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許されない婚約

 ウドロークの代わりに質問に答えるフカースを見て、意地悪を思いついたミア。そんなミアの行動を咎めようと思う者は誰もおらず、ウドロークもフカースも動揺を見せていた。しかし、そんな中で、今まで気まずそうにしていたカーリーが顔を上げて口を開いた。


「あの……聖女様。聖女様はウドローク陛下を困らせる為にここに来たのでしょうか? 彼は……ウドローク陛下はとても誠実なお方です。優しい彼を困らせる事はしないで下さい」

「ふむ」

(ワシには誠実に見えぬのじゃが……まあ、良いのじゃ。ワシも調子に乗って少しからかい過ぎたのじゃ。そこは反省せんといかんしのう)

「言い過ぎたのじゃ。すまなかったのじゃ」


 ミアが素直に謝罪して頭を下げると、カーリーは分かってくれたのですねと笑みを見せる。しかし、ウドロークとフカースは驚き、目を見開いて動揺した。


「あ、頭をお上げ下さい。聖女様」

「フカースの言う通りです。私は気にしておりませんので、謝る必要もございません」


 二人の言葉を聞くとミアは顔を上げて、営業スマイルを提供する。でも、別に信用しているわけでは無いし、認めたわけでも無い。


(もうだいたい人となりは分かったのじゃ。ここに来た目的も完了じゃな。とりあえずウドローク陛下は信用が出来無そうじゃ)


 信用が出来ないと判断したのには勿論理由がある。それはウドロークが常に爽やかな笑みを見せるだけで、ネモフィラの話題を出すまでは自分から話そうともしなかったのが決め手となった。しかも、その話題が口説く口説かないの言ってしまえばどうでもいい話題。

 それに、実はネモフィラから事前に話を聞いていた。昨日の話し合いの場での事。ミアがウドロークに会いに行くと話した後に、ネモフィラからウドロークについての話を聞いていたのだ。そして、ネモフィラはこんな事を言っていた。


「ウドローク陛下は政治に関わるお話をご自分からは話しませんでした。わたくしが子供だからと言う理由では無いようで、わたくしが質問すると全て側近の方に答えさせていたんです。ウドローク陛下がご自分から話していたのは、趣味のお話などを含めた日常的なものだけでした」


 つまり彼は政治などの話にも答えるけども、答えるのは全てフカース。ウドローク自身からは答えない事を考えるに、もしかすると、彼は政治の話を“しない”のではなく“出来ない”可能性がある。まあ、要するにポンコツなのだ。少なくともミアはウドロークの事をそう思った。

 政治が出来ないポンコツな王。その見た目麗しい容姿で誤魔化しているだけ。出来るのはその容姿を活かした手段で、女を口説くのが得意なナンパ野郎。それが今回の訪問も含めて、ミアの中で決まったウドロークの印象である。彼を信用出来ないのは、胡散臭い爽やかな笑みと、その印象を受けた結果と言うわけだ。

 そして、事件は起こる。


「実は私からも聖女様に相談したい事がございまして」

「む? なんじゃ?」


 ウドロークもミアに話したい事があるらしい。相談と聞いてミアが首を傾げると、ウドロークは少しだけ真剣な面持ちになった。


「ネモフィラ殿下を私の婚約者に――っ!?」


 その時、ウドロークの頬に何かがかする。ウドロークは目を見開き、ミアがその手に持っている物を見て恐怖で震え、頬から血を垂れ流した。


「おっとすまぬのじゃ。手が滑ったのじゃ」

「は、はは……は…………」


 渇いた笑みを浮かべて、ウドロークは顔を真っ青にさせた。フカースも言葉を失って顔を青ざめさせていて、カーリーも恐怖で震えていた。

 ミアが持っていたのは、ピストルに姿を変えたミミミだった。ウドロークの頬を掠めた何かとは、ミアが放った風の弾丸である。

 そして、この事はミアの侍従たちでも驚く程の衝撃ではあった。いつもはひたいに撃ち外傷無く気絶させて終わるだけ。それがいつものミアの攻撃だ。でも、今回は違った。だから、あの慈悲深く心優しいミアお嬢様がと、驚くには十分だったのだ。

 だけど、それで幻滅するわけでもない。他国の王とは言え女癖の悪い男に大切な友人を婚約者にと言われたのだ。当然だと感じている。


「それで何の話じゃったか? ワシの親友のネモフィラがどうかしたのじゃ?」

「そ、それは……」


 ウドロークはごくりと息を呑み込み、二度と婚約者にと言えなくなる。ミアはニッコリと微笑みを見せているけれど、とても笑っているようには見えないからだ。

 しかし、それもその筈だろう。ミアは前世で八十まで生きたお爺ちゃん。ネモフィラは友人であり、孫のように可愛い存在。女癖の悪いナンパ野郎なウドロークと婚約など、絶対に許すわけが無いのだから。ミアはもの凄く怒っていた。

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