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没落した貴族の軌跡(18)

 精霊王ウドロークにとって、ラーンと血の繋がりがあると言う事実は予測不能な事だった。カトレアと一夜限りの関係を持ったけれど、その時に子が出来るとは思ってもいなかったのだ。片親が別の種族だとしても、この世界のエルフ族はそれ程に子孫を残し辛い種族だからである。

 そして何より、ラーンの父親は神王モークスだと考えていた。煙獄楽園の神王と言えば、他国からも恐れられる野心家だ。民を“駒”として扱い、実の娘ディオールにも厳しいのは、彼の事を知る者の間では有名な話だった。それに神王には隠し子がいたと言う話を、忍ばせているスパイから情報を仕入れていた。ウドロークはラーンの事を本当に存在した隠し子と思い込み、その容姿からカトレアと神王の子だと勘違いしたのだ。だからこそ、カトレアが神王を頼りに煙獄楽園に向かい、騎士王国が手出し出来ない国で生き延びていたのだと考えた。

 しかし、その予想は外れていた。ウドロークの能力スキルは目を合わせた者を魅了する力を持つ。但し、その力は血縁者には効かないと言う欠点がある。だと言うのに、カトレアに自分を愛していると思わせた時のように、ラーンにも使ってしまったのだ。

 ラーンに能力スキルが効かず失言からの墓穴を掘ったウドロークは動揺して、おぞましく思う程に自分を睨むラーンを見て、恐怖で震え上がった。


「貴方なんて――」

「ラーン嬢をお止めしろ!」


 ラーンが怒声を上げ、魔法で刃物を出現させた。そしてそれでウドロークを刺そうとした寸でで、何事だと部屋に入って来たフカースや護衛たちに取り押さえられて止められる。この時にフカースや護衛がラーンを止める為に斬りかからなかったのは英断と言えよう。

 騒ぎを聞きつけた騎士の報告で、神王の護衛に回っていたジャッカも直ぐに駆けつけたからだ。そして、取り押さえられていたラーンは、ジャッカが来ると解放されて引き取られた。もし、この時ラーンに傷の一つでもついていれば、ウドロークの命は無かっただろう。

 そして、この事件は両国の関係を最悪なものへと変える事になる。

 実は、神王はラーンとウドロークの関係に気がついていた。だからこそ両者を呼び、会わせたのだ。しかし、血の繋がった本当の父親に会わせてやりたいと言う神王の良心は、こうして裏目に出てしまった。神王はウドロークに怒り、彼への信頼は地に落ちた。

 ウドローク自身も今回の事件でトラウマを植え付けられてしまう。女癖の悪さは相変わらずだけれど、個室で女性と二人きりになる事が出来なくなったのだ。必ず側近のフカースを連れるようになり、それを了承出来ない女性とは関係を持てなくなった。能力スキルで魅了すれば良い話だけれど、彼はトラウマで能力スキルを簡単には使えなくなってしまったのだ。

 ラーンの時のように、何処に血縁者がいるか分からない。子は出来ていなかったと態度を示している女性も、実は裏で子を孕んでいて産んでいるかもしれない。それが怖くて使えないのだ。しかし、それでも無理矢理使わなければならない時がある。


「貴方の能力スキルを研究して、我が国の力として使ってあげるわ」

「承知致しました……姫」


 煙獄楽園と精霊王国の関係は良好とは言えない。しかし、ラーンが中心となり、こうしてウドロークの能力スキルを利用する関係になっていた。

 ウドロークに拒否権は無い。実の娘だから? 違う。保身に走った結果だ。

 民からの人望を失いたくないウドロークは、浮気で出来た子であるラーンが自分の子だと世間にバラされたくなかった。しかも、これが世間に露見ろけんすれば女癖が悪く、能力スキルで多くの女性を騙し魅了していた事も知られてしまう。女神の水浴び場を管理する精霊神と唯一対話出来る自分が、そんな事でその地位を脅かされるなんてあってはならない。と、彼のプライドがそうさせたのだ。それにトラウマから湧き出る恐怖もある。

 そうしてウドロークを利用して錬金術を使い出来上がったのが、人を操る事が出来る“欺瞞ぎまんのお香”だ。煙獄楽園は完成した欺瞞のお香を使い、諜報員を次々と各国に送り出した。

 ラーンも聖奉国に人を甦らす事の出来る聖女がいると裏からの情報を得て、自ら名乗り出て諜報員として向かった。しかし、結果はご覧の有り様だ。聖奉国にいた聖女は偽物で、本物は春の国にいた。

 それでも彼女が聖奉国に居座り続けたのは、ほんの少しの希望と、神王の為だった。そして、勤勉の教祖の娘として天翼学園に通い始めたラーンに、思いがけない事が起きる。


「フリール……お嬢……様…………っ」

「貴女……カレハ…………なの?」

「はい。はい。カレハです。お嬢様……ご無事だったのですね。本当に……本当に良かっ……っ」


 ラーンは他国の侍女として会場に来ていたカレハと再会したのだ。

 カレハは本当にラーンの事を心配していたのだろう。ラーンの姿を見て本当に嬉しくて涙が止まらず、その場にしゃがみ込んでしまったのだから。

 そんなカレハの姿にラーンは微笑み、彼女を優しく介抱した。


「貴女も無事で良かったわ。カレハ」

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