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水帝の密偵報告

「くそっ。何なんだアレは! 本当にアレで聖女なのか!」


 時は少し経過する。ミアとの対談を終えた精霊王国の王ウドロークは、自分が宿泊しているホテルの部屋で苛立ちを抑えられずにいた。彼の側にはフカースや他の従者たちも控えていて、黙って様子をうかがっている。


「フカース! 私は何かおかしな事を言ったか!? ただあの子供っ、ネモフィラを私の妻に迎えてやろうと発言しただけだ! たかが領土だけデカい弱小国の姫を迎え入れてやると言うのだぞ! 感謝されるならともかく、あの様な振る舞い! 聖女でなければあの場で殺していた!」

「仰る通りでございます。しかし、やはり聖女と言えど子供なのでしょう。ネモフィラ殿下とは友人関係と聞きます。友人を陛下に取られると思い、つい手を出してしまったのではないでしょうか。そして聖女故に、それを咎められる者もいません。ある意味では可哀想な存在なのかもしれませんね」

「……ふん。確かにそう考えられなくもない……か。であれば、あの話を最後まで聞いていれば、違った反応を見せていたかもしれないな」

「勿論です。陛下はあの時、こう仰られる予定でした。ネモフィラ殿下を婚約者にし、聖女様も一緒に婚約者にならないかと」

「ああ。その通りだ。我が国はエルフ族特有の性質により、一夫多妻と一妻多夫の制度がある。仲が良いらしいネモフィラと聖女を同時に娶るなど容易いからな」

「はい。聖女様も大事なご友人と一緒にと分かれば、とても喜んでいた事でしょう。この世で最も美しい陛下の妻、それも正妻になれるのですから」

「ふっ」


 先程までの怒りは治まったらしく、笑みを見せるウドローク。周囲にいた従者たちも胸を撫で下ろし、彼の怒りを治める事の出来るフカースに尊敬の眼差しを向けた。


「しかし、どうするか。あの様子では聞く耳を持たなそうだ」

「聖女と言っても所詮は子供です。好きな物を送れば機嫌は治るでしょう」

「その手があるか。よし。聖女の好きな物を調べろ。……ああ。それから、カーリー嬢には先の件を秘匿するようには伝えているか?」

「はい。しかし、彼女は陛下の妾になれるなら何でもすると言っています。陛下にとって不利益になる情報は流さないでしょう」

「そう言えばそうだったな。一途で可愛い奴よ。聖女を正妻に迎えた後も、たまに相手をしてやろう」

「それを聞けば更にやる気も上がる事でしょう」

「しかし、時間が無いのも事実だ。本来であれば今日中にネモフィラから聖女を紹介してもらう予定だったが……。フカース。時は一刻を争う。聖女を私の物にする為に急ぐのだ」

「はっ。仰せのままに」


 フカースや他の従者たちがウドロークに会釈し、一斉にこの場を去って行く。一人残されたウドロークは椅子に座り、机に置かれていた紅茶を一気に飲み干した。


「聖女ミア……か…………。見た目は悪くないが、あの性格は調教する必要がある。私の顔に傷をつけた事がどんなに罪深き事なのか、分からせる必要がありそうだ」




◇◇◇




「と、言う事を言ってましたよ」

「正妻にするならネモフィラじゃろ! 見る目無さ過ぎじゃ!」

「ミアお嬢様。怒る所はそこではございません」

「ふふふ。そうですよ。ミア」


 はい。と言うわけで、ここはチェラズスフロウレス寮のミアの部屋……では無く、チェラズスフロウレスの王族専用観戦室。今ここにはミアだけでなく、準決勝を終えて帰って来たネモフィラやルーサ、それから王族の面々や侍従たちが集まっている。そして今、ここではフォーレリーナによる潜入調査の報告が行われていた。

 そう。ウドロークがフカース等としていた会話は、フォーレリーナに聞かれていて筒抜けだったのだ。

 しかし、どうやって? と、思うかもしれないけれど、簡単な話だ。フォーレリーナには自身を水に変える能力スキル“水帝”がある。ミアとウドロークが別れた後に、その力を使ってこっそり後をつけていたのだ。元々彼女がミアと一緒にウドロークの許へ訪問したのは、これが理由だったのである。


「精霊王ウドローク。素晴らしい方だと思っていたが、まさかそんな人物だったとは……。私の娘は……ネモフィラは絶対に奴には渡さん! 婚約などさせるものか!」


 フォーレリーナの報告を聞いて、ネモフィラの父ウルイが怒りに震えて怒鳴り声を上げた。

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