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欠陥品

 ラーンが遂に決行した“聖女魔女化計画”の闇に呑み込まれ、白金はくきんの輝きが消えていく。全身を闇に覆われたミアは車椅子から転げて地面に倒れ、まるで心臓を握られたような苦しみに胸を掴んだ。するとラーンが演技の無い笑みを浮かべて、更に闇が色濃く黒紫色に染まっていき、ラーンの全身までもが暗闇に包まれる。近くで魔従まじゅうと化した生徒と戦っていたニリンとマレーリアはそれに気が付き、ミアを助けようとするも、それを魔従になった生徒に邪魔されてしまった。

 ミアは意識が遠のくのを感じ乍ら、そのまま目を閉じた――




 パパ。ママ。見て? ねこちゃんがいる。ほらあ。可愛いよ。


 ははは。本当だ。可愛いね。フリール。でも、フリールの方がもっと可愛いよ。


 ふふふ。ケレムったら。でも、ママもフリールが世界で一番可愛いと思っているわ。




 ――目を閉じて見えたのは、自分の知らない誰かの記憶。優しそうな母親と父親の姿。女の子の声は何処かで聞いた事がある声だったけれど、姿は見えない。


「貴女は死ぬ事も出来ずに永遠と苦しみ続けるのよ! それが聖女である事を拒み続けた貴女の贖罪しょくざいになるの!」


 ラーンの言葉で意識が戻り、しかし、今も尚ミアの脳に直接流れてくる誰かの記憶。ミアは顔を上げ、ラーンに視線を向けた。

 すると、闇に包まれていて視界が悪いと言うのに、何故かラーンが鮮明によく見えた。ラーンの目を見たミアは怒りの奥にある悲しみを捉え、そして、彼女こそが今も自分の中に流れてくる記憶の持ち主だと知った。


「フリール……」


 自然と声が漏れ、ラーンの目が見開かれる。まるで信じられないものを見る目でミアを見て、目つきを鋭くし、直後にラーンの身にも異変が起こった。

 ラーンは魔従の卵をミアに向けていない方の手で頭を押さえ、地面へと膝をつく。そして、驚愕の表情を見せ、ミアと目をかち合わせた。


「なによ……っこれ! ミアの記憶が……っ!? まさか……っ」


 聖女魔女化計画の為に作られた欠陥のある試作品。それにはラーンも知らなかった使用者と聖女の記憶の共有と言う欠陥があった。これを開発していた錬金術師エマティスがこれを欠陥品としたのは、対象となる聖女が封印後に永遠と苦しむからでは無く、その聖女を取り込む際に記憶が共有されるからだったのだ。

 当時の開発段階では、聖女が苦しむかどうかは問題にはならなかった。大事なのは聖女の力を制御してコントロールする術を手に入れる事であり、聖女の事などはどうでも良かったのだ。

 しかし、この試作品には大きな問題があった。それが使用者と聖女の記憶の共有だ。特に聖女の記憶が使用者の脳に流れてくる事が非常に問題で、聖女の生い立ちや人となりを知ってしまう事で、最悪の場合は使用者が聖女に感情移入してしまって同情して裏切る可能性が出てしまう。そうなれば聖女魔女化計画は水の泡となり、使用者の裏切りと言う形で聖女が解放されてしまう。だからこそ、この試作品は欠陥品として処分された。

 ラーンはそれを知らずに、密かに回収して手元に残していたのだ。


「見ないでええええええ!!」


 ラーンが見たミアの記憶は、ミアが記憶を失ってからのこの世界で経験した記憶だけだ。前世の記憶は見ていない。でも、ミアが漏らした「フリール」と言う自分の本当の名前と、自分が見た記憶があれば理解出来る。ミアも自分と同じように過去の自分の記憶を見た事を。

 だから、ラーンは直ぐに魔従の卵の力を停止した。


「ラーン……お主…………」

「っ! 何よその目は! 私を哀れむって言うの!?」


 二人を包んでいた闇が消える。二人の目がかち合い、ラーンはミアを睨んで怒声を上げた。

 でも、そんなラーンに言葉を返す余裕がミアには無かった。ミアは記憶の共有のおかげで封印を免れたけれど、与えられた負担は大きかった。ミアは再び意識が遠のいていくのを感じて、そのまま目を閉じて意識を失ってしまったのだ。

 しかし、ラーンの怒りは治まらない。


「許さない許さない許さない! 私の記憶を! お母さんとパパとの想い出を! 貴女にだけは見られたくなかった! 聖女である事を拒み続けた貴女にだけは!」


 ラーンには分かっていた。記憶が共有されたのは、自分が招いた事なのだと。でも、それでも許せなかった。聖女としての力を持ち乍らそれを隠して生きてきたミアに、母との大切な思い出を汚されてしまったような気がしたのだから。


「もういい! 聖女の力なんていらない! どうせお母さんは甦らないのよ!」


 ラーンはミアを封印しようとしていた魔従の卵を破壊して、ミアへと向かって歩き出す。


「「ミア様!」」


 ニリンとマレーリアはミアを助けようと駆け出すけれど、それも魔従化した生徒に邪魔されて側に行く事すら出来なかった。そして、ラーンはミアの側まで来ると、胸元にある魔従の卵を片手で触れる。


「パパ。聖女を殺す事を拒んでいたパパの力で、私は聖女を殺すわ。ごめんね」

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