実況者達の戦い 後編
サンビタリアの魔装を使って、この状況を世界中に届けよう。そう高らかに宣言したメリコだけれど、それを聞いたジャスミンとプラネスは乗り気になれない。今はそんな馬鹿な事をしている場合では無いと、今直ぐにでもここを飛び出してしまいそうなメリコを説得する事にした。
「えと……確かに会場内で戦ってる子達は魔装で戦ってるし、使えるとは思うけど、何で世界中にこの状況を見せるの? もっと他に何かした方が良い事があると思うの」
「そもそも意味が無い。こんな場所からはさっさと逃げて、安全な場所に行くべき」
ジャスミンとプラネスの意見は最もだろう。こんな状況になってしまったら、今は映像をお届けなんてしている場合では無いし、安全な場所があるとも思えないけど逃げるべきだ。
でも、メリコは自分の意見を曲げるつもりが無いらしい。その顔はとても真面目で、プラネスをジッと見つめた。
「プラネス様」
「……何?」
「覚えていますか? 煙獄楽園が滅んだ時に、私達二人で誓った事」
「っ!?」
煙獄楽園は二人にとって元々所属していた国だ。神王が破れて滅んでも尚その事は黙っていて、それを知る者は僅かしかないない。もうあの国と関わりが無くなったとは言え、天翼会にも内緒の事で、決して知られてはならない事だった。
だから、ジャスミンがいる場で突然メリコが煙獄楽園の名前を出した事にプラネスは動揺した。
「私は今でもハッキリと覚えています。あの時私達は――」
「ま、待て! 待って! 言うな! 私達は――」
「――そうです! 私達は煙獄楽園の元スパイ! 天翼会の敵です!」
「馬鹿!」
言ってしまった。ジャスミンがいるのにも関わらず、メリコは包み隠さず話してしまった。
その事にプラネスが珍しく焦った顔を見せ、そしてジャスミンへと視線を向ける。ジャスミンは少し驚いた顔をしていたけれど、でも、何故か柔らかな笑みを見せた。
そして、メリコがプラネスの頬を両手で掴み、視線を自分へと戻させる。
「あの時私達は誓いました! 私達は天翼学園が好きです! 家族も友達も! 先生も寮母様も! みんなみんな大好きです! 聖女である事を隠したがるくせに、いつも誰かの為に戦うミア様が大好きです! だから、例え国を裏切る事になったとしても、ミア様のように全力でみんなの幸せを護ろうって誓ったじゃないですか!」
「…………」
「きっと、今ここで起きている事は世界中で起きます! 煙獄楽園の駒だった私達なら、プラネス様ならそれが分かるでしょう? だからこそ私は伝えたいのです! 今、ここで何が起きているかを! 伝えなければいけないんです! 大切な人達を護る為にも! 大切な人達が戦っているこの場所を! それが誰かの戦う力になると、誰かを救う力になると信じているから!」
「…………」
メリコの真剣な眼差しがプラネスの瞳を小さく揺らす。プラネスはクスリと笑みを浮かべて、小さな声で「バーカ」と呟いた。
その言葉にメリコが驚いた顔を見せて手を離すと、プラネスはいつもの顔に戻って両手で頬を擦った。
「二人だけの秘密をよりにもよって天翼会の重鎮の目の前で言うなんて。本当、貴女といると疲れるわ」
「う。ごめんなさい」
さっきまでの勢いはどこへやら。メリコは顔を青くさせて、少し俯く。
「返す言葉もございません……」
「いいわよ。別に今に始まった事では無いしね」
申し訳なさで罪悪感が湧き出たのだろう。メリコは汗を流し、更に俯いた。
「でも、嫌いじゃないわ」
「プラネス様……?」
顔を上げると、自分を真っ直ぐと見つめるプラネスの目と目がかち合う。その顔は何処か優しくて、いつも辛辣な彼女が見せないものだった。
「ジャスミン先生。今直ぐサンビタリア殿下とジェンティーレ先生を捜しましょう。この事を全世界に伝える事。それが今の私達に出来る事みたいですから」
その顔に迷いはない。プラネスの顔を見て、メリコは顔が晴れていく。そんな二人を見て、ジャスミンも笑顔で頷いた。
「うん。伝えよう。きっと、それが今の私達に出来る事だもんね」




