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王女の意外な才能

 魔装ウェポンとは、その持ち主に応じて姿を変え、性能も百人いれば百通り存在する。とは言え、何だかんだと結局は似た性能でかたよるのも事実だ。騎士に憧れる者は剣や鎧のどちらかを一つ。魔導士に憧れる者は杖や魔導書やローブのどれか一つ。医師や神官を目指す者であれば癒しの効果を持つ何かを一つ。形や効果が多少は違っていても似ているし、複数の物に魔装ウェポンが変化したりもしない。それが普通だった。

 しかし、ネモフィラはどうだ? 耳にスーツにコートに翼に槍に盾。あまりにも多すぎるし、今まで見てきた魔装ウェポンのどれとも違う。耳はミアが好きだからと言う意味の分からない理由で生まれた完全な飾りだし、槍も刺突を目的として作られただけで他に特殊な効果が無い完全な物理特化。モコモコなコートやバニースーツの硬度はまだ謎だが、お尻の尻尾はこれまたただの飾りである。そして、盾と翼は今までミアと一緒にいたからこそ生まれた物だ。

 魔装ウェポンで盾を作り出した生徒は今まで沢山いたけれど、その効果がモフモフで吸収だなんて初めて見たし、翼を魔装ウェポンで作り出して飛行すると言う発想も今まで無かった。飛行を試みる魔装ウェポンは勿論あったが、“翼で羽ばたく”と言うイメージが出来なかったのだ。翼をもたないからこそ、空を飛ぶ魔装ウェポンを作る者は翼を避け、浮力を自身に与えるタイプの魔装ウェポンを思い描いていた。

 しかし、ネモフィラは違う。ミアが魔法で作り出した白金はくきんの翼で空を舞う姿を何度も見てきた。だからこそ、憧れ、そして生み出したのだ。


「いや……。本当に凄いね。私の弟子は……」


 ジェンティーレはネモフィラの魔装ウェポンを見て驚き、そして目を輝かせた。ネモフィラの魔装ウェポンは意味のある物から無い物まで含めて、その全てが興味深く、自分の想像を超えたものだったからだ。何より、一つの魔装ウェポンでこれだけの量を生み出した者など、今の今まで見た事が無い。サンビタリアのように三つの力を持つ魔装ウェポンは確かにある。しかし、それも全ては意味のある一つの物として繋がっていたのだから。ネモフィラの魔装ウェポンにはそれが無い。創造者であるジェンティーレすらも、この可能性を知らなかった。

 つまり、これはミアを“王子さま”と呼んで妄想を膨らませるネモフィラだからこそ成し得た偉業。他の誰もが届き得ない一種の才能だった。そしてその意外な才能には他の天翼会メンバーも驚きを隠せずにいた。今この場でネモフィラの才能に気が付いていないのは、本人であるネモフィラだけだろう。


「ミア。どうですか? うさぎの耳と尻尾は可愛く出来ていますか?」

「うむ。ちゃんと可愛いのじゃ」


 いや。バニーガールのような見た目に驚きはしたものの、ミアも気付いていない。既にネモフィラと一緒になって、ここも可愛いこれも可愛いと騒いでいる。


「ふおおお。うさぎの耳も尻尾も触り心地まで抜群なのじゃあ」


 なんて言ってる始末である。するとそんな中、天翼会会長ヒロが「この才能を放っておくのは惜しいな」と小さな声で呟き、ジェンティーレに話しかける。


「ジェンティーレ。確かネモフィラ王女に魔法を教えていたよな?」

「はい。教えています。でも、本人のいる前でこう言っては失礼だけど、フィーラに魔法の才能を期待しない方が良いかな」

「いや。才能が無いのは努力で幾らでもカバー出来るからそれは良い。ジャスミン。ネモフィラ王女への魔法の個人授業をジェンティーレから引き継いでくれないか?」

「え!?」


 ヒロの提案に驚いたのはネモフィラだ。会話はこそこそしていたわけでは無く、普通に聞こえていたのでそれを聞いて、ネモフィラが驚いたのだ。すると、驚いた後直ぐ不安そうに眉尻を下げたネモフィラに、ジェンティーレが優しく笑む。


「心配しないで。これは以前から私が相談していた事に関係していると思うから」

「以前から相談していた事……ですか?」

「ええ」


 ジェンティーレは頷くと、ヒロに視線を向けて頷き合う。そして、次にジャスミンに視線を向ければ、ジャスミンが頷いてから笑顔でネモフィラの側まで近づいた。


「フィーラちゃん。実はね。私、ジェンティーレちゃんからフィーラちゃんが魔法をどうすれば上手く使えるか相談を受けてたの」


 ネモフィラはその言葉に驚いてジェンティーレに視線を向け、ジェンティーレが頷いて言葉を続ける。


「そう。ジャスミン先生は天翼会で最も魔力操作に優れた人なのよ。ジャスミン先生より魔力を上手く扱える人なんて、この世にはいないと言えるくらいに素晴らしいの」

「あはは。それは言い過ぎだと思うなぁ。けど、それなりに私も自信はあるよ。だから、フィーラちゃんの魔法の個人授業を、私にもさせてもらえると嬉しいな」


 強制では無く、あくまでもお願い。それがネモフィラにはとても嬉しくて、いつの間にか不安な気持ちが無くなっていた。だから、ネモフィラは嬉しそうに大きく頷いた。


「はい! わたくしに魔法の使い方を教えて下さい! ジャスミンお師匠様!」

「もちろんだよぉ」


 ネモフィラの笑顔にジャスミンも笑顔で応え、それを見守っていたミアも笑顔になる。まるで今生の別れのように、今までありがとうございました。と涙乍らに話すネモフィラと、それを受け止め優しい笑みを見せるジェンティーレ。そしてそんな中、少し気まずそうにヒロが頑張って声を出す。


「あ、あのさ。それでジェンティーレは代わりにネモフィラ王女に魔装ウェポンの上手な使い方を教えてやってくれないか?」


 どうやら、ヒロ的にはこっちが本題だったらしい。二人の関係が終わったかのような雰囲気に動揺し、本当に気まずそうに話した。そして、それに気がついたジェンティーレは苦笑し、しっかりと「もちろん」と声を出して頷いた。

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