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初対面じゃない初対面

 まさかのミアがミントのピンチに駆けつけ、ミミミピストルで仮面の男の剣を受け止めた。これにはミントだけでなく仮面の男も驚いて、直ぐに剣を納めてミアと距離を取った。


「思った通りじゃ。しかし、ラーンを捜して正解だったのじゃ」

「おじょ……ラーン様を捜していた? 何の為に……」

「お話をする為に決まっておるのじゃ。それよりもお主は何故この子を襲っておったのじゃ?」

「それは……」


 仮面の男の顔は隠れているので表情が見えないけれど、それでも聞かれたくない質問だったのだろうと分かるくらいには動揺して言葉を詰まらせた。

 ミアは怪しいと仮面の男を見て、仮面の男は一歩後退る。でも、ミアは仮面の男を問い詰めるつもりは無い。何故なら、直ぐ側にはメグナットが倒れていて、背中から大量の血を流していてそれどころではないからだ。


「どうしよう! 父さまが死んじゃう!」

「ルニィさんに薬を預かっておって正解だったのじゃ」


 ミアは懐から万能ポーションを取り出すと、近くに倒れているメグナットへと近づいた。そして、車椅子に座り乍らなので使い辛いらしく、メグナットの背中の傷口に万能ポーションを雑にぶっかけた。でも、それで十分なようで、みるみると傷口が塞がっていきメグナットの体は見事に回復した。


「父さま。良かった……。ミア。ありがとう」

「うむ」


 ミントが感謝し、ミアは微笑みを見せて頷く。

 しかし、ここで問題が起こっていた。それは何か? 仮面の男が未だにここにいる事? いいや。そんなものでは無い。


(ええと……。この子は何処の子じゃ……?)


 はい。このアホ。じゃなくて聖女。完全にミントが誰なのか分かってなかった。と言うか、まあ、実はこれは仕方が無い。

 煙獄楽園の一件で記憶を失ってからミントに会っておらず、今のミアからしてみれば初対面の女の子なのである。だから、ミア視点で考えると、会った事も無い女の子が自分を聖女と呼ばずに“ミア”と名前で呼んできた状況だ。今のミアの立場を考えると、知り合いでも自分の事を“聖女様”と呼ぶ事が多く、実は“ミア”と名前で呼ぶ者は少なくて限られている。同じクラスの同級生すら“聖女様”呼びなので、初対面に名前で呼ばれること事態が謎だった。


(ワシを名前で呼ぶと言う事は知り合いなのじゃ……? 確かに歳も近そうじゃし、あり得なくはないが……ううむ。分からぬのじゃ)


 ミアは念の為に目覚めた後からの記憶を辿ってみる。しかし、会っていないので記憶の中に出てくるわけも無い。どう考えても初対面で、本気で誰なのか分からない。試しに倒れていた男の方を見てみるも、こちらもこちらで分からない。謎の親子と言う事しか分からなかった。

 そして、ミアが悩んでいると、いつの間にか仮面の男は逃げ出していなくなってしまっていた。


「っあ。逃げられたのじゃ」

「え……? あ。いなくなってる……」


 二人で先程まで仮面の男がいた筈の場所を見つめ、顔を見合わせる。すると、ミントの頬が少し赤く染まり、照れたような笑みを見せ、ボソリと「王子さま」と呟いた。


「む? 王子さ――」

「っご、ごめんなさい! 何でも無いの!」

「――っ。ふ、ふむ……?」

(王子様と言おうとしたと言う事は、ワシが前世で男だと知る程に仲がい女の子なのじゃ?)

(駄目だよミント! 王子さま……じゃなかった。ミアはネモフィラ様のお婿様なのに!)


 何だかよく分からないけれど、ミントの勘違いは進化している。いつの間にかミアがネモフィラのお婿様になっていて、ミントはブンブンと勢いよく首を横に振るった。

 さて、そんなミントだけれど、初対面じゃないのに初対面なミアは気が付いていない事がある。それは、ミントがおどおどして話さない事。ミントはミアと話す時でも言葉を詰まらせて話すような子だったけれど、会っていない間に成長して、こうして普通に話せるようになったのである。もしミアが記憶を失っていなければ、きっとその事を仲良しの距離が近づいたと思い喜んでいた事だろう。


「って、あ! このまま逃したら駄目なのじゃ! すまぬがワシは行くのじゃ!」


 ミアは思い出したかのように声を上げると、魔力を探り、仮面の男の逃げた先へと車椅子を走らせた。そして、この場に取り残されたミントは、この場を去って行くミアの後ろ姿を見つめて、また一つ勘違いを加速させる。


「皆が聖女様って女の子扱いしているけど、ミアは何も変わってない。とってもかっこいい王子さまだったなあ……よし! 今度のミア派会議でしっかり皆に伝えないと! 相変わらずミアは誰よりもかっこいい王子さ……じゃなくて、聖女様だったって!」


 メグナットが目を覚ましたのは、それからしばらくして社交界が終わる頃の事だった。

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