未曾有の異変
世界に起こる未曾有の異変。それを聞いたブラキは“異変”では無く“危機”じゃないのかと疑問に思い、質問した。すると、ジャスミンは考えるも無く頷き肯定する。
「うん。危機じゃなくて異変だよ。でも、なんで?」
「その違いは何かなと思いまして……」
「ふむ。確かに言われてみると妙じゃのう。世界に危険が迫っておるのであれば、未曾有の危機と表現する気がするのじゃ」
(それに、前回の聖女の誕生は世界の異変、未曾有の危機から世界を救う為だと言っておったのう。たまたまなのか、それとも何かあるのか謎じゃが……)
「どちらも同じ事では無いのですか?」
「確かにそうかもしれませんけど、どうにも気になったんです」
ネモフィラの質問にブラキが答えると、リリィがジャスミンに目配せをし、コホンと咳払いを一つして注目を集めた。
「未曾有の異変。天翼会の総意ではないけれど、一番可能性が高いものとして、人以外には“異変”と言う言葉で済まされる事かもしれないと言う意見が出ているわ」
「ふむ。人以外には……? つまり、人類にとって危機であっても、それ以外の……例えば動物たちには異変で済まされる事と言う事なのじゃ?」
「そう言う事よ。ただ、本当に私達にも何が起きるのか分からないのよ。本当に困った事にね」
「ごめんね。だから、ちゃんとしたお返事は出来ないんだよぉ」
「いえ。謝らないで下さい。それを教えて頂けただけでも、とてもありがたい事です」
謝罪するジャスミンにネモフィラが笑顔で答えると、ジャスミンも柔らかな笑みを見せた。この話はここで終わり。誰もがそう思った時だった。
「異変の意味は分からないけど、それって天翼学園……いえ。天翼会に未だに関わろうとしていない国と関係している可能性は無いのかしら?」
不意にサンビタリアが声を上げ、皆の注目を集めた。そしてその言葉に答えたのはモーナだ。
「それは無いぞ。今のところはだけどな」
ネモフィラの護衛である彼女に何故そんな事が分かるのか? それは簡単だ。モーナは天翼会裏会員の暗部班リーダー。正体を隠して行動しているから今は護衛の身を甘んじて受けているが、実際はたかだか一国の王女の護衛をするような人物では無いのだ。そしてそれはサンビタリアも知っていて、その言葉に疑問を抱く事は無かった。
「そう。それなら良いのだけど……」
「あ、あの。ちょっと待って下さい。天翼会と関わっていない国があるのですか?」
ネモフィラが堪らず声を上げたけど、それも当然だろう。天翼学園には世界中から王族や貴族が集められていて、天翼会の管理の下で戦争も起こらず平和が保たれているのだから。
サンビタリアはネモフィラに視線を向けて、真剣な面持ちになる。
「この際だからミアにも知って貰った方が良いと思うから話すけど、学園に通う三十一の国以外にも国は存在するのよ。そしてそれ等の国は天翼会を敵視している傾向にあるわ」
「私達は友好関係になりたいから、何度も話し合いに行ってるんだけどね」
「そうだったのですか……」
「でも、よく考えてみれば何もおかしい事は無いでしょう? だって、チェラズスフロウレスだって私が入学するまでは天翼会と関わり合おうとしていなかったのだもの」
「――っ」
ネモフィラは妙に納得する。
そもそもチェラズスフロウレスが他国と比べて弱小なのは、学園に通い始めるのがつい最近、サンビタリアが通いだすのをきっかけにするまで関わってこなかった事が大きい。天翼学園自体はそれなりに古くからあり、歴史も長い。だから、どうしても昔から学園に通っている国とは差が出てしまう。
ただ、だからと言って他国の侵略は無い。学園に子供を通わせていない国も天翼会は保護の対象としていて、戦争を仕掛ける事を禁じているからだ。だから、ネモフィラも今までそれを疑問に思わなかったし、昔からチェラズスフロウレスも天翼会と関わっていたのだと勘違いしていた。
「言われてみると世界地図には学園に参加していない国の名前が載っておった気がするのじゃ。世界地図なぞ普段使わぬし、国の数など数えぬから気にもしておらんかったのじゃが……」
「ミアは凄いですね。わたくしも世界地図を見た事がありますけど気付きもしませんでした」
「しかし、そうなると、ワシも天翼会に関わっておらぬ国が怪しく思えるのじゃ」
「心配する必要は無いぞ。それに私等裏会員の仕事の殆どが、その関わってない連中の調査だからな。そこは最強リーダーの私が保証するわ」
「ちょっとアンタね。それは秘密でしょうが」
「いいだろ別に。リリィ=アイビーの癖に気にするな」
「だからフルネームで呼ぶのをいい加減やめなさいって言ってるでしょう?」
リリィとモーナが喧嘩を始める。それを横目にジャスミンが苦笑し、ミアに顔を向けた。
「モーナちゃんには後で会長のお説教があるのは別として、ミアちゃん。皆に協力してもらって、特訓頑張ってね」
「ワシの将来の野望の為には仕方が無いのじゃ」
ミアは答えると、元気なく肩を落とした。




