逆に面倒臭いタイプ
ミントが泊まっている貴族用の宿泊施設に辿り着くと、ミアはそれを見上げた。そこはミアが前世で何度も見た事がある高級ホテルのような外見をしていて、ここが異世界と考えると正直言ってとても異質に見えてしまう。
しかし、それを知るのは前世の記憶があるミアやブラキだけなので、他の者は珍しい見た目の建物としか思っていない様子だ。ミアはブラキと顔を見合わせると、お互い冷や汗を流して苦笑した。
そうして中に入ると、これまた前世を思い出させる内装だった。ただ、それは見た目だけの話で、魔石や魔道具が使われているので、やはりここは魔法のある異世界だとミアは思う。
「さて、ミントはどの部屋に――むむ? あそこにおるのは……」
早速ミントが泊まっている部屋を捜そうと思った時だ。ロビーの休憩所に備え付けられた椅子に座る少女の姿が目に映る。その少女は若葉色の髪をした少女で、ミアが助けた少女ミントだった。
ただ、他にも人がいるようで、隣にはメグナット、目の前には見知らぬ男が座っているようだ。
「ううむ……?」
「ミア。どうしたのですか? ……あ。ミントと……あの方はクレイデフ侯爵です」
「む? あの者がクレイデフ侯爵とやらなのじゃ?」
ネモフィラから一緒にいた男がクレイデフ侯爵と聞き、ミアは観察する。
クレイデフはパッと見がそこ等の貴族と変わらないけど、顔立ちは少し嫌味な雰囲気を持つ顔だとミアは思った。まあ、人を見かけで判断してはいけないし失礼なので、決して口には出さないけれども。
気になる事があるとすれば、クレイデフが活き活きした表情をしてるのに対して、ミントが少し困った様子な事だろうか。メグナットの顔からは困った様子は見えないので、表情に出していないだけなのか、それともミントと言う人物が元々あんな風なのか。ミアには正直分からない。
「今や世界中で話題が絶えない春の国チェラズスフロウレスですから、今回の件も近い内に噂が流れるでしょう。ですから、その噂が変な方向に話を変えられないようにと、私が真実をお伺いに上がったのです。これは外交問題に関わる案件になる可能性が高いからです」
「仰る事は理解出来ます。私も外交問題にはよく頭を悩ませていますし、今回の私と娘が襲われた件は、多くの国民を不安にさせるでしょう。天翼会の方々も慎重に動いておられますし、私もこれを大袈裟に言いふらそうとは思っていません」
「そうでしょう。そうでしょう。ですから、ここは一つ私目に原因解明のお手伝いをさせて頂きたいと考えています」
「全てはナイトスター公爵を地に落とす為になのじゃ?」
「その通りでござい…………」
椅子に座って話し合うメグナットとクレイデフ。そして、クレイデフの隣にいつの間にか座って話に混ざるミア。クレイデフはミアの質問に答えている途中で言葉を詰まらせ、ミアと目をかち合わせた。
「ごきげんようなのじゃ」
「っ!?!? せ、聖女様あああああああ!?」
ミアが挨拶すると、クレイデフはとんでもなく驚いて、どうやったのか座ったままジャンプして地面に着地。そのまま跪いて首を垂れ、プルプルと体を震わせた。
なんと言うか、聖女と会った者の中でもミアが初めて見た反応である。
「もももももも、申し訳ございません! わ、私は騎士王国スピリットナイトのチューキム=クレイデフと申します!」
「ワシはミア=スカーレット=シダレじゃ」
「存じております!」
「う、うむ。と言うか、ワシ、別にお主に謝られるような事をされておらぬのじゃが?」
「滅相もございません! 恐れ多くも聖女様のお隣に腰を掛けると言う不届きを! 大罪をし犯してしまいました! 何卒! 何卒どうかお許しを!」
「え? どこら辺が大罪なのじゃ?」
「恐れ多くも聖女様の隣に座り、あたかも自分が聖女様と対等であると思わせる行為に及んだ! これこそが万死に値する行為であります!」
「でも、ワシがルーサに頼んで、勝手にお主の隣に自分から座りに行ったのじゃが……」
「そんな言い訳は通用致しません! 全ては私目の油断が招いた失態なのです!」
「…………」
(困ったのじゃ。何を言っても何故かこのおっちゃんが悪役になってしまうのじゃ。と言うか、ううむ。こ奴、思ってたのと全然違うのじゃ。嫌味そうなのが出て来たと思ったのじゃが、逆に面倒臭いタイプの真面目くんが出て来たのじゃ)
プルプルと肩を震わせ全力で首を垂れるクレイデフと、その様子を見守る周囲。メグナットやミントは目を見開いて驚いたまま動かなくなっているし、遂には我慢が出来なくなったクリマーテが笑いを必死に堪えている。何ともまあカオスな状況の中、原因を作ったミアは冷や汗を流してどうしようかと頭を悩ませるのだった。




