表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
926/999

引き出しの中身

 見た事も無い宝石と日記。それがラーンの部屋にある机の鍵が掛かった引き出しの中身だった。クレイデフからそれを聞いたミアとネモフィラは首を傾げたけれど、背後で話を聞いていたルーサがうっかり口を出す。


「王女様の予想してた“日記”が正解だったわけだな」

「そう言えばそうじゃ。ネモフィラの予想が当たったのじゃ」

「はい。何だか少し親近感が湧いてきます」

「しかし、あれじゃのう。日記を必死に隠しておったのじゃ?」

「きっと大切な思い出が書いてあるのではないでしょうか? わたくしにもその気持ちは少し分かります」

「ふむ。と言うか、その見た事も無い宝石が気になるのう」


 ミアはネモフィラに向けていた顔をクレイデフに向ける。


「その宝石とやらは、どんな見た目の宝石だったのじゃ?」

「特徴があれば教えて下さい」


 ミアの言葉にネモフィラが続けると、クレイデフは真剣な面持ちで頷いた。


「色は黒でしょうか……。禍々しく光る宝石だったと聞いております。一瞬だけしか見る事が叶わなかったと報告を受けたのですが、それでも分かる程の異様さ。まるで誰かの命がそこに捕らわれているような、そんなが異質な宝石だったと」

「ふむ」

「それって……っ」


 ミアは分からなかったようだけれど、ネモフィラは何かに気が付いたのだろう。首を傾げるミアの耳元に顔を近づけてささやく。


「恐らく“魔従まじゅうの卵”と存じます。ラーンの手の者が何処に潜んでいるか分かりません。これ以上は周囲の方々を危険に晒す可能性があるので、お話を終えた方が良いと存じます」

「……分かったのじゃ」


 ネモフィラの言葉に頷くと、ミアはミントには聞かせられない話だと察し、一先ず営業スマイルをクレイデフに向けた。


「貴重な情報をありがとうなのじゃ。友人を待たせておる故、そろそろお開きにしたいのじゃが……」

「承知致しました。では、私はこれより聖女様の騎士を志す同志を集めたいと思います。それでは失礼致します」


 クレイデフはミアから直々に協力を申請されてよほど嬉しかったのだろう。もの凄く活き活きした顔で去って行く。

 そうしてクレイデフがいなくなると、ミアは少し離れた場所に座るミントに顔を向けた。


「ミント。お待たせなのじゃ」

「い、いえ。お疲れ様です。ミア。それにネモフィラ様も」


 ミアに話しかけられた事で、メグナットを連れてミントが笑みを零してやって来る。ネモフィラが椅子を勧めたので、二人はミアとネモフィラの前に腰を下ろした。


「想像していたのと全く違う方でしたね」

「うむ。と言うか、ミント等と話していた時と態度が違い過ぎて驚いたのじゃ」

「私も驚いちゃった。私達と話してる時は凄く怖い人だと思ってたのに……」

「どんなお話をしていたのですか?」

「えと……」


 ミントは父であるメグナットに視線を向ける。すると、メグナットは笑みを見せて頷き、ネモフィラへと視線を移した。


「殿下。私からお話をしてもよろしいでしょうか?」

「はい。構いません。お願いします」

「ありがとうございます」


 メグナットはネモフィラから許可を取ると、少しだけ真剣な面持ちになった。


「ご存知の通り、私とミントはナイトスター公爵家の護衛に襲われました。あの件は既に学園内で噂になっております。チェラズスフロウレスの貴族や平民の中には、危険を感じて国に帰った者も少なくありません」

「サンビタリアお姉様やお父様達は知っているでしょうけど、わたくしは知りませんでした」

「クレイデフ侯爵はこのままでは春の国と騎士王国の関係が悪化してしまうと考えている様でした。ですので、襲撃を受けた私とミントに仲裁人として力になってほしいと話を持ち掛けてきました」

「そう言う事でしたか」

「ふむ」

(気持ちは分かるのじゃが、被害者に仲裁人になれと言うのはどうなんじゃ? 一番手っ取り早くはありそうじゃがのう)


 クレイデフと言う男は、やり方はともかくとして悪い男では無いのだろうなと、ミアは思うのだった。




◇◇◇




 クローゼットと机と椅子と大きめのベッド以外は何も無い質素な寝室。そんな質素な寝室で、少女は窓辺に飾られたカトレアの花を見つめていた。


「お母さん。もう少し……もう少しで、やっと願いが叶うのよ。きっとパパは悲しむでしょうけど、でも、私はやり遂げてみせる。だから、だからね……最後まで見守っていてね。お母さん」


 少女はどこか悲し気な笑みを見せてカトレアの花に囁くと、手に持っていた日記のぺーじめくった。そして、次第に頁を捲る度に涙が溢れ、それでも少女は頁を捲り、読み続ける。

 他には誰もいないこの部屋で、カトレアの花だけが涙を流す少女に優しく微笑んでいるようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ