幕間 侍女の決心
私はクリマーテ=ラスミリィ。ミアお嬢様の侍従になってから三ヶ月とちょっと。毎日を楽しくお世話させて頂いてます。
ミアお嬢様は五歳なのにお年寄りみたいな話し方をするけど、とっても可愛い女の子です。いつも突拍子もない事をやり出したり、男の子みたいな事をしてるのがまた可愛いんですよね。あまりにも可愛いからつい甘やかしたくなるし、いつも面白い事を言いだすので仕事中なのに笑っちゃいそうになります。
最近はミアお嬢様の考えが少しずつだけど分かるようになりました。
「クリマさん。一緒におやつを食べるのじゃ」
「わあ。じゃあ、お言葉に甘えます」
主と一緒に食事だなんて、本当はいけない事。私も最初は多少なりとも気が引けていたけど、ミアお嬢様に説得されて今ではこの通り。でも、ミアお嬢様はみんなで食べた方が美味しいと仰ってるので、今ではとくに気にする事なくご一緒してます。だって、ミアお嬢様のこ~んな可愛い笑顔で誘われたら、断る方が罪じゃないですか。
「ところで、ルニィさんは何処に行ったのじゃ?」
「ルニィはヒルグラッセの付き添いです。ジェンティーレ先生に魔装を頂くところを確認して、どんな力を使えるようになるのかを直接見て、今後の仕事に取り入れる事が出来るものであれば取り入れるそうです」
「仕事熱心じゃなあ。ワシは事後報告で十分なのじゃ」
「うふふ。私もです。わざわざ見に行かなくても、戻ってきてからで良いですよねえ」
「うむうむ。流石はクリマさん。話が分かるのじゃ」
私はミアお嬢様と微笑み合って、一緒に紅茶を口に入れる。う~ん。今日の紅茶も上出来。これならミアお嬢様も満足してくれるはず。紅茶を飲んだ時のミアお嬢様の顔が美味しいと語っているし、私も満足だ。
ミアお嬢様と一緒にお茶とお菓子を楽しみ、取り留めの無い話をしていると、話題はアネモネ様のご婚約の話になる。どうやらミアお嬢様は他国に興味があるらしく、アネモネ様の結婚式がお相手のゴーラ様の国ブレゴンラスドで行われると聞き、随分と楽しみにしているようです。
「試用入園が終わってから式をする予定で良かったですね」
「うむ。おかげでお祝いに行けるのじゃ。それに、帰りに観光を楽しむのじゃ」
「うふふ。龍神国ブレゴンラスドと言えば、やっぱり黄金街でしょうか。私も楽しみです」
「ワシは温泉街がええのう」
「シェフのグテンの故郷が隣にある町ですね。少しだけ遠回りになりますけど、急いで帰る必要もないですし、陛下にお願いしてみましょう」
「うむ。楽しみなのじゃ」
ミアお嬢様は温泉が大好きで、お城にいた時も温泉に入りたいとたまに呟いていました。でも、チェラズスフロウレスには残念な事に温泉が無いので、その願いを叶えて差し上げる事が出来なかったんです。
うう。なんてお可哀想なんでしょう。まだ幼いのに親許を離れさせられて、好きにお出かけもさせてもらえないなんて。私が五歳の頃はもっと両親に甘えていましたし、色々と我が儘だってしていました。だから、お可哀想なミアお嬢様の為にも、ブレゴンラスドに行ったら絶対に温泉街に連れて行かなくてはと使命感が湧いてきます。ただ、心配もあるんだよね。
「ブレゴンラスドに行くなら、ヒルグラッセとメイクーが魔装を受け取れる事になって本当に良かったですよね」
「ふむ? なんでなのじゃ?」
「ブレゴンラスドと言えば、今は内戦が起きてるじゃないですか。自分達は義賊だとか言ってる革命軍が頻繁に暴れ回っているそうですよ」
「ああ、その事なのじゃな。確かに物騒なのじゃ」
「はい。もし何かあったらと、それだけが心配です」
「クリマさんは気にしすぎなのじゃ。革命軍が相手にしておるのはブレゴンラスドの王家だけらしいし、観光目的で国に訪れた者には絶対に手を出さぬとも言われておる。心配する必要が無いのじゃ」
「そう……ですね。少し安心しました」
「うむ。嫁ぐ事になるアネモネ殿下は心配じゃがのう」
「ゴーラ様は王宮から離れた土地の領主になるそうですけど、確かに心配ですね。縁を切るわけでは無いので、革命軍から見れば関係ない事ですし」
「そうじゃな。しかし、アネモネ殿下もそれを分かった上で嫁ぎに行くのじゃ。何事も起きぬ事を願うだけじゃ」
「はい。私も無事を祈る事にします」
アネモネ様に聖女様のご加護が……って、聖女様はミアお嬢様なので、私はミアお嬢様に向かって祈りました。ミアお嬢様はお菓子を美味しそうに味わい、とても可愛らしい笑顔を見せてくれます。
「うむうむ。それよりも楽しい事を考えるのじゃ。例えばそう、温泉街なのじゃ。きっと夢のような所じゃろうなあ」
そう言うと、ミアお嬢様は期待に満ちた笑みを浮かべました。どうやらミアお嬢様は温泉街の事で頭がいっぱいなご様子です。この笑顔の為にも、何が何でもミアお嬢様を温泉街に連れて行かなくては!




