突然の訪問者
この世界には、エルフが主に暮らしている国が二つ存在している。一つは緑園の国エルリーフで、もう一つが精霊王国エレメントフォレストである。この二つの国の違いは勿論色々あるけれど、その中で最も大きいと言えるのが、子孫を残す事への考えだ。
エルフは長寿故に子供が出来辛いと言う種族的な特徴がある。緑園の国エルリーフは、子孫を残す事に執着しない者が多く暮らすエルフの国で、他種族との結婚を望まない者が多い国だ。対して精霊王国エレメントフォレストは、その逆で子孫を多く残す事に執着している国だ。
そして、精霊王国は子孫をより多く残す為に、一夫多妻と一妻多夫の制度を取り入れている。ウドロークがミアとネモフィラを同時にと考えているのも、この国からしてみれば実は普通の事だった。しかし、相手が悪いとも言えるのだけど。
さて、話は逸れたが、エルフが暮らすこの二つの国には、とある共通点があった。それは、この二つの国が隣り合っている事に影響している。
「お取込み中に失礼致します。聖女様に会わせてほしいと、緑園の国エルリーフの国長がお見えです」
ウドローク憎し。打倒ウドローク。と、ウルイ等チェラズスフロウレス勢が意気込んでいる時だ。扉がノックされて通すと、扉番をしていた騎士が跪いてそう告げた。
族長では無く国長。緑園の国エルリーフには国王がいない。でも、その代わりに国の長がいる。そして、エルフ族は二つの国に別れていて、片方には王がいる。だから、緑園の国エルリーフでは一番偉い者を王とは呼ばず、族長の代わりに国長と呼ぶのだ。
「エルリーフの国長? はて? ワシに何の用じゃろう? 記憶を失う前の知り合いなのじゃ?」
面識の無い者からの突然の訪問に、ミアは首を傾げて周囲に目を向ける。しかし、そんな面識は無いので誰も頷かない。ミアが元々田舎村の娘だった事を考えると、その頃にあったとも思えない。本当に何の用事かと誰もが思った。
(会うだけ会ってみるのじゃ。と言いたい所じゃが、ワシには一刻も早くやらねばならぬ事がある。それはネモフィラたちを祝う事じゃ! せっかく試合に勝ったのに、ウドロークのせいで全然そんな雰囲気じゃ無くなってしもうたのじゃ! と言うわけで断るのじゃ)
「すま――」
「緑園の国エルリーフと言えば精霊王国の隣国だな。よし。お通しせよ」
「――のじゃ!?」
「はっ」
(え? ワシ、断るつもりだったのじゃが……? ぬううう! そう言うとこじゃぞ! ウルイ陛下! なのじゃ!)
ちょいちょい人の話を聞かずに突っ走るウルイに、ミアは心の中で文句を言う。その様子に気がついてか、サンビタリアがミアを見て苦笑していた。
「お忙しい中お目通りして頂きありがたく存じます。聖女様」
「う、うむ……」
(もう帰れとは言えぬのじゃ。仕方ないから後でお祝いするのじゃ)
などと考え乍ら、部屋に入って来た緑園の国エルリーフの国長を見る。
国長の外見は、獣の毛皮を元に作られたモフモフな民族衣装を見に纏ったご老人だ。エルフは長寿なので、その中でも随分と年齢を重ねているのだろうと思わせる男で、背中も丸まっている。背後に二人ほど若い男を護衛として連れてはいるが、彼等も見た目ほど若くないと感じる何かがあった。
「私は緑園の国エルリーフの国長ゼルーリと申します。後ろに控えさせているのはカヘッツォとレテシです」
「ゼルーリさんはワシに用があってきたのじゃ?」
「はい。仰る通りでございます。お話をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「うむ」
ミアが頷くとゼルーリはお礼を言って、ここに来た理由を話し始める。そして、その理由を聞いてミアやこの場にいる全員が驚愕し、明日の決勝戦で何かが起こると確信した。




