天翼会の重役の自己紹介(1)
誕生日の日に受け取った鍵で進んだ先にあった会長室。室内は教室より一回り小さい程の大きさで、会長室と考えれば大きすぎる程だった。入る時は厳重だったにも関わらず、何故か窓もたくさんあり陽の光が部屋を照らしていて、窓が開いているおかげで気持ちのいい風が頬を掠める。食器棚や本棚などの家具あり、なんならキッチンまでついていた。会長室と言う単語を微塵も感じさせない部屋。
そんな場所にラテールの案内でやって来たミアとネモフィラを待っていたのは、天翼会の重役たち。そしてそこには、魔装開発者であるジェンティーレの姿もあった。
ミアがジェンティーレまでいる事に驚いていると、出迎えてくれた会長ヒロが宙を舞い、そして待っていた重役たちの許に飛んで行く。するとそこには茶菓子等が置かれたお洒落な机があり、その机の上にはジャスミンと契約している精霊たちと精霊神シャインの姿があった。
「ミアちゃんとフィーラちゃんいらっしゃーい! さあ、おいでおいで」
そう言って声を上げて手を振ったのはジャスミンだ。その隣にはリリィもいて微笑んでいる。ラテールが宙に浮いてミアの頭から離れて、他の精霊たちの許まで飛んで行く。
ミアとネモフィラは顔を見合わせて頷くと、ゆっくりと歩き出した。
「今日君達を呼んだのは他でも無い。お近づきの印にお茶でもどうかと思ってね」
なんてジェンティーレが冗談めかしに話すので、ミアが本当かどうか疑うようにジェンティーレを睨む。すると、ジャスミンが苦笑し乍らミアとネモフィラを椅子に座るように促し、二人が座ると他の重役たちも座り出した。
そうして皆が席についたわけだけど、ヒロを含めて精霊は全員が机の上に直接座っている。ミアとネモフィラを入れて椅子に座るのは三十六人。机は楕円の形をしていて、全員が机を囲むように座っている。ミアの隣は左にネモフィラで、そのまた左にジェンティーレ。右側がジャスミンで、そのまた右がリリィだった。
そして、右隣に座ったジャスミンが、ニコニコし乍らミアとネモフィラに顔を向けた。
「二人とも制服が凄く似合ってて可愛いよぉ」
「あ、ありがとうなのじゃ」
「ありがとう存じます。ジャスミン先生」
「うんうん。私の見立ては間違いなかったね」
何やら満足しているジャスミンと、その隣で一緒にニコニコしているリリィ。いきなり世間話を始めたジャスミンだったけど、それをする為に集められたわけでは無い。直ぐに咳払いが聞こえて、ジャスミンが「あ」と声を上げて静かになった。そして、ヒロが苦笑してミアとネモフィラに体を向ける。
「改めて、いらっしゃい。ミア、ネモフィラ」
「うむ」
「お招き頂きありがとう存じます」
「既に顔見知りだったり入学式で知ったりと思うけど、改めて自己紹介からするな。それでまず俺から。俺は天翼会の会長と天翼学園の学園長をしている精霊神ヒロだ」
ヒロは名前を名乗ると、隣に立っているシャインに視線を向けた。シャインはヒロと目を合わせてから微笑んで、ミアたちに視線を移して軽く会釈する。
「私はヒロくんの妻の精霊神シャインです。学園での立場は学園長夫人で役職は無いけど、天翼会の立場では会長補佐です」
「次は私ね」
シャインが自己紹介を終えると、ミアの隣に立っていたジャスミンが椅子から降りて立ち上がる。そして、ミアとネモフィラに体を向けてカーテシーの挨拶を披露し、その間に机に座っていたラテールたち精霊が集まりだす。
「私は天翼会副会長とチェラズスフロウレス寮寮長を務めるジャスミン=イベリスだよ。そして、天翼会の制服と、ミアちゃんとフィーラちゃんの制服のデザイナーなのです」
生徒たちから親しみを込めて“お子さま先生”と呼ばれている先生ジャスミン。隣に座っていたミアの目に映る彼女の姿は少女そのもので、三十センチもあるだろう厚底の靴で身長を割増しても、尚も小さきその身長は百四十にも満たない。そんな彼女が、えっへん。と鼻を高くし、無い胸を張ってドヤ顔になるものだから、それが妙に可愛らしいものに見えた。




