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決勝前の考察

『さあ! いよいよトレジャートーナメントの決勝戦の日がやってきました。皆さん改めましてわたくし実況のメリコ=ンータと申します。そして解説を担当して頂くのはこの人』

『プラネス=シャンクーエよ』

『そして、本日も来て頂きました。天翼会からはこちら』

『ジャスミン=イベリスです。よろしくね』

『よろしくお願い致します。と言う事で、今回もいつもと変わらぬこの三人で実況と解説を務めさせて頂きます』


 ミアやネモフィラたちが拠点に辿り着いて少し経った頃、いつもの実況者たちの声が幻花森林に響き渡る。今回は決勝戦と言う事もあり前振りが長いようで、開始の時間よりも少し早い時間からの会話が始まった。

 彼女たちの会話が聞こえ出すと、拠点で準備を進める生徒たちもいよいよだと緊張しだす。でも、ミアはいつも通りだ。今回の舞台となった幻花森林や、その中にある“女神の水浴び場”を地図で確認して場所を確認し、作戦を考えていく。

 それから今回は騎士王国のナイトスター公爵の件もあるので、冒険者や傭兵を集めた彼への警戒を怠らないように仲間たちに注意を呼びかけた。


(エルリーフの国長くにおさの話じゃと……)


 緑園の国エルリーフの国長。彼はミアとの話し合いの場を願い、そして、とある情報をミアたちに提供してくれていた。


(エルリーフ側にある女神の水浴び場の周辺に謎の集団が集まっておるらしいのじゃが、エレメントフォレスト側の女神の水浴び場がこの辺りであれば、やはり試合中に様子を見に行く事は出来ぬのう)


 国長がミアにもたらした情報とは、謎の集団が国内に集まって来ていると言うものだった。

 そもそも緑園の国は精霊王国と隣接している国であり、その境目に女神の水浴び場と呼ばれる湖がある。女神の水浴び場の管理は精霊王国に所属する精霊神が管理している為、緑園の国にも女神の水浴び場が領地として存在しているけれど、出入を許されていないと言う特殊な契約があった。それは国同士の決まりでは無く、精霊神が命じたものの為に覆す事の出来ない決まり事だ。

 ただ、逆も然りであり、精霊王国側から女神の水浴び場を通って緑園の国に入国する事も禁じられている。と言っても、そもそも女神の水浴び場へ入ること事態が普通は出来ないので、そんな事はあり得ないのだけれど。

 しかし、今回のトレジャートーナメントでは聖女の存在がそのルールを覆した。精霊神の許可が下りて、精霊王国側から試合中のみ生徒だけが女神の水浴び場へ出入が許されているのだ。勿論審判である天翼会の者も許可はされているけれど、それは厳選を重ねた結果、ジャスミンと契約しているトンペット等精霊のみと決まっている。

 そうして特例で出入りが許された女神の水浴び場だけれど、一部は緑園の国の領地の為、少し特殊な状態なのである。


「女神の水浴び場は一応全部が決勝の範囲じゃったか?」

「はい。緑園の国の国長様も是非と仰っていたと聞きました。ですが、緑園の国側…は場外になるそうです」

「であれば、何かあるとすればそちら側じゃのう」

「はい。ナイトスター公爵が何かをするのであれば、恐らくそこから侵入して来るのではとサンビタリアお姉様も仰っていました」

「じゃのう」


 頷くも、目的が本当に分からない。決勝で何かする予定なのか。それとも終わって皆が油断している時に何かする予定なのか。もしかしたら気にしすぎなだけかもしれない。しかし、一つだけ確かな事はある。


(国長の話じゃと、謎の集団を調査しようと向かった調査隊が、何故か数時間後に森の中での記憶を失って戻って来るらしいのじゃ。何やらお香のような匂いを付けて戻って来ると言うておったし、欺瞞ぎまんのお香が使われておる可能性も十分にあるのじゃ)


 人を騙す事に長け、記憶を改ざんする力を持つ欺瞞のお香。煙獄楽園が各国にスパイを送り込む為に使っていたそれを使っているのであれば、国長の話も納得がいく。ヒルグラッセを緑園の国の国長の許に向かわせたのは、万が一に備えてそれ等を教えて、彼等に協力を要請する為だ。


『さあ! 皆さん! 大変長らくお待たせ致しました!』


 残念乍ら考えるのは終わりだ。決勝の時間がきたらしい。

 メリコの声が張り上げられ、ミアは顔を上げた。


『精霊王国幻花森林にて行われるトレジャートーナメント決勝戦! 聖女ミアを中心に強豪と化した春の国チェラズスフロウレス! 前回同様に一位の座を狙う昨年の覇者の威厳を見せる騎士王国スピリットナイト! 番狂わせの底力を見せてくれた食恵(しょくけい)の国オールクロップ! 決勝に相応しい“女神の水浴び場”があるこの舞台でえ! 勝利の女神はどの国に微笑むのか!? 制限時間は三時間! それでは参りましょう! 試合いいい! 開始だあああああ!』


 開戦の鐘が鳴り響き、トレジャートーナメント決勝戦が遂に始まった。

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