犯行の理由
「ついさっき別れたばかりだと思ったら、小さい女の子を襲っていた変態野郎を捕まえた? しかもそれがラーンの手下なんて……」
「待ってくれ。その言い方だと俺が小さい女の子が趣味の変態にしか聞こえない」
「その通りじゃろ」
「その通りじゃねえよ! どんな曲解したらそうなる! そんな理由で襲ってたんじゃねえ!」
「やっぱり襲ってたのか。とんだ変態野郎だ。もう死刑で良いのでは?」
ここは天翼学園の一年生職員室。ジャスミンとリリィとジェンティーレが会長室での話を終えた後に職務をこなしている最中に、ミアが仮面の男を連れて来ていた。勿論この場にはジャスミンと契約した精霊たちもいて、チェラズスフロウレス寮の先生が勢揃いだ。そして、今は皆で話を始めたところだ。
ミアとジェンティーレの話に仮面の男が割り込み怒鳴り声を上げ、その様子を見ていたリリィが背後から仮面の男に近づく。
「俺はただ――」
仮面の男が何かを話そうとしたその時に、リリィが背後から仮面の男の仮面の紐を見つけて上に引っ張った。すると、仮面が外れて、仮面の男の顔が露わになる。
そして、その顔にジャスミンたちが驚き、目を見開いた。
「ジャッカ=ミークル!? 嘘……」
「えええ!? な、なんで貴方がラーンちゃんの護衛をしていたの!?」
「いや。意外と当然かもしれないよ。彼はあの戦いから行方知らずになっていたんだ。あの戦いの後にラーンに拾われて仕えていたとしても不思議じゃない」
「む? なんじゃ? お主等の知り合いなのじゃ?」
リリィ、ジャスミン、ジェンティーレがそれぞれ順に驚いて声を上げると、ミアは首を傾げて三人を見た。仮面を付けていた男がジャッカ=ミークルと言う名だと分かったけれど、ミアは全く知らない人物だ。記憶にないだけかもしれないけれど、とにかく記憶を失ってからは聞いた事が無い名前なのは間違いなかった。
さて、そんなジャッカ=ミークルだが、彼は煙獄楽園スモークヘブンの神王の元近衛騎士である。だから、ミアも彼には少しとは言え何度か会っているし、記憶があれば一緒に驚いていた事だろう。
しかし、今のミアには誰だか分からない。ミアはジャッカの顔をマジマジと見て感想を述べる。
「鬼族なのじゃ?」
「鬼族と妖族のハーフだ……って、そんな事はどうでもいい。仮面を返せ」
「嫌よ。返してほしかったら、そうねえ。まずは何で女の子を襲ったのか聞かせて貰おうかしら」
リリィが取り上げた仮面をクルクルと回し乍ら尋ねると、ジャッカは鋭い目でリリィを睨んだ。
「だから、俺はただ護衛の仕事をしただけだ」
「護衛の仕事? ミアが言うその女の子がラーンを襲おうとしていたの?」
「少し違うな」
「貴方ねえ。はぐらかす言い方をするなら、この仮面をへし折るわよ」
「な!? ふざけんな! 話せばいいんだろ! 話せば!」
「分かればよろしい」
(う、ううむ……。その仮面、そんなに大事なのじゃ……?)
ミアが冷や汗を流して困惑する。けど、話してくれるならば問題は無い。まずはどんな言い訳が飛び出すのかと話に集中する事にした。
「聖女様にも言った事だけどよ。俺にだって守秘義務があるんだよ。だから、これから話す事は出来るだけ他の奴には話さないでくれよ」
「そんなものは聞いてからこちらで決めるわ。いいから早く話しなさい」
「はいはい分かりましたよ」
やれやれとでも言いたそうな顔でジャッカがため息を吐き出し、リリィが睨む。そしてそんな中、ミアは前口上が長いななどと少し話を聞くのに飽きていた。
「ラーン様が会っていたのは精霊王国のウドローク陛下だ。しかも目立たねえ様に護衛も俺と向こうの一人で、合わせて二人だ。神経質になるのも頷けるだろ?」
「それで? 神経質になりすぎて通りかかった女の子を襲ったと?」
「そんな単純な話じゃねえ。ウドローク陛下とラーン様は両国の取引の話をしてたんだが、結構重要なものでねえ。流石にその内容までもは言えねえが、その取引現場を見られたんだ」
「だから襲ったと?」
「そうさ。しかもウドローク陛下は悪い噂もある。万が一にも現場を見た奴に利用されたら困るだろう?」
以上で説明を終えたのだろう。ジャッカは最後に質問するように話したけれど、それ以上何も話す事は無いと口を閉じた。
ジャスミンは成る程と納得しているようだけど、リリィやジェンティーレは腑に落ちないと言いたげな顔をしている。そして、ミアは三人とは別の反応を見せていた。
(精霊さん達が真剣にお話を聞いてる姿がとっても可愛いのじゃ)
はい。このアホ。じゃなくて聖女。ジャッカの話を聞かずに、ジャッカの話を真剣な面持ちで聞いてる精霊たちに心を奪われていた。いや。話聞けよ。って感じである。




