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未曾有の異変(2)

魔従まじゅうの卵の中に神王の魂が封じられておる……じゃと?」

「恐らくは……だけどね」


 話は少しさかのぼり、ここは天翼学園のチェラズスフロウレス寮保健室。決勝戦を前にして、ミアはジェンティーレとラーンが机の引き出しに隠していた可能性がある魔従の卵について話をしていた。


「煙獄楽園の錬金術工房に総支配人のエマティスと言う名の女性がいたんだけど、何者かに殺されたの。で、犯人を調査している過程で、その女性の研究室からこんな物が見つかってね」


 ジェンティーレが“こんな物”と告げてミアに見せたのは、研究ノートと書かれた書物だった。ミアはいぶかしみ乍らそれを受け取ると、パラパラとぺーじめくる。


「む? 聖女魔女化計画……? はて? 何処かで聞いたような気がするのじゃ」

「フォーレリーナがその件を少し知っていたからね。彼女は詳しく知ってはいないようだったけれど、そこに詳しく書かれているんだ」

「ふむ。ふむふむ…………ふむ? 聖女の魂を魔従の卵に入れる……死んだわけでは無く、肉体と一緒に保存も可能……なのじゃ? まさか……っ」

「そう。行方不明となった神王は魔従の卵の中に封印された。そして、それを持っているのはラーン。可能性はかなり高いと思うよ」

「とんでもないのう……む? ここに書かれておる事が本当なら、魔従の卵の中に封印された神王の力をラーンが使える事にならぬか?」

「なるね」

「しかも、ちょっと待つのじゃ。閻邪の粒子まで自由自在に操れるのじゃ!? とんでもないのじゃ!」

「これを作ったエマティスって錬金術師はとんでもない天才だよ。軽く嫉妬してしまうね」

「よし。そうと分かれば、ワシ、ちょっと甦らせて来るのじゃ」

「待て待て。君、今の君の状態分かってる? 聖魔法禁止中なの」

「し、しかしじゃなあ。このまま死なせておくのも可哀想じゃろう?」

「可哀想でも駄目だ。私は君の体の方が心配なの」

「むう……」

「まあ。神王の力で何を企んでいるかは知らないけれど、面倒な事になったのは確かだね。だから、くれぐれも気をつけるんだよ。ミア」

「……分かったのじゃ」


 少しいじけた様子で頷くミアに、ジェンティーレは本当に分かってるのかと問いたくなってやめる。その代わりに、そのいじけた頭を優しく撫でた。




◇◇◇




 所変わって精霊王国の幻花森林。突如現れた異様な二つの魔力と、マレーリアの魔力の揺らぎを感じ取り、ラーンのいるこの場へとミアは駆けつけていた。そして、どす黒い雲や大地から湧き出る閻邪の粒子の原因と思わしき穴を見つけ、その側にいるラーンの胸元の魔従の卵を見て確信した。彼女がこの異変の原因で、今まさに“未曾有の異変”が起ころうとしていると。

 ラーンからは相変わらず魔力を感じないけれど、明らかに異様な何かを感じ取れる。更に魔従と思しき木の化け物と蜘蛛の化け物がラーンの側で静かにたたずんでいて、それがやけに不気味に見えた。

 恐らくそれを含めて、聖女魔女化計画で使う予定だった魔従の卵の力なのだろうと、ミアはラーンの底の見えない不気味さを警戒する。しかし、今はそれどころでも無いのも事実。早くこの状況を、未曾有の異変を止めなければならない。


「事情は後で聞くのじゃ。すまぬがワシには先にやらなければならぬ事がある様じゃしのう」

「無駄な事よ。未曾有の異変は既に始まったわ。もう貴女には止められない。聖女の力を使えない貴女にはねえ!」

「それはもう解決済みじゃ」

「私がミアちゃんの力になるから」


 ミアの言葉に続けるようにして声を上げ、聖属性精霊神であるシャインが姿を現す。それには何も知らされていなかったらしいマレーリアだけでなく、ユーリィとニリンまでもが驚いた顔を見せた。

 しかし、ラーンは特に気にした様子も無く、演技染みた笑みを浮かべる。


「へえ。パパから聞いた事があるけど、貴女が聖属性の精霊なのね」

「そうだよ。私の加護をミアちゃんに与えて、聖魔法を使えば異変は止められるの」

「本当に何も知らないのね。貴女も。そしてミアも」

「のじゃ?」

「私が何も知らない……?」


 何も知らないと言われてミアとシャインが驚いたけど、その驚き方は少し違っていた。

 ミアは何を知らないのかと言う風だったのに対して、シャインはまるで私は分かっているとでも言いたげな顔だ。その差にラーンは予想通りだと演技染みた笑みを浮かべて、言葉を続ける。


「ミア。加護を変換して出来た魔力を、貴女がその精霊から受け取って聖魔法を使えば、その精霊は消滅するわよ」

「な……っんじゃと!?」


 消滅するなんて聞いておらず、ミアは驚きシャインを見た。すると、彼女はそれを知っていたらしく、小さく「何でそれを」と呟いて驚き、ミアと目が合って慌てて両手で口を隠す。


「本当の事なのじゃ……?」

「…………」


 ミアは俯くシャインの顔を見て察した。それを知れば自分が聖魔法を使わないだろうと思い、隠していたのだと。だから、言わなかった。いいや。嘘をついていたのだ。

 今まで契約をせずに黙っていたのは、魔力操作が難しいからなんて理由じゃない。契約して一度でも使ってしまえば、シャインが消えてしまうからなのだ。

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