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タイミングが悪かった聖女

「ミアお嬢様。本当にここにいらっしゃるのですか……?」

「うむ。その様じゃのう。あの時ラーンと一緒におったワシが知らぬ魔力が二つともあるのじゃ」


 ここは天翼学園の敷地内にある平民用の宿泊施設。所謂いわゆる旅館である。トレジャートーナメントが開催されると使われる施設で、平民の子の保護者が寝泊まりしている。

 でも、今はチェラズスフロウレスとモノーケランドが準決勝中なので人気は無い。それにそもそも王であるウドロークがいるとは思えない。何故なら、ここは平民用の施設だからだ。疑うわけでは無いけれど、ルニィが念の為にと確認するのも当然だった。

 しかし、ミアの自信満々な顔を見れば分かる通り、本当にここにウドロークがいる。


(魔力の位置は……だいたい右の方じゃのう。他にも後一人いる様じゃ。どっかで感じた事がある様な……気のせいじゃな。何か良からぬ事を企む取引中だったら、現行犯逮捕が出来るのじゃ)


 そんな呑気な事を考え乍ら、ミアはルニィに車椅子を押されながら奥へと進んで行く。そして――


「たのもお! なのじゃあ!」

「きゃああああああああ!」

「っ!?」

「な、なんだ君た――っへ? え!? せ、聖女……っ様!?」

「…………」


 ウドロークがいるであろう部屋にノックもせずに突然入り、悲鳴を浴びてウドロークと目がかち合うミア。ミアは無言で扉をそっ閉じした。

 いったい何が起きたのか? それは、はい。起きたと言うか起きる前と言うか、つまりはそう言う事である。そんなのでは意味が分からんと思うかもしれないけれど、大人の関係には色々あるのです。


「全裸で見つめ合っておったのう。今からエッチな事を始める所じゃったか。悪い事をしたのじゃ」


 おい。こら。せっかく言葉を濁したのにって言うか何口に出してんねん。って感じのミア。背後にいるルニィたちもこれにはドン引き……いや。正確にはミアにでは無く、全裸で見つめ合っていたウドローク等にドン引きしていた。


「や、やあ。聖女様。どうしてこちらに? へ、部屋を間違えたのでしょうか?」


 数秒後、ウドロークが扉を開けて現れた。衣装を身に着けてはいるが、着崩していて未だに動揺が隠せていない模様である。

 そんなウドロークにミアの侍従等が軽蔑の眼差しを向け、ミアは一先ず作り笑い。そして、背後に視線を向け、その人物を見て成る程と納得する。


「部屋を間違えてはおらぬ。お主と話をしに来たのじゃ。そこにおるカーリー先生もどうじゃ?」

「っ!」


 ミアが話しかけ、部屋の中で絶賛慌てふためいているカーリーへと皆の視線が集まった。

 彼女こそがカーリー=ナッツ先生。食恵の国オールクロップ寮の先生で、決勝戦の舞台を精霊王国の幻花森林にと希望した張本人。そして、ウドロークと全裸で見つめ合っていた相手である。


(雰囲気から察するに、二人は大人な関係を持っておる様じゃのう。しかし、ウドローク殿下は凄いのう。側近を側に置いたまま行為に及ぼうとしておったようじゃ)


 部屋の中にはウドロークの側近らしき男もいて、慌てふためくカーリーの前に立って一応は姿を隠させようとしていた。まあ、丸見えなわけだけども。

 そして、ミアがカーリーに話しかけるものだから、ウドロークも慌てて彼女を隠すように前に出た。


「聖女様が私と話を? ははは。それは嬉しいお誘いだね。でも、ここでは何だし、場所を変えませんか?」

「うむ。では、待っておるから直ぐに着替えてほしいのじゃ。ワシはともかく、女子おなごの前では目のやり場に困ると思うしのう」


 そう言って視線を向けた先はルニィ等侍従。だけど、寧ろゴミを見るような目でしかウドロークを見ておらず、目のやり場に困るだとか全然そんな雰囲気では無い。

 しかし、それもその筈だろう。これで判明したのだ。裏で噂されているウドロークの女癖の悪さが。

 カーリーと婚約しているなんて話を聞かないし、恋人関係やらでも無い。だからこそ最早女の敵としか見なされておらず、なんならミアがウドロークと会話中に、ルニィはミアが座る車椅子を引いて少し遠ざけたくらいだった。


「あ、あはは……」


 そんな彼女たちを見て、ウドロークは渇いた笑みを見せる事しか出来なかった。

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