大切な人を護れる才能
「す、凄い。流石は天翼会の重鎮ジャスミンの右腕と呼ばれる方だ。まさか魔法を使わずして、こんなに強いなんて……」
「は、はい。本当に凄いですね。魔従を素手で次から次へと返り討ちにしています」
「まさかこれ程の実力を持っていたなんて……。全盛期の俺なんて、これと比べれば赤子のようなものだぞ……」
チェラズスフロウレスの第二王子ランタナに続き、その婚約者リベイアが呟くと、更に続いて元第一王子のアンスリウムが驚きで声を上げた。
ここは幻花森林の中心地“王木”の枝の上。今ここではチェラズスフロウレスの王族たちや、その侍従たちが集まっている。ルニィやクリマーテとヒルグラッセの姿は無いけれど、ブラキやチコリーやクリアやムルムルとネモフィラの侍従も集まっていて、彼等を天翼会のリリィが護っていた。
そう。ランタナたち三人が驚きの声を上げたその相手は、チェラズスフロウレス寮でジャスミンの補佐をしているリリィなのである。彼女はランタナたちが言うように、素手のみで襲い来る魔従を殲滅していた。そして、その背後には少し前にここに到着したばかりの者たちもいる。
「リリィ! ファイトー! 魔法を使わなくてもチートな打撃を持つリリィが頼りだよぉ!」
「ええ。任せて。ジャスミン! こんな雑魚共なんて消し炭にしてやるわ!」
「それはダメだよ! この中には魔従になっちゃった人もいるかもだから、ちゃんと手加減しないとだよ!」
「ジャスミン先生って意外と鬼畜な事を言いますよね。王族の近衛騎士でも油断すれば死ぬ相手に手加減しろとか言うなんて。そう思いません? プラネス様」
「リリィ先生ならそれが出来るって分かってるからでしょ。別に普通よ」
リリィを応援しているのはチェラズスフロウレス寮の寮長ジャスミンで、様子を見守っているのはメリコとプラネスだ。メリコは鬼畜と言ったけれど、実際にはプラネスの意見が正しいだろう。何故なら、今ここを襲っている魔従の数は百を超えているけれど、しかも次から次へと湧いて出て来るけれど、リリィはたった一人だけでとんでもないくらいに余裕な感じで全てをぶっ飛ばしているのである。
なんと言うか、それこそ一方的にと言う言葉が似合うくらいには、滅茶苦茶に余裕だった。間違いなく、ここに攻め込んでいる魔従が、チェラズスフロウレスの王族たちに危害を加えるのは不可能だと断言出来る。そして、観戦会場からメリコやプラネスやジャスミンがここにやって来たと言う事は、勿論あの二人もここにいた。
「準備は良いかい?」
「……はい」
ジェンティーレの質問にサンビタリアは頷くと、魔装三見聞を周囲に浮かせた。世界中にここで何が起きているのかを映像を流して届ける。そうする事で、世界中に勇気を与えようと言うメリコの願いを今、ジェンティーレとサンビタリアが成そうとしていた。
「さっきも話したけれど、君の魔装三見聞は全てを映し、全てを聞かせる事が出来る力を元から持っている。君に必要なのは、自分自身の力を根本から認めて理解し、使う事だけなんだ」
サンビタリアはジェンティーレの言葉を聞き乍ら、ゆっくりと目を閉じた。
「君は自分の事を才能の無い人間だと思っているようだけど、それは違う。君は誰にも負けない努力家だ。他人はそれを努力の才能なんて言うかもしれないけれど、それも違う。私から言わせてもらえば、努力は才能では無く別の力だ。だから、君が今まで積み上げてきたものは努力の才能なんて安い言葉で片付けて良いものじゃない。君自身が幼い頃から必死にしがみついて得たものだ。そして、今、その努力で得た結晶を使う時だ。君が君を本当の意味で認めて、大切な家族を、そして君を救ってくれたミアの為に。君には、大切な人を護れる才能があるのだから」
サンビタリアの人生は努力の連続だった。何の才能も無い取り柄無しの自分には、必死に努力をする必要があったからだ。アンスリウムが産まれるまでは王太子として期待され、それに応えなければならないと幼い乍らに思っていた。まだ幼かった頃のサンビタリアは、幼いながらも将来は父の跡を継いで王になると努力し、その才能の無さを必死に埋めていった。
でも、アンスリウムの誕生で全てが無駄になってしまった。それからは色々なものを憎むようになり、誰からも愛されるネモフィラには特にきつくあたった。随分と酷い事をして、それでもミアに救われ、酷い事をしたネモフィラにも親しみを込めてお姉様と呼んでもらえた。こんな自分を次の王にと王太子にしてもらえた。
だからこそ二人の為に何かがしたい。この罪を少しでも償いたい。二人の為なら何だって出来る。サンビタリアは大切な友と妹の為に、魔装へと意識を集中させた。他の誰よりも自身を犠牲にして誰かを救うミアの為に。そんなミアの事を憂い、泣かずに彼女の隣に立とうと努力するネモフィラの為に。二人の為に自分が今出来る事は、世界中の人々にここで何が起こっているのかを伝え、生きる希望を与える事なのだから。サンビタリアは、それがきっと二人の笑顔に繋がる事だと信じていた。
(大切な人を護れる才能だなんて……ふふ。とても素敵ね。でも、そんな素敵な才能が私にあるとは思えないわ。だって、私の罪が消える事は無いもの。その罪を償いきれるとも思って無い。でも、だからこそ私は私にしか出来ない事をやるの。それがあの子達への償いの一つになると……いいえ。あの子達の力になると信じてるから)
目を開き魔装にありったけの力を籠める。
「力を解放しなさい! 三見聞!」
その時、魔装が眩く光り、姿を変えた。




