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没落した貴族の軌跡(13)

「この子……どうしましょうか?」

「…………」


 泣き叫ぶ少女の声が貨物室から外に漏れ出たのは当然だった。船員たちが貨物室に集まり、その中でもとびきり雰囲気の違う豪華な衣装を身に纏うリーダーらしき男が先頭に立ってフリールを取り囲む。

 フリールは未だに泣き叫んでいて、母カトレアを抱きしめ続けていた。


「困りましたね。密入国者ですよ。しかも一人はこの様子だと……」

「…………」


 リーダーらしき男はフリールに近づき、彼女と目線を合わせる為に膝を折り曲げた。すると、その行動に驚いたのか、船員たちが動揺し始める。


「な、何をなさって――」

「私がこの子を引き取ろう」

「ほ、本気ですか!?」

「当然だ。事情は分からぬ。が、母を抱いて泣いている子を放っておくわけにはいかないだろう」

「で、ですが、この子は、そしてその母親らしき人物も密入国者なのですよ!?」

「私が誰だか忘れたか?」

「そ、それは……っ」

「私に母を亡くして泣いている少女を見捨てろと言うのか?」


 そう尋ねた男から怒りを感じ、周囲の者たちが焦りをみせて直立する。


「いえ! 決してそのような事はございません!」

「密入国者など私には関係無い。それを許す力があるからだ。私が誰なのか申してみよ」

「「神王様であらせられます!」」


 神王と呼ばれた男は、それを聞くとフリールに優しい顔を見せる。


「辛かったろう。もっと早く気がついてあげるべきだった。すまない。せめてもの償いに、私に君を助ける手助けをさせてもらえないか?」


 神王は泣き続けるフリールの頭を撫で、フリールはこの時にようやく周囲に人が集まっている事に気が付いた。フリールは顔を上げ、自分の頭を撫でる誰かと目をかち合わせる。その時見せた誰かの笑顔、神王の笑顔がとても優しく見えたからか、フリールは誰かも分からない神王に跳びつき、その胸の中で再び泣き叫んだ。

 神王がフリールの背中を優しく撫で続けると、暫らく経ってフリールは泣き疲れて眠った。そして、フリールが眠ると神王の目つきは鋭く尖り、周囲の者たちへと命令する。


「今直ぐにこの少女と母親の素性を調べろ」

「「はっ!」」




◇◇◇




「私を養子に……ですか?」

「ああ。そうだ。どうだろうか? 妻は随分と前に亡くなったが、私には君より少し歳が上の娘もいる。妹が出来れば娘も喜ぶだろう」

「…………」


 フリールが目を覚ましたここは医務室の中。フリールが寝ていたベッドの側には、母カトレアの遺体が眠っている。カトレアの遺体を側に置く事で、フリールの心が落ち着くと思ったからだ。実際にフリールは目覚めて直ぐにカトレアの姿を捜したので、カトレアを側に眠らせて正解だった。

 そして今、神王がフリールに養子にならないかと質問した所である。


「なんで……なんで小父さんは私を助けてくれるの?」

「泣いている君を見て、助けてあげたいと思ったからだ。先程も言ったが、私には君より少し歳が上の娘がいる。君を見ていれば、君の母が君をどれだけ大切にしていたか分かる。だから、他人事とは思えなかった。それが答えでは納得出来ないかね?」

「…………ううん。出来る。私も……私もお母さんが大好き。大切よ。目が覚めた時、お母さんが側にいてくれて安心したの。もう……目を……覚まさないけど……、それでも安心したの」

「そうか……」


 フリールは再び涙を浮かべて、それでも今は泣かないと堪えた。そんなフリールの姿を見て、神王は強い子なのだなと優しく笑み、頭を撫でた。

 すると、フリールが神王と目を合わせて、申し訳なさそうに答えを告げる。


「でも、でもね。養子にはならないわ。だって、養子になったら、お母さんの子じゃ無くなっちゃうみたいなんだもの。でも、気持ちだけはありがたく受け取ります。ありがとうございます。ええと……」

「……そうか。分かった。残念だが君を養子にするのは諦めよう。それから自己紹介がまだだったな。私はモークス。モークス=ヘルフール=スモッグホワイト。煙獄楽園で神王と呼ばれている王だ」


 神王モークスがそう言って微笑むと、フリールは驚きで目を何度も瞬きさせた。

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