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精霊王との対話

 きらびやかな装飾そうしょくいろどられた会場に、各国の王族や貴族が集まり談笑する。しかし、談笑と言っても腹の探り合いをしている者も多くいて、笑顔の奥に隠された本音は表に出さない。ここは天翼会主催の社交界会場。ミアが閻邪えんじゃの粒子について話を聞いている頃、ネモフィラはこの会場内で父や母たちと一緒に各国の王族たちに挨拶をしていた。

 今ネモフィラの目の前にいるのは、この会場内で一際目立つ容姿をする男。ラーンとの関係が怪しまれている精霊王国の国王ウドローク=ヒーノ=ハートである。

 ウドロークは美麗な容姿を持つ王であり、その姿はまるで精霊のような美しく幻想的な魅力がある。周囲にいる貴族の女性がその容姿に目と心を奪われている。しかし、今ここで彼と話しているネモフィラは興味が無い。そんな事は気にも留めない無垢な笑顔で話をしていた。


「はい。ミアのおかげでわたくしの国もとても強くなったのですよ」

「存じております。今朝の試合も素晴らしいものでした。我が国の子供達もチェラズスフロウレス同様に今大会では優秀な成績を収めてくれています。このまま勝ち進めば決勝戦で戦う事になるでしょう。ネモフィラ殿下、そして聖女様と戦える事を子供達も楽しみにしています」

「わたくしも精霊王国と戦える事を楽しみにしています。精霊王国では精霊様と契約をされた方が沢山いるのですよね。是非お会いしたいと存じているのです」


 ネモフィラはラーンとの関係の情報を探る為に、挨拶の後もこうして何か情報を漏らさないかと話題を振っていた。そしてネモフィラがまさかそんな事を考えているとも知らずに、父や母たちはその様子を微笑ましく眺めている状況である。


「ネモフィラ殿下は精霊様に興味があるのかい?」

「はい。とっても可愛くて大好きです」

「そうか」


 ネモフィラが笑顔で答えると、ウドロークも微笑み、そして膝を曲げて目線を合わせて顔を近づけた。そして、ウドロークは声を潜めて言葉を続ける。


「そんなネモフィラ殿下に秘密のお話です。実はトレジャートーナメントの決勝戦は我が精霊王国で行う予定なのです。しかも、試合会場は“幻花森林”さ」

「っ!? ほ、本当ですか!?」

「はい」


 決勝戦の会場を聞いてネモフィラが驚き、その反応にウドロークが楽しそうに微笑む。すると、二人の様子にネモフィラの兄ランタナが気付き、怪しいといぶかしんで視線を送る。ウドロークはランタナの視線に気が付くと、ネモフィラに秘密にしてほしいと目で合図して、ネモフィラは口を両手で隠してこくこくと頷いた。


「ウドローク陛下。姫がお呼びです」


 不意にウドロークが声をかけられ、ネモフィラが視線を向けると、そこには精霊王国の騎士が立っていた。ウドロークは結婚しておらず、子供どころか婚約者すらいない王だ。

 だから、姫と言うのがネモフィラには誰だか分からず首を傾げた。


「どうやらお迎えが来てしまったようだ。もう少し君とお話をしていたかったけど、それもお終いですね。ネモフィラ殿下、それでは私はこれで失礼します」

「は、はい。ごきげんよう。ウドローク陛下」


 ウドロークは最後まで微笑みを絶やさず去って行った。しかも、そんな時まで周囲の女性の視線を集めていて、その姿はウドロークに群がる女性たちで直ぐに見えなくなってしまう。と言っても、ネモフィラは特に気にしない。

 そんなネモフィラにランタナが近づき、少し心配そうに視線を向けた。


「ウドローク陛下は小さい女の子に興味があるのだろうか……」

「そうなのですか?」

「ううん。多分気のせいだと……思う。気にしなくていい。それより、何の話をしていたの?」

「それは……内緒です」

「…………」


 一層怪しいとランタナは思い、もう見えなくなったウドロークが去って行った方へと視線を向ける。そして、そんな兄を見つめ、ネモフィラは先程の会話を思い出していた。


(幻花森林と言えば、精霊王国の中心です。そんな所で決勝が行われるのですね……。でも、幻花森林には精霊しか入る事が許されない“女神の水浴び場”がありますけど、試合会場にしても良かったのでしょうか……?)




◇◇◇




「陛下。先程お話していた王女が例の……?」

「ああ。聖女のお気に入りさ。彼女を手駒にすれば、聖女に近づく事も簡単だろう」


 社交界の会場を出て、ウドロークと騎士が馬車で移動し乍ら会話する。馬車の中なので周囲に誰もいないからか、ウドロークの顔は先程とは打って変わって微笑みとは程遠い表情をしていて、声も先程より低くなっている。


「しかし、時間が無いのが惜しいな。姫の機嫌が日に日に悪くなっている。最悪の場合を考えて、明日にはネモフィラ殿下を私の虜にして聖女に近づいた方が良いかもしれないな」

「であれば、精霊を使うのがよろしいかと」

「ああ。そのつもりだ。王女と言っても所詮は小娘。好きなものを与えてやれば簡単に落ちるだろうからな」


 ウドロークは怪しげな笑みを浮かべて、窓から外の景色を眺めた。

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