鍵の使いどころ
入学式の放課後。ラテールの案内で学園内を歩き、ミアとネモフィラたちは“関係者以外立ち入り禁止”と書かれた表札のある扉の前までやって来た。その扉は結界が張られて鍵もかかっていて、そこでミアが持っていた鍵を使う……と言うわけでは無い。
ラテールが用意していた鍵で扉を開け中に入る事になったのだけど、その鍵にはちょっとした魔法がかかっていて、鍵を使うと結界まで同時に剥がれる。その様子にミアたちが驚いていると、ラテールが振り向いて「勝手に入られると困る場所は全部同じ造りです」と説明してくれた。
そうして扉を開けて中に入ると、そこは何の変哲もない物置部屋だった。
「いっぱい物が置いてあるのう。本当にここなのじゃ?」
「見た事が無い物がたくさんありますね」
二人が周囲を見回して口々に話していると、ラテールが扉を閉めて鍵もかける。すると、解かれていた結界が再び張られた。
「よく見るです。入って直ぐ左の方に扉があるです」
「入って直ぐ左……のじゃ?」
視線を向けるも、そこにはよく分からない何かの山。しかも無造作に置かれていて、正直ミアは扉の事よりも片付けろと言いたくなる。しかし、そんな中、ネモフィラが何かに気がついて近づいた。
「ミア。見て下さい。ここにミアが持っている鍵と同じ大きさの穴があります」
「のじゃあ?」
ミアも近づいて見てみれば、確かに壁に小さな穴が一つ。試しに何か見えるか覗き込んだけど、残念ながら何も見えなかった。すると、背後からラテールに「何してるです?」と呆れたような声で尋ねられた。
「覗き穴っぽかったから覗いてみたのじゃ」
「何か見えたのですか?」
「何も見えんかったのじゃ」
「見えるわけないです。アホな事してないで、さっさと鍵をそこにはめるです」
促されてしまったので、ミアは誕生日の日に受け取った鍵、大豆サイズの魔石を取り出す。魔石は元々透明で色の無い魔石だったけど、今ではミアの魔力を吸収して白金に輝いている。
教室でラテールに見せた時に周囲を気にしてこそこそしていたのは、その白金の光が理由だった。こんな物が万が一にでも誰かに見られてしまえば、それこそ大騒ぎになってしまう。入学式でチェリッシュに向けられた視線を思い出せば、それはミアにとって何よりも恐ろしい事だった。
「入ったのじゃ。――っおお」
魔石をを穴にはめ込めば、その直後に穴から白金の光が飛び出し、その穴を中心に白金に光り輝く魔法陣が展開されていく。ミアとネモフィラは体が自然と動いて三歩程後ろに下がり、その様子を眺めた。すると、直ぐに穴が大きく広がっていき、上へと続く階段が現れた。
「この先が天翼会の会長兼天翼学園の学園長がいる会長室です。ここから先はミアとネモ以外の立ち入りは禁止です。侍従たちはここで待っているです」
ミアとネモフィラが驚いていると、ラテールが二人の背後にいる侍従たちに話し、待機を命じる。侍従たちは主である二人を心配したけど、拒む事も出来ないので受け入れるしかない。少し躊躇いながらもラテールの言葉に了承して、ミアとネモフィラを見送る事にした。
階段を上る事になったのはミアとネモフィラとラテールのみ。と言っても、ラテールはここまでの案内が終わると一仕事終えたような顔になり、ミアの頭の上に降り立ち寝転がったのだけど。
「後は階段を上ってその先にある扉を開けるだけです。さっさと行くです」
「う、うむ」
「うふふ。ラテール先生、お疲れ様です。ご案内ありがとう存じます」
「よきにはからえです。それから鍵を回収してから上に行けです」
「うむ」
(しかし、まさか会長室に入る為の鍵だったとはのう……)
なんて事を考え乍ら、白金に輝いているおかげで分かりやすい鍵を壁から回収して階段を上って行くと、上った直ぐそこに扉があった。ミアとネモフィラは顔を見合わせて頷くと、まずは扉を叩いて訪問の合図をする。すると、扉の向こう側から「どうぞ」とシャインの声が聞こえたので、ミアがドアノブを掴んで扉を開けた。
「ようこそ。天翼学園会長室へ」
扉を開けた先で出迎えてくれたのは、手の平サイズの二頭身、精霊神である天翼会会長兼学園長のヒロと“聖”属性の精霊神シャイン。その背後には、この学園の副園長と寮長を兼任している先生たちの姿があった。そして、ジェンティーレの姿もあり、にこやかな笑顔を向けてミアに小さく手を振った。




