精霊神との契約事情
それは少し前の話。ミアが天翼会の会長ヒロに呼ばれた日。密かにとある契約が結ばれていた。
「ワシがシャイン先生と契約するのじゃ?」
「ああ。実は今日ミアを呼んだ一番の理由はそれなんだ」
「ふむ。しかし、精霊神と契約とはのう……」
「駄目なのか?」
「嫌なら無理にとは言わないけど……。でも、出来れば私と契約してほしい。そうすれば、ミアちゃんも私の加護を通じてなら聖魔法が使える筈なの。ジャスミンちゃんが魔法を使うように」
「ふむ……」
(そう言えば、ジャスミン先生は元々魔力が少なかったと聞いた事があるのじゃ。今は凄い魔力量じゃが、それもラテール先生達と契約をして加護を得ているかららしいのう。しかし……)
ミアは考え、そしてシャインと目を合わす。
「聖魔法は元々その反動が大きいのが特徴じゃ。ワシがシャイン先生と契約したとして、魔法を使えばその反動は何処へ向かうのじゃ?」
「無いよ」
「む? 無いのじゃ?」
「うん。私は精霊だから自然界の魔力や加護を使って魔法を使うから、ミアちゃんと違って自分を傷つけないの」
「……あのう。それ、お主が聖女をやった方が良く無いのじゃ?」
「それは無理だよ。聖女は自然界の力では無く自分の魔力だけで魔法を使う人の事を言うんだもん」
「何やら面倒じゃのう」
「それに私もヒロくん程じゃないけど、人間達への直接的な干渉は出来ないの。だから、私が直接誰かを傷つける事も助ける事も出来ないんだよ」
「ふむ。それは厄介じゃのう。誰かの傷を癒す事も出来ぬと言う事なのじゃ?」
「うん。でも、聖女との契約して手を貸す事だけは出来るの」
「それでワシと契約と言う話になったわけなのじゃ?」
「うん。ミアちゃんに“聖”属性の加護を与えて、加護を魔力に変換する事が出来るんだよ。ただ、一つ問題があって……」
「問題なのじゃ?」
問題と聞いてミアが首を傾げると、シャインは「そうなの」と肯定して肩を落とす。すると、ヒロがシャインの肩にそっと触れて、ミアの疑問に代わりに答えた。
「魔力のコントロールが滅茶苦茶難しいんだよ」
「……と言うと? あ。分かったのじゃ。今までは、と言うか、記憶を失う前のワシでは出来なかったのじゃ?」
「そうなるな。何でかは知らないけど、経験して成長した分は記憶を失った後のミアもそのままらしいから、今ならそれが出来るんだけどさ」
「成る程のう。これとは違う話じゃが、確かに習った記憶も無い錬金術を習った時に、何故か知っているような気持ちで簡単に覚えられたのじゃ」
「そう言う事だ。加護を魔力に変換するのは難しくて、精霊側だけがそれを出来ても意味が無い。加護から返還された魔力は普通のものとは使い勝手が全く違うから、高度な魔力操作が必要になるってわけだ」
「今のワシならそれが可能なわけじゃな」
「ああ」
ヒロが頷くと、ミアは納得した。しかし、そう考えるとジャスミンと言うあのお子さま先生は相当な魔力操作技術に優れていると分かる。あれだけの数の精霊の加護を受け、それを全て魔力に変換して使っているのだ。普通じゃないのは間違いなかった。
「あ、あとね。もう一つだけお願いがあるの」
「なんじゃ?」
「契約した後も私はミアちゃんと普段は一緒にいられないの。聖属性の加護ってね、自然界には存在しなくて、この場所でしか無いものだから」
「なぬ? と言うと、ここにずっとおるのは……」
「私達精霊は精霊神であっても、その属性の加護が無い場所では長い時間は生きていけないの。私がここを離れるのは特別な何かがある時だけ。いつもは一緒にいないから、聖魔法を使おうなんて考えちゃ駄目だよ」
「……分かったのじゃ。日常で使えぬのは残念じゃが、一先ずシャイン先生と契約するのじゃ」
「本当? ありがとう。ミアちゃん」
「うむ。よろしくなのじゃ」
こうしてミアは聖属性の精霊神シャインと契約して、聖属性の加護の事も考えて普段は別々に生活する事になった。
◇◇◇
時は戻り、幻花森林へとやって来たミア。ミアは懐にシャインを隠して拠点へとやって来ると、その見た目に冷や汗を流した。
「め、めちゃんこ目立つのじゃ……」
拠点の壁は色とりどりな薔薇の花で埋め尽くされ、嫌がらせかと思うくらいには、とても目立つ外装になっていた。ミアはそれを見て「これでは敵チームに直ぐ拠点がバレるではないか」と文句の一つでも言ってやりたくなったけれど、今は我慢する事にする。
尚、壁に“親愛なる聖女様の為に美しく飾りました”とウドロークからメモが残されていたのだけど、ビリビリに破り捨てたのは言うまでもない。全くの大きなお世話である。




