戦いの始まり
幻花森林で暮らすエルフの様子を見ていたミアは、次に“女神の水浴び場”へと向かっていた。でも、それはそこに宝が隠されているからなんて理由では無い。
確かに宝はある。ここに宝を探しに来たスピリットナイトの生徒等は未だに見つけていないし、何ならチェラズスフロウレスとオールクロップの生徒も到着していて、現在は三つ巴戦の状態なのだから。
なら、ミアは加勢しに行ったのかと言うのも違っていて、他の理由があった。
「湖の向こう側……エルリーフ側から数名じゃが誰かが近づいて来ておるのじゃ」
「ナイトスター公爵の手の者でしょうか?」
「恐らくそうだと思うのじゃが、何とも言えぬのう。この国のエルフ等は避難しておらなんだじゃろう? それならエルリーフ側のエルフも興味本位で見物に来てもおかしくは無いと思うのじゃ」
「確かに……」
「私なら危険だったとしてもミア近衛騎士嬢の勇士を見る為に来ますね」
ユーリィの妙な説得力のある言葉。これにはミアも冷や汗を流す。けど、ニリンは力強く頷いて「分かるわ」と同意した。
「とにかくじゃ。その確認だけでも……む? ちょっとストップ。止まるのじゃ」
「あ。はい」
「どうされました?」
ミアに言われて二人は立ち止まって首を傾げた。すると、ミアは自分で車椅子の車輪を回転させて進み始めて、首を傾げた二人は慌ててその後を追う。そうして進んでいた方向から少し外れた場所に辿り着くと、そこに生えていた木の根元をミアが眉間に皺を寄せて見つめた。
「ミア様?」
「閻邪の粒子じゃ」
「「――っ!?」」
「木の根元……違うのう。キノコから閻邪の粒子が出ておる」
「そ、それって――」
「見つけたぞ! 聖女だ!」
「っ!」
不意に聞こえた男子生徒の声。振り向けば、こちらに向かって五人の男子生徒が走っていた。彼等は騎士王国スピリットナイト寮の生徒のようで、騎士王国の鎧を身に着けている。
「聖女様。貴女様を一番の脅威と見て、ここで足止めさせて頂きます」
恐らくミアの攻撃手段を調べたのだろう。ミアたちを見つけた生徒がそう告げると、その生徒含めて全員が顔や頭を覆う大きなヘルムを被り始めた。
何でも貫通してしまう白金の光の弾丸を飛ばせない今のミアには、それなりに良い対策だ。鎧を着ているから隙間も無いし、中々の防御力と言って良いだろう。しかし、甘い。
「ミア近衛騎士嬢が戦うまでも無いわ! 私だけで十分よ!」
ユーリィがミアの前に出て、勝気な笑みを浮かべて魔装褒美の時間を出現させ、男子生徒等に向かって飛ばした。
「舐めるなよ! こんなもの!」
男子生徒の一人が前に出て、剣の形をした魔装を取り出して振るう。
しかし、褒美の時間は一見ただの縄にしか見えないけれど、立派な魔装だ。その性質は他の魔装と変わらない。そんじょそこ等の攻撃では切れたりしないのだ。
結果は当然切れる事無く魔装と魔装の衝突に終わり、褒美の時間が切れる事は無かった。でも、それだけでは終わらない。ユーリィの狙いはここからだ。
「今よ!」
「任せて!」
「馬鹿野郎! 右だ!」
「っ!」
男子生徒はユーリィの言動に油断して周囲への警戒を怠っていた。彼は今、顔や頭を覆うヘルムを被っている。それは視界が狭まれてしまい、首を回さなければ真横は完全に見えないものだ。
仲間が右と教えた時には既に遅く、右を向いた時にはニリンが近づいていた。そして、ニリンが素早く彼のヘルムに触れて、魔装を発動する。
「手動の扉」
「――っ」
「ミア様!」
「ナイスなコンビネーションなのじゃ」
と、ミアが二人を褒めた時には既に終わっていた。ニリンが魔装の力で男子生徒のヘルムを強制的に外し終えてミアの名前を呼ぶ前には、既にミミミピストルから風の弾丸が放たれていて、男子生徒は額にそれを食らって気絶していたのだ。
ニリンは男子生徒が気絶すると、素早くミアの許へと戻って行く。残った四人の男子生徒等は三人の見事な連携を見て圧倒され、ごくりと息を呑み込んだ。




