聖女、精霊の王に会いに行く
寮長室での話し合いも終わり、就寝してから夜が明ける。朝陽が昇って今日も一日が始まるも、生憎の空で雪模様。ミアは布団で丸くなりたい気持ちを抑え乍ら、着替えを済ませて寮を出た。
『試合! 開始だああああ!』
寮を出ると、丁度メリコの声がここまで届いた。雪が降っているからか、周囲がしんと静まりかえっていて、メリコの声がいつもより響いているようにミアは感じる。
(ネモフィラ。応援しに行ってやれんですまぬのう)
春の国チェラズスフロウレスと妖園霊国モノーケランドの試合が始まる。
ネモフィラの戦う姿を見たいけど、ミアは今からウドロークに会いに行かなければならない。ネモフィラとはその事を昨日の内に話していたし、試合は自分たちに任せて安心してウドロークと話して来てほしいと言われている。だから、ミアはウドロークの魔力を探り、彼の居場所を突き止めて向かっていた。
「しかし、こんな大人数で行かんでも良いと思うのじゃ」
ミアが呟いて向けた視線の先にいるのは、今回の話を聞いて集まった者たち。ミアの侍従であるルニィ等は勿論の事、聖女近衛隊の面々までいる。
「そんなわけにはいきません。これから会う相手はウドローク陛下なのでしょう? ミア様にもしもの事があったら大変です」
そう告げたのはチェリッシュだ。彼女もミアの近衛隊の一人として、今回の訪問を聞いて飛んで来た。隣にはいつも通りサリーもいて、更にはグラックまでついて来ている。
因みに二人はチェリッシュと意見が同じらしく、チェリッシュの言葉に同意して頷いていた。
「俺もチェリッシュ嬢に同意だ。それに聖女様を守護するのが我々の役目です。こう言っては何ですが、ウドローク陛下については一部界隈から悪い噂を耳にします。こんな時こそ我々聖女近衛隊の出番かと思われます」
チェリッシュに同意して意見を述べたのはベギュアだ。彼も聖女近衛隊の一人としてここにいて、その隣にはマイルソンの姿もある。
尚、マイルソンは何かを言いたそうにしているけれど、ベギュアが目を光らせて言えずにいる。まあ、彼は未だにミアに惚れているので、一先ず変な事を言い出さないように黙らせておくのが無難だろう。
「ふふ。皆ミア様の事が心配なのさ。ここにいるのは君に救われた者たちばかりだからね。私も勿論その中の一人よ」
そう美男子顔負けの笑みを見せて告げたのはラティノだ。彼女も聖女近衛隊の一人で、今日は騎士の鎧に身を包んでいる。
ミアはラティノを見て気合が入ってるなと思い乍ら、記憶に無い昔の自分が人助けをしていたのだなと頭の片隅に置いておく。
「私もミアちゃんが色男の毒牙にかからないように護ってあげますよお」
「う、うむ……」
冷や汗を流して頷くミア。その視線の先にいるのは、今し方ミアに笑みを見せて声を上げた人物である。その人物とは、聖女近衛隊とは全く関係がない人物。
「……って、フォーレリーナ。お主は何でついて来たんじゃ?」
フォーレリーナである。フォーレリーナはミアから質問されると、ミアの頬に自分の頬を摺り寄せて抱き付き、愛おしそうに言葉を続ける。
「そんなのミアちゃんが心配だからに決まってるじゃないですかあ。尊いミアちゃんを護る為に、お姉ちゃんを振りきって来たんですよ」
「振りきってて、後が怖い奴じゃ。グラスさんに怒られても良いのじゃ?」
「そ、それはあ……後から考えます」
「…………」
大丈夫かこの子? ミアの頭にはそんな疑問が浮かんだ。けど、まあ、放っておこうと考える。
グラスがフォーレリーナを叱る時は、何だかルニィが自分に叱る時に似ている。ミアは触らぬ神に祟りなしと、これ以上は関わりたくないのだ。怖いから。
『おおおっとおお!? ヒエン選手! 早速一つ目の宝を発見したぞお!』
不意に聞こえた弟子らしいヒエンの活躍。記憶を失ったから知らないけれど、彼は贈り物をして弟子にしてもらったとミアに自己紹介した。そんな彼の活躍をメリコの実況で聞き、トレジャートーナメントでは敵だけど、敵ながらあっぱれじゃ。と、ミアは心の中で褒めたのだった。




