いつもの朝
「ルニィさん。クリマさん。グラッセさん。おはようなのじゃ」
「「おはようございます。ミアお嬢様」」
天翼学園で開かれるトレジャートーナメント決勝戦当日の朝。ミアはいつものように目を覚まして、三人の侍従たちと挨拶を交わす。
ブラキやチコリーやクリアやムルムルがいないのは、まだ勤務中では無いからで、只今四人で朝食中だ。ルニィたちは既に食事も済ませていて、ミアの朝の準備の手伝いをするのである。ただ、ヒルグラッセは見張りで忙しいので、それをするのはルニィとクリマーテの役目だ。と言っても、ミアは前世八十まで生きたお爺ちゃん。基本は自分の事は自分でやりたい今日で丁度七歳児である。
そう。今日はミアの誕生日。遂にミアも今日から七歳なのだ。まあ、身長のおかげもあって、そうは見えないのだけれども。
そんなミアの誕生日だけど、お祝いは決勝戦が終わってからとなっている。ルニィ等侍従たちもネモフィラたちが決めたそれに合わせるようで、今はせっせといつものようにミアの朝の支度で忙しくていた。だから、ブラキたちも朝食を終えて合流すれば、いつもの仕事が待っている。
今年のミアの誕生日は、ミアの両親や兄も呼んで、決勝戦後に学園で盛大に祝う予定なのだ。その為にチェラズスフロウレスの王ウルイが侍従や騎士に命じて総動員し、今日は天翼会から借りた式場内で準備を進める。しかも、決勝の様子を式場内での準備中にも見れるようにとジャスミンがモニターを付けてくれたので、侍従や騎士も俄然やる気が出たと意気込んでいた。
そんなこんなで皆がミアの誕生日を祝う為に頑張る中で、ミアはいつも通りの朝を過ごしている。
「寝起きの所に早速あまり嬉しくないご報告ですけど、昨晩に精霊王国から使者の方が訪問されました。ミアお嬢様が決勝戦に出場する前に、ウドローク陛下が話をしたいと仰っていたそうですよ」
ミアの髪の毛を櫛で整えている最中に、クリマーテが思い出すように話しかけた。その顔はどうでもいいとでも言いそうな顔で、本人も本当に今思い出したかのようだ。
ミアもどうでもいいのは変わらないので、そうなのか程度にしか聞いていないけれど。と言うか、クリマーテも仰っていたそうだと言うだけで、会うかどうかを確認していない。つまり、これは本当にただの報告なのだ。
「差し出がましい様ですが、その件は私の方からお断りしておきました」
と、クリマーテの言葉に続けて補足したのはルニィ。彼女もミアの事をよく分かっている。まあ、そもそも会わせる気も無いだろうけれど。
「ありがとうなのじゃ」
「いえ。しかし、お気を付け下さい。チェラズスフロウレスの騎士を総出でミアお嬢様に近づけないようにすると陛下も仰っていましたが、今日の決勝戦の舞台があちらの国です。何処でどの様な手段を使ってミアお嬢様に近づくか分かったものではありません」
「全くですよねえ。ウドローク陛下ってチェラズスフロウレスでも有名な美男子で、私も少し憧れてたんですよ。それがあんな人物だったなんて……。勝手に憧れておいて言うのもどうかと思いますけど、正直がっかりしましたよお」
「ふ、ふむ……」
クリマーテがショックを受けた顔で話すので、ミアは冷や汗を流して苦笑いした。
確かにウドロークはハンサムでイケメンなので、年頃の若い娘は事実を知ってショックなのだなと同情する。でも、それならそれで真実を知れて良かったのだろうと、言葉にはしないけれど心の中で考えた。
「あ。そう言えばグラッセさん。今日は侍従を連れて行けるらしいから、グラッセさんにも来て貰おうとは思っておるのじゃが、試合中にちょいと緑園の国まで行ってはくれぬか?」
「緑園の国にですか……?」
「うむ。昨日の国長の話は聞いたじゃろう? あの話が気になるのじゃ」
「承知致しました。では、念の為にミア様の使者として赴き、国長と面会して協力を仰ぎます」
「うむ。決勝戦で何かあってからでは遅いでのう。お願いするのじゃ」
頼みたい事は頼んだし、これで心置きなく決勝戦に挑める。そんな気持ちで朝の準備を終える頃に、ブラキたちがミアの部屋へとやって来た。侍従が全員揃うと、いよいよ決勝戦の舞台に向かうべく学園へ……では無く、ミアもまずは朝ご飯タイムだ。
「ネモフィラを迎えに行って朝ご飯じゃ」
ミアはお腹を押さえ乍ら告げると、ルニィに車椅子を押してもらい部屋を出た。




