彼女の魔装ウェポンは最大面積を直径二百メートルまで大きく伸ばす事が出来るけれど、今は二人が乗れる程度の大きさだ。そうする事で目立つ事を避け、なるべく魔従まじゅうに見つからないようにしているのである。

 そして、二人が幻花森林の中を移動している理由は、勿論ミアを迎えに行く為だ。ルニィの魔装ウェポン捜索の瞳(サーチアイ)を使用する事でミアの居場所が分かるので、二人は魔従から隠れ乍らも確実に進み、ミアの許へと近づいていた。


「何所を進んでも本当に魔従ばかりですねえ。やっぱりチコリー達も連れて来た方が良かったのではないですか?」

「いいえ。チコリーにはクリアとムルムルと協力してもらって、王木から聖隷せいれいの力でネモフィラ殿下を援護する役目があるのよ。連れ回すわけにはいかないわ」

「じゃあ、せめてブラキだけでも……」

「それも出来ないわ。ブラキには万が一の為にサンビタリア殿下の側にいてもらう必要があるわ。他の護衛はウルイ陛下やアグレッティ王妃を護る必要があるのよ。出来るだけその負担を減らすべきでしょう」

「そうですよねえ……」


 ルニィの言っている事は理解出来る。と言うか、クリマーテ等侍従からしたら正しい判断だ。

 聖女の侍従とは言え貴族である自分たちの護衛なんかより、王族の護衛を優先させるべきだからだ。残念乍らチェラズスフロウレスの騎士は殆どが魔装ウェポンを所持していない。そして今は魔法までもが使えない最悪の事態。こんな状態で貴重な護衛を少なくして、王族を危険に晒すなんて事には絶対にしてはいけないのだ。例えそこに圧倒的強さを見せる天翼会のリリィがいたとしても。


「近い……っ! クリマーテ! 二時の方向! ミアお嬢様よ!」

「あ……っ。ミアお嬢様ああああ! って、何ですか!? あの数!」


 ルニィが先にミアを発見し、クリマーテも続けてミアの姿を見て声を上げた。

 しかし、ミアは気を失っていて目を閉じている。そして、ミアを抱きかかえて逃げているマレーリアとニリンは、魔従の群れに追われていた。その数は百や二百では数えきれない数。

 クリマーテは目を見開いて驚き、ルニィが眉間にしわを寄せて考えが甘かったと眉尻を吊り上げた。そして、考えが甘かったと思ったのはルニィだけでなくクリマーテも一緒だ。二人はミアなら魔従を相手にしても問題無いと高を括り、だからこそ護衛を誰も連れて来なかった。

 何故なら、彼女たちはミアが気絶した事を知らないからだ。二人がミアの許へ向かったのは随分と前で、魔従から隠れ乍らなので時間が掛かってしまっていたのである。


「とにかく急いで! 貴女の魔装ウェポンならミアお嬢様達を拾って逃げきれる筈よ!」

「分っかりましたあ!」


 もう魔従から隠れる必要なんて無い。ミアを助ける為に、クリマーテは魔装ウェポンを大きくして出力を全開にし、一気に距離を詰めた。


「マレーリア様! ニリン様! 乗って下さい!」

「っ!? クリマーテ様!?」

「侍女長様も! なんで――」

「いいから早く!」

「「はい!」」


 正直なところ、かなり危ない所だった。マレーリアとニリンは逃げ続けていた為に体力は限界で、本当に後少し見つけるのが遅ければ魔従に捕まっていた事だろう。

 二人は兎船車ラビットシップに飛び乗ると、マレーリアはミアを降ろして膝を付いて肩を上下に揺らして息を切らし、ニリンもその場で仰向けに倒れた。


「た、助かり……ました…………」

「ありがとう……ご、ございま……す…………」

「安心するのはまだ早いですよお! 全力で逃げますから振り落とされないように捕まって下さい!」


 苦しそうに息を切らして礼を言う二人に、クリマーテが慌てた様子で大声を上げ、兎船車ラビットシップの出力を全開のまま固定する。ルニィはミアをしっかりと抱きかかえて兎船車ラビットシップに捕まり、マレーリアとニリンも慌てて捕まる。

 そして、追いかけてくる魔従の数は続々と増え続け、クリマーテは半泣きになり乍らも必死に全速力で逃げ続けた。

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