想像力が豊かな王女様
「ミアとジェンティーレお師匠様にそんな過去があったなんて……。そのお話を明日されるのですか?」
「流石に全部はしないよ。話すのは多少の真実と嘘。それから恩人だと言う事だけ。恩人だからミアに魔装を与えた。それだけで十分納得の出来る理由だろう?」
ミアとジェンティーレの出会い。そこに魔装をミアに渡した理由があり、ネモフィラはそれを聞かせてもらった。どうやら天翼会の者たちは既に知っていたようで、話を聞いても何の反応も示さなかった。ミアだけは興味無さそうにお茶とお菓子を頂いていて、話が終わると「終わったのじゃ?」なんてあくびをし乍ら呟いた。
「それじゃあ、今からフィーラに魔装を授与するよ」
「お願い致します!」
受け渡しの為にテーブルから少し離れた場所に移動し、ネモフィラとジェンティーレの二人を囲むようにミアたちが立ち、魔装の簡易授与式が始まった。
まだ所持者のいない魔装は真っ白で半透明な球体。サイズはボーリングのボールと同じくらいで、それなりに大きい物で綿のように軽かった。
ジェンティーレに手渡されて受け取れば、ネモフィラの幼く小さな手に伝わるのは柔らかで温かみのある感触。それは、見た目は艶があるのに、不思議な事に手触りはモフモフな動物のお腹を触ったような感触だった。何だかずっと触っていたくなるそれを、ネモフィラはジェンティーレの指示に従い抱き寄せて魔力を込める。すると、魔装がネモフィラの体内に溶け込むように浸透していき、その姿を消した。
「さあ。フィーラ。君が魔力を込めた時に思い描いた姿を想像してごらん。きっと君の中にある魔装がそれに応えてくれるよ」
「はい!」
ネモフィラは目を閉じて、想像する。そして次の瞬間に、ネモフィラの全身が大きな変化を……いいや。ネモフィラが身に着けていた制服が光り輝き、姿を変えた。
「出来ました!」
「ふぃ、フィーラ。それは……と言うか、なんでバニーガールなのじゃ……っ!?」
「バニーガールとは何でしょうか……? これはわたくしが考えた魔装【うさぎの騎士】です!」
「ら、うさぎの騎士なのじゃあ?」
はい。と言うわけで、ネモフィラの魔装が完成したのだけど、ミアは困惑した。何故なら、それはミアの言った通りの見た目だからだ。と言っても、正確には微妙に違う。
まず、ネモフィラの頭にはうさ耳カチューシャ基“うさぎ耳の冠”がある。これはミアが大好きなうさぎをモチーフにした飾りである。そう。ただの飾りである!
そして次はなんと言ってもミアが驚いたバニースーツ……では無く“水着アーマー”。これは以前ブレゴンラスドでミアと決闘をしたラティノのビキニアーマーを元に想像された鎧? である。
因みに見た目はどう見てもバニースーツで、お尻には可愛らしいうさぎの尻尾が付いている。ネモフィラ的にはビキニ姿は恥ずかしいので、ワンピース型の水着を想像したらしい。と言っても、スカートタイプのものでは無く、本当にバニースーツのような見た目。うさぎの尻尾も、ミアがうさぎ好きだからつけたようだ。そんなバニースーツ基水着アーマーの色はネモフィラの花と同じ鮮やかな青色である。
尚、この水着アーマー。ネモフィラ曰く「動きやすそうで良いと存じました!」が原因の一つだ。水着なら肌の露出が多くても恥ずかしくないらしい。誰だこの子にあんないかがわしい格好を見せた奴は。と言いたくなる。
しかし、多少はご安心? バニースーツ基水着アーマーの上からは、モッコモコなコートを腕を通さずだけど羽織っている。これこそネモフィラの羞恥心をある程度抑えこむ事に成功した“モコモコート”だ。
但し、腕を通す袖の長さは冬もバッチリな感じの十分な長さがあるが、体を覆う部分はへそが丸見えになるであろう短さである。それを腕を通さずに羽織っているだけなので、肩しか隠れていない。正直な話、どうやって固定されているのか謎である。
続いて背中からは、ミミミの翼の形をした耳によく似た翼。その名も“ミミミフェザー”。それは背中から直接生えているわけでは無く、魔力の結晶が翼の形をして二三ミリ程離れた位置から宙を浮いている。しかし、それはしっかりとした機能を持っていて、所持者であるネモフィラに飛行を可能とさせる力を持つ。
お次は右手に持つ自分よりも大きな槍“ニンジンランス”。名前通りに色のせいで見た目が人参のようで、刃物が付いていない円錐型の形をした槍。敵を突き刺すのに特化した武器である。
最後に左手に持つのはモッフモフな見た目の“モフモフの盾”。まん丸な形で、構えればネモフィラの体が隠れる程の大きさ。防御力が薄そうな見た目な盾だけど、その効果は中々に優秀で、あらゆる衝撃をモフモフでフワッとカバー。これはミアの持つ魔道具ワタワタが参考になっていた。
因みに、靴と靴下は魔装では無く変身する前の物と同じなので、学園指定のパンプスとニーハイソックスのままである。
「以上がわたくしが想像して、思い描いた魔装うさぎの騎士です!」
自信満々に自身の魔装を説明したネモフィラは、それはもうとっても良い笑顔だった。




