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負けられない戦い

 天翼学園の敷地内にある大図書館。それは驚く程に大きな建造物だった。まるで中世の城を思わせる大きさと外観に驚かされ中に入れば、それとは全く別の造り。受付で入場の許可を行い奥へと進んで目に映った景色は、三階以上もある背の高い天井と、天井まで伸びる本棚にびっしりと並べられた書物の数々。天井からつるされたシャンデリアのような照明が館内を照らし、その光は妙な温かさがあった。よく見れば窓が一切無く、どこを見ても本棚と書物の壁。密封された空間では空気のにごりがあるのではと疑うが、その心配も無く、まるで山頂で呼吸するような清涼せいりょう感。壁や天井ばかりに目がいっていたが、勿論それだけじゃない。床の上にも本棚は沢山あるし、勉強机や個人部屋なども幾つも備わっている。食事をする所やトイレやシャワールームや仮眠室なんてものもあり、そこに続く通路もあった。利用している生徒もそれなりにいて、チェラズスフロウレスの生徒だけでなく他国の生徒の姿もちらほら見える。


「わたくしが想像していたよりも、ずっと大きな所でした」


 図書館でのマナーは静かにする事。この世界でもそれは一緒で、ネモフィラは周囲に迷惑がかからないように小さな声で告げた。すると、それにミアも小さな声で同意する。


「うむ。想像の倍以上なのじゃ」


 未だに驚きが冷めないまま、ミアとネモフィラは自分たちが使う机と椅子を決めて、それぞれに読みたい本を探しに行く。ミアの後ろを歩くクリマーテとヒルグラッセは本には興味が無いらしく、特に変わった様子も無く背後を歩いていたけど、ルニィは少し興味深そうに歩いている。だから、ミアがクリマーテとヒルグラッセもいるし気になる本を探して来ても良いと告げると、ルニィはお礼を言って勤務中には珍しくミアの側を離れた。


「ルニィが持ち場を離れるなんて珍しいですねえ」

「うむ。でも、たまにはえじゃろう。いつも真面目にしてくれておるしのう。それに、ルニィさんはまだ休憩しておらんのじゃ」

「そう言えばそうでしたね」


 おい。こら。と言いたくなるミアの発言に、クリマーテが笑顔で返す。まあ、強制とかそう言うのではなくルニィはいつも自分からしているので、クリマーテの反応もこの程度だろう。

 実際にいつもミアが休憩してはと言っても、結構です。と断られるので、気にしなくていいのは確かである。と言うか、ルニィは基本的に何も無ければ常にミアのお世話をしたがるので、実は側にいない時の方が珍しい。ルニィは片時も離れたくないくらいにはミアが大好きだった。けど、それを知るのはクリマーテとヒルグラッセくらいのものだろう。そして、実を言うとルニィが気になっている本と言うのも、子育ての本とかそう言う本だった。

 さて、それはそれとして、ミアは目的の本が並べられているであろう本棚の目の前にやって来た。しかし、来た途端に、目を大きく見開き驚く事になる。


「聖女の本が一冊も無いのじゃ……」


 そう。ミアが最初に読もうと考えたのは聖女について書かれた書物だった。だけど、いざ辿り着いてみれば本棚の中は空っぽ。本当の本当に言葉通りに一冊も無く、ミアはがっくりと項垂うなだれて肩を落とした。


「やっぱり聖女の本は人気があるんですね。でも、ミアお嬢様が聖女の本に興味を持たれるなんて意外でした」

「授業で習う前に復習もねて、“聖”魔法についても色々調べておこうと思ったのじゃ。“聖”属性の精霊神がおると言うのに、聖女に意味があるかどうかも疑問だったしのう」

「言われてみれば不思議ですよね。“聖”属性の魔法が使えるのが聖女だけでは無かった事が、私としては一番の驚きでした」

「恐らくじゃが、天翼会は何かを隠しておる。しかも沢山じゃ」


 と言っても、その隠し事は全く見当もつかない。考えても時間の無駄と言えるくらいにはお手上げ状態だ。


「ううむ……。こうなれば仕方が無いのじゃ。素直に勉強するのじゃ」


 聖女の本が無いのは最早仕方が無いので、それならばと勉強をする為に資料を集める。と言っても、ミアは一年生の時に必須な勉強内容は既にサンビタリアから聞いているので、その復習が殆どだ。


たつの月に行われる第一回進級試験に合格すれば、二学期からの試験が免除されるんですよね?」

「そうじゃな。だから、授業も自由参加でよくなるのじゃ」

「授業も……。ミアお嬢様が頑張る理由はそれですか」

「当然なのじゃ」


 天翼学園には七月を表すたつの月に、二学期からの授業と試験の免除がかかった第一回進級試験がある。第一回進級試験での成績優秀者が与えられる授業と試験の免除。それは、優秀な成績を修めた生徒だけが許される特権。聖女だろうが何だろうが関係無い。全ての科目を完璧に乗り越えた生徒だけが手にする事が出来るご褒美なのだから。


(第一回進級試験に合格し、二学期からはとがめられる事無く自由気ままにごろごろするのじゃ)


 常日頃からぐうたらしていたいミアにとって、この試験は負けられないのだ!

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