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混乱する観戦会場

 ミアたち三人がキノコの化け物で騒いでいる頃だ。

 幻花森林の端の方に建設された観戦会場でも、その化け物の姿が映し出されていて、会場内は騒がしくなっていた。実況をしていたメリコやプラネスも動揺していて、その話題で持ち切りである。


『ええ。皆さん。精霊王国からの情報によりますと、聖女様が遭遇した魔物の情報は一切無いとの事です。現場にいる先生方の判断次第では危険と見なし、決勝戦は一時中断となって、試合会場の安全の確認をする事になります。現状では試合の中断はしていませんが、皆さんは暫らくここで待機して下さい』


 一時的なものとは言え、決勝戦の中断。その可能性があると聞いて、観戦会場は騒然となる。

 実はキノコの化け物がミアの前に現れた直後にメリコの実況が中断され、観戦会場の声が外に漏れないようにと音を遮断する魔法がかけられていた。勿論それをやったのはジャスミンと契約している音の精霊神ミユだ。ジャスミンがミユにお願いして、直ぐに外部との連絡を取れなくしたのである。


「ジャスミン先生。他に皆に知らせた方が良い事はありますか?」

「ううん。今は大丈夫。状況を確認しに行った先生からの連絡を待つ事だけだよ。でも、結果次第で皆には学園に戻ってもらうかもしれないけど、それはまだ言わなくていいからね」

「分かりました」

「先生。私にはキノコが突然魔物になったようにしか見えなかったのですけど、あんな事が本当に自然に起こった事なのでしょうか? 私は今でも信じられません」

「うん……。そうだね」


 あの時、ミアの目の前にキノコが化け物が現れる直前を、この観戦会場のモニターは映していた。

 音声拡張の魔道具マジックアイテムのスイッチを切って話す二人に、ジャスミンは同意して頷いたけれど、実は大方の予想は付いている。いや。知っていると言った方がいいかもしれない。


(ミアちゃんは気づいてるのかな? ううん。気付いてるよね。閻邪えんじゃの粒子をあのキノコが取り入れて魔従まじゅう化した事)


 ミアはユーリィとニリンの足を止めさせて、閻邪の粒子を放出させるキノコを見た。ミアの前に現れたキノコの化け物は、そのキノコが化けた姿だったのだ。そしてそれは魔従化によるものだった。

 魔従化と言えば煙獄楽園だが、煙獄楽園と深い関わりのあるメリコとプラネスは本当に分かっていなかった。彼女たちは煙獄楽園から送られて来た諜報員だけれど、だからと言って全てを知っているわけでは無い。必要最低限の情報は仲間内にも漏らさない。それが神王のやり方なのである。だから、二人には本当に何が起きたのか分からない現象だった。

 しかし、プラネスは何か思い当たる節があるのか、少し考える素振りを見せているけれども。


「ミユちゃん。ラーンちゃんが何処にいるか、まだ分からないんだよね?」

「うん。誰からも見つけたって報告はきてないよ。それに一緒に同行していた生徒も」

「まさか見失っちゃうなんて思わなかったな。失敗したよぉ……」


 実はラーンの動向も分からなくなっていた。ミアがラーンの魔力が探れないのと同じで、ジャスミンたち天翼会の者たちも見失っていたのだ。そしてそれは天翼会がラーンを見誤っていた事が原因でもあった。


「映像機の魔力探知機能を宛てにしすぎちゃったね。わたしの音感知まで防がれてると思わなかったし、付き添いの二人にまで対策を施してるもん。お手上げだよ」

「本当だよぉ。ラーンちゃんって私達が思っている以上に……ううん。そもそも学園で見せていた実力は本物じゃ無かったのかも。見抜けなかったなぁ……」


 メリコとプラネスに聞こえないように、こそこそと話すジャスミンとミユが言っているように、ラーンは全ての情報を与えないように対策していた。

 トレジャートーナメントで使われている映像を読み取るカメラのような魔道具マジックアイテムは、魔力を探知して移動する物だ。勿論そこ等に設置された物もあるけれど、監視カメラの死角と同じように、どうしても見れない部分は出てくる。それを補うのが、その魔力探知の機能を付けた映像機だった。今まで観戦側に都合よく必ず映像が流れていたのは、その魔道具マジックアイテムのおかげでもあったのだ。

 しかし、ラーンは連れている女性徒二人の魔力も探知出来ないようにする事で、それから逃れる事が出来ている。しかもここは精霊王国。この国の精霊王ウドロークと繋がりがあり、カーリーのように天翼会の中にも駒がいるラーンは、設置型の映像機の死角を知り尽くしている。隠れて行動するなんて簡単な事だった。更には音の精霊神であるミユの音感知まで防ぐ術を手に入れていて、最早現地に向かって目で見つけるしか方法が無いのだ。

 ジャスミンが現状にため息を吐き出したくなり我慢すると、更に最悪な情報が飛び込んできた。


「おい。今度は魚が魔物になったぞ」


 それは、観戦会場にいた生徒の一人、誰かが小さな声で呟いた言葉だった。

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