大図書館に行こう
会議室での話も終わり、ネモフィラやサンビタリアと別れて割り当てられた部屋までやって来る。ミアの部屋は寮の最上階にありネモフィラの隣で、広さは前世で通っていた小学校の教室くらいの広さだった。チェラズスフロウレス城で暮らしていた時よりも狭い部屋になったけど、それでも十分広いと言える部屋。部屋には家具がだいたいは備わっていて、ネモフィラを部屋に招待してお茶も楽しめそうだ。トイレとお風呂も備わっていたので、かなりの好待遇と言えるだろう。
「バルコニーの類は無さそうじゃのう」
呟くと、窓の外から景色を眺める。残念ながらバルコニーはついておらず、ただ、窓の下にはお花畑が広がっていて目の保養には役立ちそうだ。
「むむ。もう二時なのじゃ。結構時間が経っておったのじゃな。遅めの昼食でも……いや。ここは食べ歩き出来る物を選ぶのもありかもしれぬのじゃ」
「全く有りではございません。軽い食事であっても、しっかりと椅子に座って食事をして下さい」
「ぬう。ルニィは真面目じゃのう……」
少し拗ねた顔を向けてミアが呟くと、ルニィが笑っていない目でニッコリと笑む。それを見たミアは恐怖で身を震わせ、大人しく座って食事をする事にした。
「では、お持ちしますので少々お待ちください」
「態々持って来んでもワシが食堂に行くのじゃ。それに食事の後は大図書館にも行きたいしのう」
「では先にお召し物を変えましょう」
「うむ」
いつものミアであれば、面倒臭がって衣装の変更を嫌がるだろう。でも、今回は違った。何故なら、今着ているのが制服で、かなり目立つと思っているからだ。ミアは極力目立つのを嫌うので、一人だけ制服と言うのを避けたいのである。素直に従いお着替えするミアに、ルニィも微笑み喜んだ。
そうして遅めの昼食を食べに食堂に行くと、そこにはネモフィラの姿があった。
「フィーラも昼食なのじゃ?」
「あ。ミア。はい。ミアもですか?」
「うむ。軽食で済まして大図書館に行くのじゃ」
「そうなのですね。わたくしもご一緒して良いですか?」
「もちろんじゃ」
大図書館にはネモフィラと行く事になり、二人で仲良く遅めの昼食を楽しむ。食事中には厨房で料理を作ってくれたグテンとカウゴが挨拶に来て、ランチタイムでちりめんじゃこを使った料理を出したら喜ばれた事を報告してくれて、それは良かったとミアも喜んだ。食事が終わると、ミアは侍従をルニィとクリマーテとヒルグラッセだけにして、他の者たちに休憩してもらう事にした。
因みに、ネモフィラは既にルティアとメイクーしか連れておらず、他の侍従は休憩中だった。それでミアが侍従たちへの休憩を思い出したのは内緒である。と言っても、元々入学式の間に休憩していて食事も済ませていたようなので、逆にそんなに休憩を頂いてもと渋られてしまった。が、ルニィが「ミアお嬢様のご厚意だから受け取っておきなさい」と言った事で、渋々了承した感じだった。
「うふふ。ミアと離れるのを嫌がるなんて、ミアは侍従からとても愛されているのですね」
「大図書館に一緒に行きたかっただけだと思うのじゃ」
そんな会話をして仲良く大図書館に向かう二人。大図書館の場所はチェラズスフロウレス寮から二キロ程の場所にあるので、そこそこの距離だ。その途中には天翼会の会員が趣味でやっている畑が広がっていて、ここで収穫した野菜が各寮に配られたりもする。
ミアとネモフィラがその広大な畑を眺めながら歩いていると、ふと、畑の中に学園の生徒らしき人物数人が収穫作業をしているのが見えた。そしてその人物たちを見て、ミアは首を傾げた。
「おかしいのう」
「どうしたのですか?」
「去年の事なのじゃが、試用入園中にここに畑があると聞いて、ワシはこっそり来た事があるのじゃ」
説明を始めたミアの背後で、“こっそり来た”の部分に反応してピクリと眉を動かすルニィ。ミアは一瞬だけ悪寒を感じ取りブルりと体を震わせて、しかし、言葉を続ける。
「その時にここの畑を管理しておった先生に聞いたのじゃが、ここ等一帯は“パインストロベリー”と言う果物が、夏に採れると聞いたのじゃ」
「そうなのですねえ……え? 夏に収穫ですか?」
「うむ。でも、今は春なのじゃ」
ネモフィラも確かにおかしいと思い、もう一度視線を生徒らしき人物たちに向ける。すると、その人物と目がかち合い、逃げ出してしまった。
「あの方々はいったい……」
「畑荒らしかもじゃ」
「畑荒らし……ですか…………」
困った連中もいるものじゃ。と、ミアは困惑するネモフィラを連れて、大図書館へと向かうのだった。




