不穏な動き
ミアが幻花森林に住むエルフたちの様子を見に行っている頃、“キング”であるネモフィラはルーサと一緒に拠点で作戦会議をしていた。作戦会議と言うだけあって二人の顔は真剣で、流石はトレジャートーナメントの決勝戦と言えるもの。
「ミアへ誕生日の贈り物を渡す時期は誕生日会の最中より始まる前の方が良いでしょうか」
「ん~。確かに誕生日会の最中だとその他大勢のと一緒になりそうで、特別感が出ないかもしれないな」
「そうなのです。ミアは今や聖女と知られて祝いたいと仰る方も沢山います。その中でも特別感がほしいのです」
はい。と言うわけで、その話今必要? って感じのネモフィラとルーサ。決勝戦そっちのけでミアの誕プレを渡すタイミングの事で頭がいっぱいである。二人は紅茶を飲み乍ら、今はどうでもいい事を真剣に話し合っていたのだ。
「周囲の偵察に行って来た……ぞ…………。おい。二人で何してる」
「あ。ハッカ。お帰りなさい。お茶を飲んでいました」
「お前も飲むか?」
「…………」
地図はあれど周囲は木ばかりなので実際に目で見て確認しておかないとと言う事で、偵察に行っていたハッカが帰って来た。のだけど、帰って来てみればネモフィラとルーサが茶を飲み乍ら話しに華を咲かせていたので、ハッカがジト目を向けて問えば、お茶を飲むかと質問で返ってくる。決勝戦でもマイペースな彼女たちにハッカは少し苛立ちを覚えたけれど、一々気にしていてもいられない。質問には答えず、ネモフィラたちに報告する事にした。
「地図の通り、地形に変わりはない。でも、ミアの予想通りでエルフ達は避難をしていなかった。この近くにも民家が……こことここだな。にあったぞ」
こことここ。そう言って地図に指をさす。それはチェラズスフロウレスの拠点がある場所の近くで、両方ともだいたい二百メートル程の距離しかない場所だった。
「随分と近いですね」
「せめて住民を避難させてくれていたら良かったけど、こんなに近いと考えて動かないと戦いに巻き込みそうだろ?」
「決勝戦は従来通りの無人島でやった方が良かったよな」
「確かに準決勝では毎年決勝戦で使われていた無人島で行いましたけど、魔物の対処が大変だった以外はとても戦いやすかったと存じます」
「だろ。魔物があそこまで面倒なのは今回が初めてだし、決勝戦はやっぱり好き勝手に動き回れないとな」
ルーサは文句を垂れると、再び地図に視線を移す。そして、人差し指の指先で地図をトントンと叩き、ネモフィラとハッカの注目を指先に集めた。
「一先ずはここに向かったミアが帰って来るのを待つしかないな。他の連中も“宝”の在り処に向かったけど、当分帰っては来れないだろうしな」
「はい。ミアの予想では、食恵の国も騎士王国も同じ場所に向かっている筈です」
「ただラーンの動向だけは気になる。ミアもあの女だけは分からないと言っていた。ミアの話ではラーンの魔力だけは読み取れないと言っていたし、出来るだけ早く捜索班が見つけてくれると良いんだけど……」
「そうですね。とにかく、わたくし達は今は待ちましょう。決勝戦意外にも、対策しなければならない事があるのですから」
三人は真剣な面持ちで頷き合い、そして、ネモフィラとルーサは紅茶をおかわりする。そんな二人に、ハッカは緊張感が足りないなと思うのだった。
◇◇◇
所変わって、ここは幻花森林のとある場所。王木から三キロほど離れた地点で、少しだけ木々が密集していない空けた場所。そこにはラーンと、彼女がスピリットナイト寮で従えている女性徒が二人いた。
「あ、あの、ラーン様。本当にここに“宝”が埋まっているのですか?」
「ええ。そうよ」
「でも、誰かに掘られた跡は無いように見えますけど……」
「それに見て下さい。ここに生えている雑草は誰かが手を施したようにも見えません」
「いいから掘りなさい」
「……はい」
「かしこまりました……」
女生徒二人は何故こんな所をと不審に思い乍らも、逆らえずに言われた通り掘り進める。彼女たちが掘り進めるその場所から、閻邪の粒子が湧き出ているとも知らずに……。




