正気を疑う近衛隊
「はははははっ。相変わらずだな。あの馬鹿な実況者は」
「ふふふ。メリコ様らしいですね。それに、トレジャートーナメントの決勝戦が終わっていないようで安心しました」
「でも、それなら問題は現時点で“宝”を一つも手に入れていない事か」
所変わって幻花森林内のチェラズスフロウレス拠点。次から次へと湧き出る魔従とネモフィラたちは戦っていた。のだけど、メリコの声は勿論ここにも届いているし、空を見上げれば映像が幾つも浮かんでいる。それ等を見て、聞いて、ネモフィラたちはこんな状況下でも楽しそうに会話していた。
そして、この場にはミアの許から来た彼女も既に到着していた。
「流石はネモフィラ第三王女とチェラズスフロウレス寮の両翼。こんな時でも余裕ですね」
そう告げたのはユーリィだ。彼女はミアからシャインを預かり、無事にここまで辿り着いていた。シャインは今クッキーの背中に乗せられていて、一応落ちないようにユーリィの魔装で固定されている。
そして、ラティノとベギュアも魔従の相手をしつつ、シャインを背に乗せるクッキーを護っていた。
「王木からチコリー嬢の援護射撃があるとは言え、この数を相手にするのもそろそろ厳しくなってきたな」
そう弱音を吐いたのはベギュアだ。彼の顔には少し疲れが見えていて、魔法が使えないもどかしさもあり顔から焦りが見えている。王木にいるチコリーはミアを助ける際のニリンとマレーリアを援護した他にも、こうしてあらゆる場所へと矢を飛ばして援護していた。
何故それを彼が知っているのかは簡単な事で、王木にはジェンティーレがいるからだ。覚えているだろうか? ミアとの連絡手段を増やす為に、ミミミを使ってネモフィラとジェンティーレが連絡を取り合う事が可能になっている事を。実はネモフィラとジェンティーレの二人だけでも連絡が取れるようになっていて、それのおかげでお互いの状況を伝えていたのだ。
だから、今ネモフィラの頭には魔装の一つである“うさぎ耳の冠”と言う名の冠とは名ばかりな、うさ耳が生えていた。
「弱音を吐くなんて、君は魔従化願望をお持ちなのかい?」
爽やかな笑みを見せ、魔従を華麗に捌き乍ら告げたのはラティノだ。彼女の額には激しい戦いの疲れから汗が滲み出ていたけれど、それを感じさせない程の爽やかで余裕な笑みを見せている。
そんなラティノにベギュアは負けじと魔従を豪快に捌き、ニヤリと笑みを見せてやった。
「ふっ。ラティノ殿下。ご冗談を仰りなさる。私は弱音を吐いていない。ただ冷静に状況を分節したまでだ」
「それは失礼」
二人は見栄を張るように同時に笑みを見せ、次の魔従へと攻撃を仕掛ける。するとそんな時、聞き逃す事の出来ない内容が耳に入ってきた。
『おや? サンビタリア殿下。申し訳ございませんが“女神の水浴び場”の映像を拡大して頂けますか?』
『どうしたの? そこにいた生徒は既に避難したと思ったのだけれど?』
『いえ。実は……あ。やっぱりです。ウドローク陛下が何故かここに――あれ? 精霊様が捕まっている様ですね』
『ごめんサンビタリアちゃん! この子をもう少し拡大して!』
メリコがウドロークに気付き、その後直ぐに聞こえたのは焦るようなジャスミンの要求する声。その要求にサンビタリアが応えて精霊を拡大すると、鳥籠に捕えられて弱っている精霊だった。
『これ! アンジュちゃんだよ! 女神の水浴び場を管理してる精霊神のアンジュちゃん! 捜してもいないと思ったら、ウドローク陛下に捕まってたのおお!?』
ジャスミンの発言でメリコたち周囲の者が動揺し、それには映像を見ていたネモフィラたちも驚いた。
「今、女神の水浴び場を管理している精霊神様が捕まっていると仰いました!?」
「言ったな。おい。ハッカ。これってかなり不味い状況なんじゃねえか?」
「分からん。でも、その可能性は十分にある。ウドロークはラーンと何らかの関係があるのは間違いないからな」
「では、わたくし達で救出に向かいましょう」
「やっぱそれしかないよな」
「ついでに女神の水浴び場に隠されている“宝”を取りに行こうか」
ハッカの提案に、ネモフィラとルーサが口角を上げて頷き合い、ユーリィがお供しますと手を上げた。そんな四人の周囲をクッキーが楽しそうに駆け回り、シャインがその背中で目を回して顔色が悪くなる。そんな彼女たちと一匹の姿を見て、ラティノとベギュアは正気かと顔を青ざめさせたのだった。




